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#87【ロード・オブ・ザ・リング】ep.1「王道ファンタジーだからこそ理論的に」

※この記事はPodcast番組「映画にみみったけ」内のエピソード#87にあたる内容を再編集したものです。

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【ロード・オブ・ザ・リングについて】

 2001年公開
 監督:ピーター・ジャクソン
 音楽:ハワード・ショア

作曲家紹介

 ハワード・ショアさんは、カナダ出身の作曲家であり、映画音楽家です。
 バークリー音楽大学に在籍していたとのことなので、僕にとっては大先輩に当たりますね。
 有名作ですと、ロード・オブ・ザ・リング三部作や、ヒューゴの不思議な発明、羊たちの沈黙、サブスクリプションでやる予定のセブンなど、数多くの有名作と幅広いジャンルの楽曲を手がけています。
 その中でもロードオブザリングシリーズではアカデミー賞作曲賞やグラミー賞映画音楽作曲賞を受賞されるなど、彼の人生に大きく関わった作品といえます。
 もちろん紹介しきれていないだけで70以上もの映画作品を手掛けています。
 彼の作風は独創的かつ心に訴えかけるような感動的な作曲を得意として、数々の映画に深い魅力と感情を与えています。

作曲家作品

 スキャナーズ
 ザ・フライ
 羊たちの沈黙
 裸のランチ
 フィラデルフィア
 ミセス・ダウト
 エド・ウッド (ロサンゼルス映画批評家協会賞 音楽賞)
 セブン
 ザ・セル
 ロード・オブ・ザ・リング (アカデミー賞 作曲賞)
 ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔 (グラミー賞 映画音楽作曲賞)
 ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還 (アカデミー賞 作曲賞、歌曲賞)
 ホビット 思いがけない冒険、竜に奪われた王国、決戦のゆくえ
 ギャング・オブ・ニューヨーク
 アビエイター
 ディパーテッド
 エクリプス/トワイライト・サーガ
 ヒューゴの不思議な発明

登場人物

 フロド・バギンズ:
 ホビットの青年。ビルボから指輪を受け継ぐ。
 
 ビルボ・バギンズ:
 フロドの養父。指輪の前所有者。
 
 サム・ギャムジー:
 フロドの家の庭師で、フロドの友人。
 
 メリー&ピピン:
 フロドの友人で、旅に同行する。
 
 ガンダルフ:
 放浪の旅をする魔法使い。
 
 アラゴルン:
 サウロンを倒したイシルドゥアの子孫。
 
 レゴラス:
 闇の森のエルフ王の息子。
 
 ギムリ:
 ドワーフの戦士。
 
 ボロミア:
 城郭都市ミナス・ティリスの大将。
 
 ゴラム:
 以前の指輪の所持者だったホビット。
 
 サルマン:
 力のある魔法使い。堕落してサウロンに従う。
 
 サウロン:
 かつて世界を恐怖に陥れた冥王。

あらすじ

 遠い昔、冥王サウロンは強力な魔力を持つ「ひとつの指輪」を作り上げました。
 そしてその指輪の力を使い、サウロンは中つ国へと侵攻をはじめたのです。
 しかしそんなサウロンに立ち向かう者たちがいました。
 エルフと人間の同盟軍はサウロン相手に必死に抗戦し、そして最後にはサウロンの指を切り落とし勝利を収めたのでした。
 ですが指輪にはサウロンの邪悪な意志が宿っていました。
 そして川に落ちた指輪はその後、持ち主を変えながらも存在し続けたのです。
 それから時は流れ、60年後。
 ホビットのビルボさんは111歳の誕生日を迎え、彼の住むホビット庄には旧友の魔法使い・ガンダルフさんも訪れていました。
 ビルボさんは友人との再開を喜び、そして自分は旅に出るつもりだと語ります。
 やがて皆の前で誕生日のスピーチをすることになったビルボさんですが、スピーチの終わりで別れを告げると、そのまま魔法の指輪をはめて突然姿を消してしまいます。
 これを不審に思ったガンダルフさんは、ビルボさんの部屋で彼を問い詰めます。
 扱いの難しい魔法の指輪を置いていくようにさとすガンダルフさんですが、ビルボさんは指輪に異常なほどの執着を見せます。
 これを見てなにかに気づいたガンダルフさんはビルボさんをなんとか説得し、指輪は養子であるフロドさんに託されることになりました。
 その後指輪について調べるため図書館を訪れるガンダルフさん。
 やがて村へ戻ってくると、指輪を暖炉に放り込みます。
 すると指輪には闇の国の言葉が浮かび上がってきました。
 この指輪こそが、サウロンの残したひとつの指輪だったのです。
 いまだにサウロンの魂は生き続けており、復活のため指輪を探していると語るガンダルフさん。
 指輪を破壊するためには、モルドール国にある滅びの山の火口に投げ込むほかありません。
 そしてサウロンはすでに指輪を探す追手を放っており、すぐにでも旅に出る必要がありました。
 こうして指輪を捨てるため旅立つことになったフロドさんは、偶然話を聞いてしまったサムさんとともにモルドールを目指します。

