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#62【エターナル・サンシャイン】ep.2「略奪にライトモチーフ」

※この記事はPodcast番組「映画にみみったけ」内のエピソード#62にあたる内容を再編集したものです。

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【エターナル・サンシャインについて】

 2004年公開(日本2004年公開)
 監督:ミシェル・ゴンドリー
 音楽:ジョン・ブライオン

登場人物

 ジョエル・バリッシュ:
 主人公。クレメンタインとの記憶を消去する。
 
 クレメンタイン・クルシェンスキー:
 ジョエルの元恋人。ジョエルとの記憶を消去する。
 
 スタン:
 ラクーナ社のスタッフ。メアリーとつき合っている。
 
 パトリック:
 ラクーナ社のスタッフ。クレメンタインに近づく。
 
 メアリー:
 ラクーナ社のスタッフ。ハワード博士に憧れている。
 
 ハワード・ミュージワック博士:
 ラクーナ社のトップ。記憶消去手術を考案する。

【前回の振り返り】

 前回は音ではないライトモチーフとSEに与えられたライトモチーフとしての機能についてみていきました。
 映画の特性上唐突な画面切り替えや記憶の中という非現実的な世界の説得力を増すための仕掛けとして非常に巧みに機能していましたね。
 音ではないライトモチーフとは光がライトモチーフとして機能していたという話でした。
 光には恋愛や人間関係といった意味がありましたね。
 SEに与えられたライトモチーフは、記憶の消去に付けられた音でした。
 消去される記憶によって音が使い分けられたという話をしました。

【略奪のライトモチーフ】

 今回は略奪のライトモチーフというちょっと怖い名前のライトモチーフです。
 もう少し細かくいうと、ジョエルさんの記憶を消したクレメンタインさんに、ラクーナ社のスタッフであるパトリックさんが近づく、そんなようなライトモチーフです。
 アップルミュージック エターナルサンシャイン オブ ザ スポットレス マインド サウンドトラック フロム モーションピクチャー 10曲目に収録されている「サイドウォーク ファイト」という楽曲がそうですね。
 一部ですけれどもこのようなメロディでした。
 (演奏)
 この楽曲が映画中盤で登場します。
 映画の大半は記憶の中の映像で、その記憶は新しいものから、どんどん古い記憶へと遡っていくように描かれています。
 これを踏まえてシーンを見ていこうと思います。

略奪のライトモチーフ シーン1

 まずは、
 42:36
 街中でジョエルさんとクレメンタインさんが喧嘩をする記憶のシーンです。
 先ほども言った通り、この映画は記憶を遡っています。
 記憶の中では、すでにジョエルさんとクレメンタインさんは仲が悪く、映画が進むにつれ喧嘩する前の記憶へと進む作りになっているわけですね。
 ですので、このシーンはパトリックさんが直接的に関与しているシーンではないのですが、ジョエルさんとクレメンタインさんが決定的な喧嘩をする初めてのシーンです。
 ですので、このシーンも略奪のライトモチーフが演奏される動機は十分ですね。

略奪のライトモチーフ シーン2

 つぎに、
 47:22
 本屋でパトリックさんとクレメンタインさんが話をしている記憶です。
 この記憶は先ほど言った遡る形式とは少し逸脱した記憶になります。
 記憶を遡っているとすると、パトリックさんが出てくるのは少しおかしいですし、本屋での記憶も新しいはずです。
 ではなぜこのシーンでは記憶を遡っていないかというと、現実の声が聞こえてきて記憶が混同している状態と考えられるからです。
 現実世界のパトリックさんがクレメンタインさんと電話をしていて、その声がジョエルさんに影響を与えて、本屋でパトリックさんと話すクレメンタインさんの記憶が出てきたということですね。
 パトリックさんの顔は思い出せないのですが、クレメンタインさんが自分の記憶を消していることを知る本屋でのやりとりの記憶が出てきているので、その記憶と現実の声がごっちゃになっているのがこのシーンですね。
 直接的にパトリックさんが記憶の中に出てきてクレメンタインさんに近づく初めてのシーンですので、それが演奏の動機になっています。

略奪のライトモチーフ シーン3

 そしてすぐの、
 49:31
 ここでは現実でパトリックさんがクレメンタインさんに会いにいくシーンです。
 ここはもうそのままですね。
 その際クレメンタインさんは取り乱していて、それをなだめるように話を聞くパトリックさんです。

略奪のライトモチーフ シーン4

 最後に
 1:05:20
 幼少期の記憶に逃げたジョエルさんとクレメンタインさんが机の下で話をするシーンです。
 ここでは記憶の中のクレメンタインさんが「朝 まだ覚えていたらやり直そう」とジョエルさんに言います。
 それに対しジョエルさんは「パトリックは僕をコピーしてる」と返します。
 続けて「記憶を消す時 君にホレたらしい」と続けています。
 実際にパトリックさんはジョエルさんがクレメンタインさんにいった言葉を、記憶を消した後に同じことを言ったり、ジョエルさんがあげる予定だったプレゼントをあげたりしています。
 ここまでの演奏はパトリックさんがクレメンタインさんと付き合うためのシーンに起因しています。
 しかしこの最後の演奏をきっかけに現実でパトリックさんがうまくいくことはなく、振られてしまいますね。
 なので、ここでパトリックさんの略奪のライトモチーフは終わります。

