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#90【マイ・エレメント】ep.2「民族音楽と民族音楽でない理由」

※この記事はPodcast番組「映画にみみったけ」内のエピソード#90にあたる内容を再編集したものです。

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【マイ・エレメントについて】

 2023年公開
 監督:ピーター・ソーン
 音楽:トーマス・ニューマン

登場人物

 エンバー・ルーメン:
 ファイアプレイスで働く火のエレメント。癇癪持ち。
 
 ウェイド・リップル:
 水のエレメントの青年。エレメント・シティの市役所で検査官として働く。
 
 バーニー・ルーメン:
 エンバーの父親でファイアプレイスの店主。
 
 シンダー・ルーメン:
 バーニーの妻でエンバーの母。
 
 ゲイル・キュミュラス:
 ウェイドの上司である風のエレメント。
 
 クロッド:
 エンバーに恋する土のエレメントの子供。

【前回の振り返り】

 前回は音楽の方向性とクワイア音源を使っていることに関してやってきました。
 実際クワイア音源なのかは怪しいですが、音声合成(サウンドコラージュ)の可能性も捨てきれませんがとても効果的でしたね。
 それと、音楽の方向性では、民族楽器を使用することでオリエンタルな表現を実現していました。
 この二つは映画の根幹とも言える「多種族や移民」などの、一箇所に文化も言語も違う種族が集まることで起きた物語を浮き彫りにするような、そんな音楽的な仕掛けについてでした。
 その音楽の方向性は、「多種族や移民」についてのメッセージ性を強く感じさせるという話をしたのですが、もちろんそれもあるのですが、その他にもうひとつ意味を与えています。
 それは神秘性の追加です。
 前回をさらに掘り下げた内容ですね。

【神秘性の追加】

 この映画はエレメントと言われる、妖精のような人間とは異なる種族の話です。
 ですので、この映画は神秘性を感じさせる作りになっています。
 前回お話しした音楽の方向性は、どこか異国情緒のあるオリエンタルさが音楽の持つ方向性で、クワイア音源を使用した、もちろん歌を収録したものも使われていると思いますが、このコーラスは神秘性を与えます。
 これらの組み合わせによって、この映画の雰囲気の大部分を担っています。
 映画で多く演奏されているバラードでも聴くことができます。

神秘性を追加するコーラスとサロード

 48:30
 浜辺で土嚢の砂を集めているシーンです。
 このシーンでは、水漏れを防ぐために土嚢袋に砂を集めるのですが、途中エンバーさんは自分を責めてしまいます。
 その時にエンバーさんの周りの砂が溶けてガラスになります。
 そのガラスで細工を作り、水漏れの原因となっていた扉の穴を塞ぐ方法を思い付きます。
 この時に演奏されている楽曲は、アップルミュージック マイ・エレメント オリジナル サウンドトラック 9曲目に収録されている「ガラスの花」という楽曲ですね。
 ドローンのような楽曲なんですが遠くからコーラスが聴こえてきます。
 このコーラスはオリエンタルな表現がされています。
 オリエンタルのイメージですがこのような音声ですね。
 (演奏)
 これはインド系ですが、特別な音階や発声の仕方でアジア圏の雰囲気を持たせることができます。
 楽器としても様々ありますが、このような音が鳴っていたりします。
 (演奏)
 シタールに似ていますが、この音はインドの古典音楽で使われる弦楽器でサロードという楽器です。
 非常に異国情緒を感じますよね。
 これらの音がいわゆるオリエンタルということになります。

 映画音楽ではこのような民族楽器の使用が非常に多く登場します。
 これは前回話した音楽の方向性ということですね。
 S1の#10「アトランティス」の回でもガムラン音楽の登場について話しています。
 ガムランとは、インドネシアのジャワ島とバリ島で生まれた音楽の一種で、主に金属製の打楽器で作られるリズミカルな音楽のことです。
 楽器は金属で作られていて、マレットという柔らかいバチで叩いて音を出します。
 ガムランの代表的な曲では、楽器が複雑なリズムで叩かれ、エキゾチックで直感的な打楽器音楽を作り出します。
 詳しくはS1の#10後半で話していますので、気になる方はチェックしてみてください。

コナッコル

 今回のマイ・エレメントではガムランらしい音楽はないのですが、このようなワールドミュージックが世界観を作ります。
 この作品で特に登場が多かったオリエンタルなコーラスとして、コナッコルが多く登場します。
 このような音ですね。
 (演奏)
 このコナッコル(コンナコル)、インターネッツによると南インドのカルナータカ音楽で声楽的に打楽器の音節を演奏する技術だそうです。
 コナッコルはsolカットゥの口述要素であり、同時に手でtala(メーター、小節または拍)を数えながら発音されるコナッコルの音節の組み合わせを指します。
 これは、ヒンドゥスターニー音楽のボール(bol)といくつかの点で類似していますが、リズムの作曲、演奏、または伝達を可能にします。
 なんだかよくわかりませんが、まとめると南インド発祥のボイスパーカッションということですね。

 ということで、この映画では多くインド音楽の要素が登場していることがわかります。
 エレメントという要素が、精神性の高いインドと結び付けられた世界観に繋がったのかと考えれば映画にまた一歩踏み込めた気がしますよね。

【ワールドミュージックらしくない音楽】

 ということで、そんなワールドミュージック満載なこの映画に、ワールドミュージックらしくない音楽が登場しています。
 演奏される回数も多くないのが、逆に印象的に映っているので、理由を含めみていきます。
 ただ、ソースミュージックは割愛します。

