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#73【ズートピア】ep.1「クライムサスペンスなライトモチーフについて」

※この記事はPodcast番組「映画にみみったけ」内のエピソード#73にあたる内容を再編集したものです。

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【ズートピアについて】

 2016年公開
 監督:リッチ・ムーア、バイロン・ハワード、ジャレド・ブッシュ
 音楽:マイケル・ジアッチーノ

作曲家紹介

 マイケル・ジアッチーノさんはアメリカの作曲家で、テレビゲームを始め映画やドラマ音楽をよく担当されています。
 音楽性はオーケストラにバンド形式の編成をうまく織りまぜることで、劇伴に新たな風を吹かせた一人です。
 寄り添うような親密なバラードから壮大で神秘的な楽曲まで幅広くこなし、中でもアクション音楽ではドラムやギター、ベースを混ぜることで、唯一無二の迫力やロックなテイストで人気を博しています。
 このポッドキャストでもスパイダーマン・ノー・ウェイ・ホームで取り上げました。
 そんな現在活躍中の音楽家の一人です。

作曲家作品

 Mr.インクレディブル
 インクレディブル・ファミリー
 ミッション:インポッシブル3
 ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル
 レミーのおいしいレストラン(第35回アニー賞音楽賞受賞)
 スター・トレック(2009年)
 スター・トレック イントゥ・ダークネス
 スター・トレック BEYOND
 カールじいさんの空飛ぶ家(第82回アカデミー賞作曲賞受賞、第52回グラミー賞最優秀インストゥルメンタル作曲賞受賞)
 カーズ2
 SUPER8/スーパーエイト
 猿の惑星: 新世紀
 猿の惑星: 聖戦記
 ジュラシック・ワールド
 ジュラシック・ワールド/炎の王国
 ジュラシック・ワールド/新たなる支配者
 インサイド・ヘッド
 ズートピア
 ドクター・ストレンジ
 ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー
 スパイダーマン:ホームカミング
 スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム
 スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
 リメンバー・ミー
 THE BATMAN-ザ・バットマン-
 バズ・ライトイヤー
 ソー:ラブ&サンダー
 
 (テレビゲーム音楽)
 ロストワールド:ジュラシックパーク
 ジュラシック・パーク:カオス・アイランド
 メダル・オブ・オナー
 メダル・オブ・オナー:アンダーグラウンド
 メダル・オブ・オナー:アライド・アサルト
 メダル・オブ・オナー 史上最大の作戦
 メダル・オブ・オナー ヴァンガード
 メダル・オブ・オナー エアボーン
 コール オブ デューティー
 コール オブ デューティー:ユナイテッド オフェンシブ
 コール オブ デューティー ファイネストアワー
 マーセナリーズ