略奪のライトモチーフ まとめ

 前回に光のライトモチーフとSEのライトモチーフについて話をした通り、この映画は音楽のライトモチーフがあまり用意されていませんが、この略奪のライトモチーフだけは音楽を用いてとても明確に示されています。
 それだけ、重要な役割としてこの記憶を逆手にとった行為がフィーチャーされていたことがわかりますね。
 まとめると、映画の根幹になるような恋愛に基づいた人間関係と記憶の消去というテーマには別のライトモチーフが付けられ、それを逆手にとった行為には音楽のライトモチーフが付けられていました。
 それぞれ別々のライトモチーフが付けられているのは非常に面白い仕掛けですよね。
 音楽で全てのライトモチーフをつけることも可能ですが、あえて視覚、SE、音楽の3方向からライトモチーフへのアプローチをすることで、染みついた映画の概念からまた新しい一歩を踏み出すそんな斬新なアプローチだと思います。

【映画に寄り添う音楽】

 この映画のライトモチーフについてみてきましたが、この映画がどのように音楽を用いているかを見ていこうと思います。
 もちろん映画音楽はライトモチーフだけではないです。
 ではどのように観客の感情を盛り上げる仕掛けがあったかですが、それはこの映画のストーリーに寄り添うように音楽が書かれていました。
 今回は冒頭の仕掛けと挿入歌の意味、そしてホラーの要素について、どのような仕掛けがあったかを場面に合わせて見ていこうと思います。
 まず、映画冒頭の仕掛けからみていきます。
 この仕掛けは映画の終わりにも繋がる仕掛けです。

テーマ

 0:37
 映画の冒頭はジョエルさんとクレメンタインさんが出会うシーンが描かれています。
 このシーンは映画を最後まで見た方はわかる仕掛けになっていて、
 1:33:35
 と同じなのですが、映画をみた後には違う見え方がするわけです。
 ここで使われているのが、アップルミュージック エターナルサンシャイン オブ ザ スポットレス マインド サウンドトラック フロム モーションピクチャー 1曲目に収録されている「テーマ」という楽曲です。
 一部ですがこういうメロディでしたね。
 (演奏)
 とても穏やかな音楽ですね。
 この音楽はジョエルさんがベットから起きるシーンから演奏されます。
 そして映画終盤の全ての施術が終わり、ジョエルさんがベットから起きるシーンで再度演奏されます。
 終盤では、映画冒頭のシーンにはないメアリーさんのくだりや車を降りた後のクレメンタインさんのシーンなどが追加されていて、今まで見てきた映画を補完してくれています。
 このふたつのシーンが同じシーンであることを表現するために「テーマ」という楽曲が使われているということになりますね。
 これがまずはじめの仕掛けです。

エブリバディズ ガット トゥ リーン サムタイム

 次に挿入歌の意味です。
 17:38
 冒頭のクレメンタインさんとの出会いのシーンが終わった直後、唐突に運転中に号泣しているジョエルさんのシーンに変わり、ベックさんの「エブリバディズ ガット トゥ リーン サムタイム」が演奏されます。
 シーンとしては、号泣しているジョエルさんがカーステレオでカセットをかけている形になるので、音質が少しこもっているようなエフェクトがかけられていますね。
 この楽曲の採用理由は、雰囲気や歌詞に由来しているように感じます。
 悲しげなバラードであることはシーンをみれば一目瞭然ですね。
 さらに苦手な歌詞について少し言及してみると「I need your lovin’(君の愛が必要)like the sunshine(陽の光のように)」という歌詞が登場します。
 陽の光というのはこの映画のライトモチーフとして登場していたので、一貫した意味として捉えられます。
 さらにこの楽曲には「Change your heart(心を変えて)」という歌詞が何度も登場します。
 この意味も記憶を消去する映画のテーマと合っているように感じますね。
 時系列を整理してみると、このシーンの後にジョエルさんは記憶消去の施術を受けるので、クレメンタインさんの記憶がないことが発覚した後ということになります。
 なので、心が変わってしまったという意味が含まれていると考えられます。
 シーンにとても合った楽曲ですね。
 この楽曲はジョエルさんが車からテープを抜くと止まります。
 そしてそのまま流れるように演奏が始まります。
 OST 24曲目に収録されている「メインタイトル」という楽曲です。
 タイトルからも分かる通り、ここでオープニングクレジットが流れます。
 ということは冒頭の映像はプロローグのような構造になっていて、終盤ではエピローグとして機能してることがわかりますね。