【はじめに】

 言わずと知れた王道ファンタジー作品ですね。
 この映画がきっかけで3部作の映画が多く登場したように記憶しています。
 エルフやドワーフ、ホビットという架空の種族が登場して、まさにファンタジーの世界観を楽しみながらストーリーも楽しめるそんな作品ですね。
 今回取り上げるのはその1作目であるロード オブ ザ リング(原題:ロード オブ ザ リング ザ フォローシップ オブ ザ リング)ですので、残り2作(ロード オブ ザ リング/二つの塔、同名/王の帰還)を見ることで完結します。
 当たり前ですが、1作だけみると続きがものすごくみたくなってしまうのですが、それはまたいずれ機会があれば取り上げたいと思います。
 世界観もさることながら、やはり音楽、これがまたとても「繊細」に映画に寄り添っていて素晴らしいですね。
 今回もそんな素晴らしいロード オブ ザ リングの音楽の世界を話していきたいと思います。

【明確な状況におけるジャンルの書き分け】

 ということで今回は、明確な状況におけるジャンルの書き分けについて見ていこうと思います。
 なんか真面目そうな感じに聞こえますが、そんなことはなくて「観客の感情」と「映画内で置かれている状況」を音楽で書き分けることで、場面の説明にも感情の表現にも用いています。
 それが大きくわかるのが、戦闘シーンです。

戦闘シーン内で変化する音楽

 この映画は「戦うことには向いていないホビット族」が「指輪を守りながら旅をする」というのが基本的なスタイルです。
 そしてその重要な指輪を狙って敵の猛攻を受けるわけです。
 それだとただ逃げるだけになってしまいますが、その指輪を死守してくれる仲間が登場します。
 魔法使いのガンダルフさんや人間族のアラゴルンさんにボロミアさん、エルフ族のレゴラスさんにドワーフ族のギムリさんが主人公であるホビット族のフロドさんの護衛を務めてくれます。
 ホビット族のサムさん、メリーさん、ピピンさんも旅に同行してくれますが、戦いにおいては当てにならないので戦力になる感じではないですね。
 そこに指輪を狙う敵として登場するのが、サウロンの下僕である指輪の幽鬼、黒の乗手であったり、白の賢者サルマン、サルマン率いるオーガ軍や悪鬼バルログなど、とにかくめちゃつよの敵がたくさん登場します。
 ここで先ほど話した戦闘シーンが重要になってきます。
 旅の始まりはフロドさんとサムさん、途中でメリーさんとピピンさんが同行するので、ホビット族4人は、戦闘する術を持っていません。
 そんなホビット4人組を襲う敵はサウロンの下僕である指輪の幽鬼、黒の乗手です。
 倒すことも、追い払うこともできない強敵登場ですね。
 これは逃げるほかありません。
 というわけでここでの音楽はホラーです。
 多少のアクション要素もあるのですが、ホラーに重心が置かれています。
 その後、フロドさんは転んだ拍子に誤って指輪を装備してしまい、黒の乗り手に位置がバレてしまいます。
 そのことが描かれるシーンではホラーと神秘の音楽が使われています。
 この後から人間の騎士アラゴルンさんがホビット4人組に合流します。
 旅は再び始まるのですが、ちょっとした気の緩みからまた黒の乗り手に場所がバレてしまいます。
 この時、見回りに行ってしまったアラゴルンさんから、ホビット4人組は護身用の剣を一人ずつ渡されています。
 そのため、この時黒の乗り手に襲われた時はアクション音楽にホラーの要素が追加された方向性に変わっています。
 アクション音楽に重心が置かれているんですね。
 これは剣を持つことが勇気にもつながり、戦うという可能性を匂わせるというか、想起させています。
 その後、見回りに行っていたアラゴルンさんが帰ってきて、黒の乗り手と戦う時にはアクション音楽になっています。
 ちなみにここでのホビット4人組は護身用の剣を持ってほぼ戦わずに逃げまわってしまうのですが。