登場人物

 ジュディ・ホップス:
 ウサギの新米警察官。
 
 ニック・ワイルド:
 キツネの詐欺師。
 
 フィニック:
 フェネック。ニックと共謀してアイスを製造する。
 
 フラッシュ:
 ニックの友人のナマケモノ。免許センター職員。
 
 エミット・オッタートン:
 カワウソ。ある日突然行方不明になる。
 
 デューク・ウィーゼルトン:
 イタチ。花屋から球根を盗む。
 
 ミスター・ビッグ:
 トガリネズミ。マフィアのボス。
 
 ダグ:
 「夜の遠吠え」から薬品を製造する羊。
 
 ボゴ署長:
 ズートピア警察署(ZPD)署長の水牛。
 
 ベンジャミン・クロウハウザー:
 ZPDの受付のチーター。
 
 レオドア・ライオンハート市長:
 ズートピアの市長のライオン。
 
 ドーン・ベルウェザー副市長:
 市長の補佐役を務める羊。

あらすじ

 動物たちが進化し、肉食動物と草食動物が共に暮らすようになった世界。
 ウサギとしては初めての警察官となったジュディさんは、どんな夢でも叶えられるというズートピアの街に配属されます。
 その頃ちょうどズートピアの街では肉食動物ばかりが行方不明になる事件が発生していました。
 しかし小さなウサギのジュディさんは駐車違反の取り締まりを命じられ、捜査には参加させてもらえません。
 不満を感じながらも仕方なく取締をするジュディさんでしたが、その最中に彼女はキツネのニックさんに出会います。
 子供を連れたニックさんはゾウの店で子供にアイスを買ってやろうとしていたのですが、キツネであることを理由に拒否されていたのです。
 見かねたジュディさんは間に入りアイスを買えるようにしてやるのですが、その後街で再び見かけたニックさんはアイスを小分けにして転売していました。
 自分が騙されていたことに気付くジュディさん。キツネのニックさんは詐欺師だったのです。
 翌日。意気消沈したジュディさんは相変わらず駐車違反の取り締まりをしていました。
 その時、彼女の目の前で強盗事件が起こります。
 ようやく警察官らしい仕事がやってきたと意気込むジュディさんは、そのまま独断で犯人を追跡し、ついには一人で逮捕してしまいます。
 ですが犯人を追いかける際に騒ぎを起こしたことと与えられた職務を放棄したことが原因で、ジュディさんは警察署の署長に責められてしまいました。
 しかしそこへタイミングよくカワウソの婦人とズートピアの副市長が現れます。
 行方不明になったカワウソの夫を探してほしいと訴える婦人に対し、ジュディさんは自分が捜査すると約束します。
 副市長の手前、署長も断るわけにもいかず、事件はジュディさんが捜査にあたることになりました。
 しかしジュディさんの度重なる勝手な振る舞いに対し、署長はついに「もし48時間以内に事件を解決できなければクビだ」と宣告します。
 こうしてカワウソの行方不明事件を捜査することになったジュディさんでしたが、あいにく手がかりは一枚の写真しかありませんでした。
 ですがその写真をよく調べてみると、そこにはあのキツネの詐欺師ニックさんが写っていたのです。
 早速ニックさんを問い詰めるジュディさん。協力を渋るニックさんに対し、脱税の証拠を突きつけて無理やりに協力させます。
 こうして即席のコンビとなった二人でしたが、やがて捜査を進めていくうち、肉食動物が凶暴化する原因不明の現象が街で起きていることを知ります。
 そして次第にこの事件は、肉食動物たちの集団失踪という街全体を巻き込んだ大事件とも関わりがあることが明らかになっていくのでした。

【クライムサスペンスなライトモチーフ】

 この映画は動物がまるで人間のように振る舞いながら暮らす世界で起こるコメディ・サスペンス映画です。
 主人公はウサギのホップスさんとキツネのニックさんです。
 この世界では行方不明者が増加していて、その理由を追っていくうちになにやら巨大な陰謀が明らかになっていくという話なのですが、その時にあるライトモーフが使われています。
 それがアップルミュージック ズートピア オリジナルサウンドトラック 7曲目に収録されている「ジャンボ・ホップ・ハッスル」という楽曲の0:28秒あたりから聴くことができます。
 楽曲はこのようなフレーズがメインで演奏されています。
 (演奏)
 このフレーズが演奏されている時は捜査を中心に描かれています。
 行方不明事件の捜査が演奏の動機であることがこの楽曲が初めて演奏されたシーンでわかります。

ジャンボ・ホップ・ハッスル シーン1

 21:44
 駐禁の取り締まりを再開したホップスさんがニックさん達の悪事を見た時のシーンです。
 この前のシーンでニックさん達がゾウが営むアイス屋さんで巨大なアイスキャンディーの販売を拒否されたところを、ホップスさんが助け仲良くなるという展開があるのですが、そんなアイスを溶かしているところをホップスさんがみた時に、この楽曲が演奏されます。
 これがはじめて演奏されるシーンです。
 元々キツネにいい印象を受けていないホップスさんなので、この状況をみてニックさん達を追いかけるというのが捜査という観点で演奏される動機になっていて、さらにこの次に演奏される時の伏線にもなっています。
 このすぐあとにも演奏されています。

ジャンボ・ホップ・ハッスル シーン2

 23:55
 ニックさんを詐欺だと問い詰めるホップスさんですが、ことごとく言い負かされてしまうシーンです。
 ここは先ほどのアイス溶かしをみつけて追いかけ、その真相に行き着くシーンで、その真相はあっけなく自分の思っていた理想とは違ったという現実を知らされるのですが、ここで捜査のライトモチーフが演奏されているということは、ホップスさんにとってはその現実を受け入れたくないという意味に感じられてとてもおもしろい使われ方ですね。
 唯一先に進むと言う意味を逸脱した使われ方です。
 この時ニックさんにもウサギが警官なんて、現実を見ろみたいな感じで言われてしまいます。
 この先は行方不明事件についての演奏になります。