ホラー音楽

 最後にホラー音楽の要素です。
 これはホラーといってもわかりやすく恐怖を演出するための音楽ではなく、非常に抽象的な音楽が演奏されることで、不安感を煽る効果があります。
 ホラー音楽はいくつかのシーンで使われています。
 まずは
 20:44
 ラクーナ社から渡された薬をジョエルさんが飲むシーンです。
 ここは映画の時系列的に記憶を消す施術が行われることがまだわかっていないシーンです。
 ですので、観客からすると号泣していた主人公が唐突に自宅で薬を飲み倒れるようにも見えます。
 こう考えると少し怖いシーンに見えますよね。
 実際は言われた通り施術を受けるので、おそらく処方された薬を飲み施術に備えているシーンなのですが、ここでも映画を一度見たかどうかで見え方が変わるシーンです。
 つぎに、
 30:50
 ここで演奏される楽曲がメインになります。
 OST 17曲目に収録されている「ア ドリーム アポン ウォーキング」という楽曲です。
 こんな雰囲気の楽曲ですね。
 (演奏)
 ラクーナ社で記憶を消す施術の説明を受けているシーンです。
 このシーンはすでに記憶の中ですね。
 ここはホラーというほどではないのですが、どこか不安を煽る音楽が印象的ですね。
 このシーンで、クレメンタインさんとの出会いの話をしている時にパトリックさんが書類を落とすシーンがあるのが印象的ですね。
 この楽曲は、
 32:14
 別アレンジで再登場します。
 この時は脳の記憶図なるものをつくるシーンなのですが、クレメンタインさんとの思い出の品が目の前にどんどん置かれ、記憶を頭の中で想像していきます。
 この後も記憶の中の自分に遭遇したりと、どんどんめちゃめちゃになっていきます。
 しかしここでの不安な音楽は記憶の中に限定されています。
 ですので、施術の準備をしている現実のシーンでは別の楽曲が用意されていることから、ジョエルさんは記憶の中であることを忘れて、とても不安な気持ちになっているということになりますね。
 その後、
 36:49
 ここで現実では起こらないような変なことがたくさん起き始めます。
 クレメンタインさんと言い争いをしていたかと思えば、クレメンタインさんが突如消えたり、べつの場所に出てきたりと観ていても少しホラーのようなシーンですね。
 ただこの映画の面白いところで、施術している現実に唐突に帰ってきます。
 ですので、ジョエルさん以外のシーンでは、一気に現実に引き戻してくれるので、少し怖いシーンでもコミカルに観ることができます。
 その後も記憶の中に戻って、
 38:30
 出ていってしまったクレメンタインさんを引き留めにいくシーンです。
 この時も車が突然クラッシュしたり、道が堂々巡りしてしまったりと変なことが起きます。
 ここでおかしな現象に気づき始めます。
 ここがホラーの最後ですね。
 この後は、パトリックさんの略奪のライトモチーフのパートに入り、その後これが記憶の中であることに気づいて、ホラーの要素は無くなっていきます。
 ということは、ホラーの要素は映像的な違和感とジョエルさんの不安感を合わせた意味として捉えることができるわけですね。
 ですので、ジョエルさんの感じる不安感と映像的な違和感という近い感情を引き立てるためにホラー音楽の要素が取り入れられ、ジョエルさんに感情移入しやすくしていた、ということになります。
 これは新しいですよね。
 様々な感情移入の方法がある中で、近しい感情を与えることで、間接的に主人公に感情移入させる方法はこの映画ともマッチしていますし、ミシェルゴンドリー監督の作家性にもマッチしています。
 とてもうまくいっています。

【エンディング】

 というわけで、冒頭の仕掛けと挿入歌の意味、そしてホラーの要素を見てきました。
 冒頭はプロローグとしての機能を果たしていて、最後のエピローグでは同じシーンが描かれていても違う見え方がする構造になっていました。
 はじめと同じシーンであることを表現するために同じ「テーマ」という楽曲が演奏されていましたね。
 挿入歌では楽曲の雰囲気と歌詞から、親和性の高い「エブリバディズ ガット トゥ リーン サムタイム」という楽曲が用意されていました。
 ここで、観客は映画のどこを注視すべきか、わかるわけですね。
 そして、ホラー音楽の要素では、映像的な違和感とジョエルさんの不安感の近似値としての感情を映像と音楽でマッチさせて感情移入させる方法が見事でした。
 映画後半部記憶のシーンの音楽の構造は、シーンに合わせた音楽が用意されています。
 どうせならその続きをサブスクリプションでやろうと思うので、興味がありましたら初月無料ですので、ぜひ聞いてみてください。
 というわけで、2回にわたって映画「エターナルサンシャイン」をみてきました。
 映像もさることながら、脚本も見事でしたね。
 いまだに根強い人気を誇るエターナルサンシャインですが、その懐の深さがわかる回になりました。
 ということで、サブスクリプションでは別作品として「プーと大人になった僕」の楽曲を深掘りしているので、ぜひ聴いてみてください。
 次回は「スターウォーズ ファントム・メナス」をやっていこうと思います。
 サブスクリプションでも何度か取り上げた作品ですが、今回は映画丸ごとみていこうと思います。
 サブスクリプションとは内容は被らない予定ですので、ぜひ楽しみにしていてください。

 最後までお読みいただきありがとうございました。
 映画にみみったけ、放送時のパーソナリティはヨシダがお送りいたしました。
 podcastのエピソードは毎週日曜日に配信中ですので、そちらでもまたお会いいたしましょう。
 ではまた!

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