 というように本当に細かくて、普段なら見逃してしまいそうな文学的な仕掛けがとても多く登場します。
 さすがアカデミー賞 作曲賞といった感じですね。
 時間の経過と置かれている状況で、音楽を変化させることがとても効果的に映ります。
 これは時間が経過したことで起きる変化を音楽に昇華させた例ですね。
 このようにこの映画は音楽の書き分けがとてもしっかりしている映画です。

キャラクターによる音楽の書き分け ホビット

 それは場面だけではなく、キャラクターにまで及びます。
 例えばホビットという種族です。
 キャラクターとしては、平和と食事を好む牧歌的な暮らしを営む種族です。
 ですので、ホビットの住む村では牧歌的な歌や楽曲が多く登場します。
 そして道中でのホビット族の登場には、コメディの要素を取り入れた楽曲が演奏されています。
 これは戦いには不向きだけれども、明るく前向きな彼らのキャラクター性が音楽に反映されているということです。
 映画を見返した方は特に感じると思うのですが、これでもかというくらいホビットの登場時に雰囲気を変えます。
 これがこの映画のいいところですよね。
 このホビット族という存在が、ダークファンタジーのヘビーになりすぎる空気感を軽やかにして、恐ろしい時とのギャップにも一役買っています。
 ですので、主人公がホビット族じゃなかったら、かなり趣の違う作品になっていますよね。
 ストーリー的にも音楽的にも相対的にバランスを取っているのは、ホビット族によるところが大きいですね。

キャラクターによる音楽の書き分け エルフ

 次にわかりやすいのが、エルフ族です。
 エルフ族は男女ともに非常に美しく、肉体的にも精神的にも極めて強靭かつ繊細で、エルフの作ったものは魔法めいた性質が帯びるそうです。
 そして病気にかかることも老いることもなく、寿命もないそうです。
 そんな聡明かつ人智を超えた存在のエルフ族には神秘的な音楽が当てられます。
 エルフの住む里が登場した時も、エルフ族が登場した時も神秘的な音楽が演奏されます。
 これも意図的にハッキリ書き分けていますね。
 もちろん映画の世界観的に神秘的な音楽が登場するのですが、この映画に関しては神秘的なホラー音楽にするか、神秘的なバラードにするかなどで、ハッキリさせています。
 例えばですけれども、ホワイトボードかなんかに、相関図のようなものを作って、種族と立ち位置、状況などを書いて「エルフ族の味方が助けに来る」というワードが書かれたマグネットをペタペタ貼って、音楽の方向性を考えたんじゃないかなと思うくらいに明確にかき分けています。

 これらはキャラクターだったり、置かれている状況などの外面的な音楽の書き分けだったのですが、内面的な音楽の書き分けもされています。
 内面的とはどのようなことかというと、ポジティブな感情やネガティブな感情であったり、勇気であったり、感情的な表現もかなりハッキリ書き分けられています。

【内面的な音楽の書き分け】

 ということで、内面的な音楽の書き分けについても見ていこうと思います。
 今回映画の根幹にも関わるような内面的な要素としては、ポジティブとネガティブの書き分けが非常に顕著です。
 この映画、ファンタジーの中でも暗めの世界観です。
 力のある邪悪な指輪があることで、その力に惑わされた人間が亡者になったり、その力に魅せられた賢者が襲ってきたりと、明るいファンタジーというよりかは、暗いファンタジーです。
 ここでは一旦これをダークファンタジーと呼びます。
 そんなダークファンタジーな世界観では、ネガティブな印象の楽曲が多く演奏されます。
 ネガティブな印象の楽曲とはmin調で書かれた楽曲ですね。
 怖い、悲しい、寂しいなどネガティブな感情を抱きやすい楽曲がこの映画では多く採用されています。
 その中で、ポジティブな印象の楽曲というのが、たまに演奏されます。
 それは先ほど話した外面的なホビット族やエルフ族だったり、ホビット族の村だったりがひとつですが、内面的な要素でポジティブな楽曲が演奏されることもあります。
 それは、圧倒的に不利な状況でも勇気を持って立ち向かった時です。
 今回使われているポジティブな楽曲はヒロイック(英雄的)バラードかポジティブバラードのどちらかです。
 ポジティブなバラードは愛を感じるシーンで演奏されます。
 それは家族愛であったり、恋愛であったり、友情であったりが演奏の動機になっています。
 ただ、ここではヒロイックなテーマの使われ方がおもしろいので、そちらを見ていきます。