ワールドミュージック以外の音楽1 ジャズ

 ということで、多く登場していたシーンは
 52:45
 ウェイドさんの家に遊びに行った時です。
 ここではジャズが演奏されています。
 このウェイドさんの家は、父はいないのですが母は建築家で、妹さんは美術学校に通っていたり叔父が画家であったり高層マンションに住んでいたりと、裕福な家庭のようです。
 ここでジャズを起用するのは、非常に面白いですね。
 裕福であり教養もある象徴のようにも聴こえますよね。
 もしくは、クラシックを演奏するかで分かれるところだと思います。
 これは家のオーディオで流しているという設定なのがわかります。

 その細かな演出としては、まずウェイドさんの玄関前でウェイドさんの母と挨拶をします。
 この時に聴こえてくる音量と玄関を入ってドアを閉める時の音量には明確な差があります。
 ドアを閉めた時に大きく音量は上がって、豪華なプールのような室内が映された時、さらに音量は上がり、音声が明瞭になります。
 この音声が明瞭になる方法はよく使われる演出の一つですね。
 洋画でよく登場するホームパーティのオーディオがある部屋とない部屋では、音に違いがあります。
 これは壁の遮音性能による影響で、透過損失なんて言ったりしますが、音は壁を隔てると基本的に小さくなります。
 普段の生活でも感じますよね。
 さらに、音が高いと抜けにくくなって低いと抜けやすくなります。
 ちなみにオーディオがある部屋とない部屋だと、一般的にこんな感じの違いが出ます。
 (演奏)
 これが音がこもっているか明瞭かの差ですね。
 先ほどの話に戻ると、プールが映し出された時に明瞭になった理由は、部屋のインパクトと室内で音楽が流れているという2つの要素があるためです。
 火のエレメントなのに部屋が水だらけであること、豪華なこと、これが部屋のインパクトですね。
 音が明瞭になれば、観客にもインパクトを与えます。
 もう一つは、音の発信源から壁の隔たりがなくなったということですね。
 なので、家で実際に音楽を流しているということは、食事中に音楽を流す家庭であること、それと流れている楽曲は映画音楽としてではない(劇伴ではなくソースミュージックに近い)ということがわかってきます。
 ただ、この楽曲はもともと存在する楽曲ではなさそうですね。
 アップルミュージック マイ・エレメント オリジナル サウンドトラック 13曲目に収録されている「リップル家との夜」という楽曲で聴くことができます。

ワールドミュージック以外の音楽2 クラシック

 そんな食事中にジャズを流す、リップル家ですがその後泣きゲームという遊びを始めます。
 56:03
 泣かなかった人が勝ちというなんとも水のエレメントらしい勝負が開催されるシーンです。
 この時に演奏されているのはクラシックです。
 しかしこれは先ほどのジャズのようにオーディオで流しているというわけではなく、これは劇伴、演出としての映画音楽ですね。
 感動話をしているのでここでのクラシックはロマチックなのですが、ウェイドさんの感動話がいくつか不発で終わると、エンバーさんとの出会いの話をし始めます。
 この時に民族音楽が登場します。
 これが二人の抱える違いが音としてもわかるシーンですね。
 というのも、ウェイドさんの家はジャズに対して、エンバーさんは民族的な楽曲が使われています。
 その後のストーリーでもわかるのですが、店を経営していてその店を継ぐことがエンバーさんの全てでした。
 これに対して、様々な仕事をするも続かないウェイドさんとでは、火と水であるだけではない違いがあります。
 やりたいことをやったらいいと思うウェイドさんに対して、やりたいことは我慢してでも家族のためになりたいエンバーさん、エンバーさんは貧困しているわけではないのですが、選択肢が少なく、富裕層のウェイドさんは選択肢がいくらでもあるという大きな差がこの音楽の差に感じ取ることができます。
 実際はどこまでを演出として使っているかはわかりませんが、火と水という相入れない二人、というだけではなく現実社会でも起こり得るドラマを組み込んでいることになります。
 これが明確に民族音楽を取り入れてないシーンの演出ということになります。

【エンディング】

 今回はまあ前回の続きのような音楽と世界観についての話と民族音楽を明確に使わないシーンの意図についてみてきました。
 音楽としてもとても面白いので、聴ける方はアップルミュージックなり、大体のサブスクで聴けると思うので、聴いてみると色々な発見があって楽しいと思います。
 というわけでサブスクリプションでは、マイ・エレメントから1曲と「オットーという男」から1曲やろうと思いますので、聴ける方はぜひ聴いてみてください。
 サブスクリプションでは過去の特別エピソードも聴き放題で初月無料、月額300円で聴くことができます。
 そして次回は「最強のふたり」という映画をやろうと思います。
 タイトルだけみるとアクション映画のようですが、非常に感動的なヒューマンドラマです。
 音楽を担当されているのは、ルドヴィゴ・エイナウディさんですね。
 クラシックからポップス、ワールドミュージックと幅広い音楽性を持った音楽家です。
 
 それと番組のフォローとXのフォローも励みになりますので、よろしくお願いいたします。
 あと映画にみみったけでは、お便りも募集しています。
 info@eiganimimittake.comにてお便りお待ちしております。
 やってほしい映画とか、この回が好きだったなど、どしどしお待ちしております。

 最後までお読みいただきありがとうございました。
 映画にみみったけ、放送時のパーソナリティはヨシダがお送りいたしました。
 podcastのエピソードは毎週日曜日に配信中ですので、そちらでもまたお会いいたしましょう。
 ではまた!

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