ジャンボ・ホップ・ハッスル シーン3

 34:40
 写真1枚しか手がかりがなかったのですが、先ほどのアイスキャンディーが写っていたことからニックさんにもう一度会いにいくというシーンです。
 これも捜査協力してもらうために行くので、捜査というキーワードが演奏動機ですよね。

ジャンボ・ホップ・ハッスル シーン4

 つぎに
 45:58
 カワウソのエミット・オッタートンさんが乗っていたとされる車のナンバーが、ツンドラ地方にあるリムジンであることを突き止めて、その車中を調査しているシーンです。
 ダッシュボードの中からCDを見つけた時に演奏がはじまります。
 しかしここの使われ方は少しコミカルで、前のシーンでは侵入禁止区域に潜入しているため、スニークの音楽が使われ、後のシーンでは車の後部座席が傷だらけの惨劇になっているため、ホラー音楽が使われています。
 スニーク音楽とホラー音楽に比べてどこかコミカルなこの捜査のライトモチーフは、ダッシュボードを開けて驚くニックさんにホップスさんがなに!?と言うのに対して、真実はただのCDというユーモアへの演奏としても捉えることができますね。

ジャンボ・ホップ・ハッスル シーン5

 そしてつぎに
 1:00:25
 野生化したチーターに追われて命からがら逃げたものの、警察が集まった頃にはその野生化したチーターはおらず、そのことを警察署長に咎められ、一時は辞職を余儀なくされそうになるのですが、ニックさんが助けてくれて、二人で話している時に交通カメラに犯人が映っているかもしれないことに気づくシーンです。
 これは捜査が進展したことが演奏の動機ですね。
 そして最後はネタバレの要素がありますのでご了承ください。

ジャンボ・ホップ・ハッスル シーン6

 1:32:25
 黒幕で市長補佐役だったドーン・ベルウェザーさんが勝利を確信して自供した内容をペン型の録音機で録音していたシーンです。
 いわゆる大逆転シーンで、この楽曲が選ばれるのはこの映画らしくてとてもいいですね。
 どこかクールに締めたいといった感じの演出で、証拠集めも捜査の一環ということでこの楽曲が演奏される動機になっています。
 これらをまとめると、この楽曲が演奏されている時はホップスさんとニックさんの両方が登場していますが、二人が事件の捜査に乗り出した時ではなく、ホップスさんが事件性を感じ捜査に乗り出した時に演奏されています。
 最後は事件捜査の終止符としての演奏がこの楽曲で締めくくられているのが、とてもクールに感じました。
 言葉で話すとシリアスなクライムサスペンス映画のように聞こえますが、フルCGでかわいい動物がやいのやいのやっているので、微笑ましく見えてしまうからディズニーはすごいですね。

【この映画が占めるジャンルの割合と他のディズニー作品のイメージについて】

 前半でも話した通りこの映画はウサギの警察であるホップスさんと詐欺師のキツネであるニックさんがある事件を追うことで、どんどんズートピアに潜む闇に迫るクライムサスペンスと呼んでもいいと思います。
 ではどのくらいの割合でどのような音楽ジャンルが演奏されていたかを見てみましょう。
 細かい演奏を合わせるとざっと68回程度演奏されているのですが、キャラクターのライトモチーフやソースミュージックなどジャンルに直接的な関わりのない楽曲を抜くと約46回の演奏がされています。
 その中で割合を出して映画の方向性を見ていこうと思います。

ミステリー&サスペンス

 ではまず映画で一番使われていたジャンルですが、これはミステリーおよびサスペンス音楽でした。
 演奏されていたのは12回です。
 全体の1/5はかなり多いですよね。
 というのももちろん演奏がないセリフのシーンもありますし、ずっと捜査しているわけでもないですしね。

バラード&アクション

 次に多いのはバラードとアクションでどちらも9回です。
 バラードは悲しいバラードも明るいバラードもどちらも合わせた数で、アクションは今作に関してはほとんどがチェイスです。
 バラードは映画の抑揚と緩急に作用しています。
 山あり谷ありとしてのバラードが多いという印象ですね。
 アクションチェイスが多いのもクライムサスペンスといった感じがしますね。

スニーク&ホラー

 そして次に多かったのはスニーク音楽とホラー音楽です。
 演奏回数はどちらも6回でした。
 スニーク音楽はおもに潜入捜査で使われていましたね。
 これは意外に多いと感じました。
 それとホラー音楽。
 これは驚くようなシーン、怖いシーンで主に使われていて、冒頭の学芸会のような演劇の冒頭でも登場していましたね。