ヒロイックなテーマ シーン1

 38:00
 フロドさんの旅に同行するサムさんが急に立ち止まり、ここから一歩踏み出せば行ったことのない土地になりますというシーンです。
 ここは非常に印象的なシーンですが、サムさんにとっては勇気のいる行動になったわけですね。
 フロドさんを守るメイを受けたサムさんの勇気ある一歩が、ヒロイックなバラードを演奏させているわけですね。
 このパターンで、旅立ちのタイミングでヒロイックなバラードがよく演奏されます。

ヒロイックなテーマ シーン2

 フロドさん達の旅は当初、エルフの里に指輪を置いて旅は終わる予定だったのですが、敵が強すぎてエルフの軍でも止められないということで、指輪はエルフの里に置けないことが決まります。
 そのため指輪を消滅させるための新たな旅が始まります。
 それが
 1:35:38
 エルフの里から旅立つシーンです。
 9人で広大な大地を闊歩するシーンですが、ここではヒロイックテーマが演奏されます。
 ここで演奏されているのはメインテーマと言える映画でもよく登場するテーマなので、詳しくは次回やろうと思います。
 とにもかくにも、新たな旅の始まりでもやはりヒロイックな楽曲が演奏されています。

ヒロイックなテーマ シーン3

 そして
 1:52:34
 ドワーフの地下宮殿に到着したシーンです。
 この手前ではどっちに進むかの2択でガンダルフさんが悩んだ挙句、匂いがどうとか言って道を決めた先にあるのがこの地下宮殿です。
 一旦足止めしたものの、やはりまた旅立つ時にはこのようにヒロイックな楽曲が演奏されますね。
 映像としても圧巻で、先が見えないほど続く柱が立ち並ぶとても美しく力強い場所です。
 ここは楽曲の音量がセリフより大きいので、それだけ映像と音楽が優先されたシーンということですね。

ヒロイックなテーマ シーン4

 次に
 2:25:15
 エルフの森を去るシーンです。
 このシーンでは今までのような大編成の演奏ではなく、エルフの森という事を考慮に入れた、神秘的で小編成なヒロイックな楽曲が演奏されています。

ヒロイックなテーマ シーン5

 最後に
 2:48:30
 このシーンは演奏にふたつの意味がかかっていて、アラゴルンさん達はフロドさん達と別れて、メリーさんとピピンさんを救いに向かます。
 フロドさん達は指輪を捨てにいく旅に出ます。
 この別々の旅が始まることで、ヒロイックなテーマが演奏されています。

ヒロイックなテーマ まとめ

 これらは常にといっていい程、ネガティブで暗い楽曲が演奏されている中、ヒロイックな楽曲が演奏されることで辛く険しい道でも希望を感じさせる作りになっています。
 これが内面的な音楽の書き分けになっているわけですね。
 やはりこの映画の敵はとても強くて数が多いです。
 そんな割とにっちもさっちも行かない状態から旅が始まるのに、それでも旅を続ける勇気だったり、仲間を頼る勇気だったり、強大な敵でも立ち向かう勇気だったりが、非常に印象的に描かれているため、映画の根幹にはそのようなメッセージがあるように感じられます。

【エンディング】

 今回は、明確な状況におけるジャンルの書き分けと内面的な音楽の書き分けについて見ていきました。
 キャラクターや状況に合わせて、わかりやす過ぎるくらいに明確に音楽をかき分けていました。
 それから常に暗い音楽が演奏されている中で、内面的な愛であるとか、旅への希望みたいなものが演奏されることで、非常に際立ってみえてきましたね。
 この明確な楽曲の書き換えがこの映画との相性もよく、1作目としてのキャラクターの書き分けとしても、世界観の説明にしても、非常に機能しているという話でした。
 次回もロード オブ ザ リングの続きと、サブスクリプションでは「セブン」から1曲ピックアップしてやろうと思います。
 サブスクリプションは過去の特別エピソードも聴き放題で初月無料、月額300円で聴くことができます。
 それとポッドキャストのフォローとXのフォローも励みになりますので、よろしくお願いいたします。
 あと映画にみみったけでは、お便りも募集しています。
 info@eiganimimittake.comにてお便りお待ちしております。
 やってほしい映画とか、この回が好きだったなど、どしどしお待ちしております。

 最後までお読みいただきありがとうございました。
 映画にみみったけ、放送時のパーソナリティはヨシダがお送りいたしました。
 podcastのエピソードは毎週日曜日に配信中ですので、そちらでもまたお会いいたしましょう。
 ではまた!


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