音楽の使用頻度からわかる映画のジャンル

 この他にもヴィラン音楽などがありました。
 これは事件の黒幕と思われる人物の登場時に演奏されていました。
 こう見ると、サスペンス映画でよく使われる、サスペンス音楽、アクションチェイス音楽、スニーク音楽、ホラー音楽が全体の33回も演奏されています。
 これはキャラクターのライトモチーフやソースミュージックを合わせても全体の半分近い回数演奏されていることになります。
 ということはこの映画はやはりクライムサスペンスコメディ映画ということですよね。
 しかも映画にはどんでん返しが何度も登場するため、サスペンスとしても非常に楽しい作品です。
 まあ実際はホップスさんの立場と社会的実情から、彼女が成長する物語なのですが、この要素にクライムサスペンスをうまく盛り込むことで、固定概念や立場による差別問題や人との関わり合いをうまいこと描いているのはさすがですよね。

他のディズニー作品から見る動物のイメージ

 それと少し脱線する上にものすごいネタバレなのですが、この映画は差別問題のテーマを扱っている側面もあります。
 たとえば、この事件の発端は羊である副市長が、草食動物に比べ、少数派であるのに力が強いことを鼻にかける肉食動物を迫害してズートピアを支配しようと目論んでいることが事件の真相です。
 それとウサギとキツネの関係性というのも映画の着目する点です。
 幼少期にホップスさんは幼馴染のキツネに暴力を受けています。
 それでキツネに対していいイメージがないけれど、ホップスさんはそれでも仲良くなれると信じて、警察を志すという導入で、その後はニックさんとのコンビが板につき、ニックさんにも肉食動物であることから受けた悲しい過去の話も聞きます。
 そしてなんやかんやあって最終的に仲良くなって、一緒に警察のバディを組む感じで終わるのですが、この法則に既視感と言いますか、なんか知ってるな感を覚えたんですが、それはディズニー作品の「南部の唄」という作品です。
 この作品は実写とアニメーションの合わさった作品で、ジョニーくんとリーマスおじさんが、おとぎ話を通じて心のふれあいを描いた長編映画で、1946年の映画ということもあって、今では差別問題として取り上げられるような内容がストーリーには入っています。
 このことから2023年現在ディズニー+では作品の配信はされていません。
 東京ディズニーランドに行ったことのある方は、スプラッシュマウンテンの世界がこの「南部の唄」の世界観ですね。
 この作品に登場するキャラクターはウサギとキツネとクマです。
 一旦クマはおいておいて、ウサギはあらゆるキツネのイタズラを知恵や身体能力でかわすのですが、この対比構造がまさに今回のズートピアのウサギとキツネに似ていて、それがまるでその後日談かのように、幼少期は暴力を振るわれていたのに対して、大人になりバディを組むまで仲良くなる、さらに南部の唄では差別的な表現として捉えられてしまっているため、これもこの作品と一致する内容の一つですよね。
 もともとキツネはずる賢いイメージがそのまま作品にも使われているケースもあります。
 ピノキオに出てきたキツネもそうでしたね。
 しかし1973年公開のディズニー映画「ロビンフッド」では主人公であるロビンさんはキツネでした。
 ちなみに相棒のリトルジョンさんはクマで、ロビンフッドに憧れているスキッピーくんはウサギでしたね。
 このようにキツネといえど、スネオの立ち位置というか虎の威を借る狐ではないですが、主人公としての立ち位置も用意されているわけです。
 なので、南部の唄を意識したかいなかはわかりませんが、ディズニー作品としてはこの関係性に新たな方向性を導いているともいえます。
 最近は脱線が長いですが、そんなことを感じました。

【エンディング】

 今回はズートピアの主題でもある失踪事件を主軸に音楽がどのように展開されていたかをみてきました。
 やはりキャラクターがとてもかわいらしくていいですね。
 どんなにシリアスな展開を迎えようとどこか微笑ましく、過激になりすぎない演出がどの世代にも愛されるゆえんかもしれません。
 次回はズートピアの続きと、サブスクリプションでは「リメンバー・ミー」から1曲やろうと思いますので、ご興味のある方はぜひ聴いてみてください。

 最後までお読みいただきありがとうございました。
 映画にみみったけ、放送時のパーソナリティはヨシダがお送りいたしました。
 podcastのエピソードは毎週日曜日に配信中ですので、そちらでもまたお会いいたしましょう。
 ではまた!

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