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#98【ダンジョンズ&ドラゴンズ / アウトローたちの誇り】ep.2「映画にリアリティを感じるのは、一体いつのか」

※この記事はPodcast番組「映画にみみったけ」内のエピソード#98にあたる内容を再編集したものです。

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【ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇りについて】

 2023年公開
 監督:ジョナサン・ゴールドスタイン、ジョン・フランシス・デイリー
 音楽:ロアン・バルフェ

登場人物

 エドガン・ダーヴィス:
 盗賊の男。よみがえりの石版を探している。
 
 ホルガ・キルゴア:
 エドガンの相棒のバーバリアン。
 
 サイモン・アウマー:
 ハーフエルフの魔法使い。魔法が苦手。
 
 ドリック:
 ティーフリングのドルイド。フォージに抵抗する。
 
 ゼンク・エンダー:
 生真面目な聖騎士。
 
 キーラ・ダーヴィス:
 エドガンの娘。
 
 フォージ・フィッツウィリアム:
 かつてエドガンの仲間だった詐欺師。
 
 ソフィーナ:
 レッド・ウィザードの一人。かつてエドガンたちを裏切った。

【前回の振り返り】

 前回はファンタジー音楽のテクニックとロアン・バルフェさんの持つ作家性についてみていきました。
 ファンタジー音楽には、ターシェリープログレッションという進行や意外音という僕が勝手に呼んでる手法がよく使われるなんて話をしました。
 ターシェリープログレッションはこういう感じでしたね。
 (演奏)
 非常に神秘的かつ畏敬の念のようなものを感じますよね。
 これには圧倒されるような条件が揃った時によく使われます。
 それと意外音。
 これは僕が勝手に呼んでるだけなので、あれですがスケールに沿ってメロディを作ると出てこないような、意外性を感じる音のことですね。
 手前味噌ですが、僕の昔書いた楽曲に意外音を使っているものがあったので、それを流してみます。
 (演奏)
 フレーズの最後の音がどうも煮え切らないような音で、これを意外音と僕は呼んでいます。
 ハリーポッターシリーズを通して演奏されている、ヘドウィグのテーマで使われていましたね。
 この意外音を使うことで、ファンタジー感と若干のダークさを出すことができます。
 それと、ロアン・バルフェさんの持つ作家性についてもみてきました。
 それはシンセサイザーですね。
 ファンタジーに一見合わなそうですが、見事に融合されていて、彼の経歴にハンスジマーさんとの共同制作が多いことから、シンセサイザーの音が使われていることが考えられますね。
 ハンスジマーさんは、多くの作品にシンセサイザーとオーケストレーションを混ぜた功績がありますので、その系譜として、ロアン・バルフェさんがシンセサイザーの音を用いることはなんら不思議はありません。
 とまあこのようなことを前回は話しました。
 では今回は、圧倒的音楽の手数によるリアリティのバランスについて話していこうと思います。

【圧倒的音楽の手数によるリアリティのバランス】

 この映画は、ここ最近のアクションアドベンチャー、もしくはヒーロー映画でよく見られるように、演奏回数がとても多いです。
 前回も話した通り、この映画はファンタジーであり、アクションとアドベンチャーの要素があります。
 ファンタジーとアクションとアドベンチャーというのは、現実味からは離れていますが、その分現実ではありえないような体験が強みになります。
 そして音楽が演奏されているということは、非現実的な表現に繋がっているということにもなります。
 話が突拍子もない感じがしますが、音楽が日常的に演奏されること自体が、非現実的ということになるわけですね。
 日常的に音楽は自分が演奏するか、再生機器で流すか、音楽が流れている場所に行かない限り、流れていませんよね。
 山登りをしていて、やっとの思いで頂上にたどり着いたら、オーケストラが待っていて、感動的なフィナーレを演奏してくれることはないということです。
 もしやってもらったらめちゃめちゃ気持ちよさそうですけどね。
 散歩をしている時に頭の中で勝手に音楽が演奏されることはありますが、それは想像の中の話というわけです。
 ですので、劇中で音楽が演奏されることは、現実味を損なうという側面を持っています。

非現実の世界を強調する音楽

 例えば、このPodcastでも取り上げた「ノマドランド」では音楽はあまり多く演奏されていません。
 OSTにも11曲だったと思います。
 ノマドランドは現実に起こった問題をテーマにした映画ですので、現実味を損なうことは映画にとって有益な情報にならないからですね。
 創作物というのは、情報量を高めることで、人の感情に訴えかけますので、現実味が損なわれないようにとても注意深く音楽の流すポイントを決めていました。
 これに対して、とにかく非現実の世界を楽しんでもらいたい場合は逆の手法を取ることになります。
 ダンジョンズ&ドラゴンズのOSTは歌を抜いた、いわゆる劇伴だけで49曲あります。
 ざっと演奏回数を数えると、なんと101回なんかしらの音楽が演奏されています。
 さらに効果音や特殊なケースは抜いているので、これ以上と言えますね。
 ノマドランドの演奏回数は覚えていませんが、11回だとすれば約9倍以上演奏されている計算になります。
 映画の尺の違いももちろんありますが、これほどの違いがあるというわけですね。

次々に変化する感情

 では非現実味を表すだけでこんなにも演奏回数が多いかと言えばそういうわけでもなく、ピンポイントで演奏されていることが多いんです。
 なにかしらのトピックスに対して音楽が演奏されていて、このトピックスの内容に合うように、視聴者側の感情を高める効果を狙って音楽が演奏されています。
 ということは、トピックが多くて感情が次々に変化するということになるわけです。

コメディの要素

 特にこの映画は、ファンタジーとアクションとアドベンチャーに加えて、コメディの要素を持っています。
 このコメディの要素、海外では日本とは少し違う感性を持っていて、間がないことが多いです。
 例えば、日本ではなにか突拍子もないことを言った相手に対し「え?」という言葉で、場が止まり、その後皆が笑うことがあったりしますよね。
 あまりいい例えがでなかったですが、この場が止まった時に、海外では何かが壊れる物音がなったり、ものが落ちる音がしたり、とにかくただただ音がなくなることがあまりないわけです。
 なので、コメディ要素のある映画はとにかく多くの音が入っています。
 それは効果音だけではなく、音楽が演奏されることも多いので演奏回数は増えていきます。
 これらの非現実味を出す目的やコメディの要素が音楽を演奏する回数を増やしているわけですね。
 ということは海外の、とくにアメリカのお笑いって現実味がないことで起きるってことなんですかね。

ホラー&サスペンス映画における音楽の演奏回数

 この演奏回数でリアリティのバランスが難しいのが、ホラーです。
 ホラー映画は、非現実なのですが、人が怖がるメカニズムとして現実味がある必要があります。
 現実の中に非現実的な異物が入ってくることで人は恐怖を覚えるので、演奏回数が多すぎると現実味がなくなって、怖くなくなってしまいますし、逆に少なすぎると音楽的な恐怖の効果を出しづらくなります。
 ちゃんと観てないので、下手なことは言えませんが、ハンディカムで撮ったような演出のホラー映画や監視カメラの映像がメインのホラー映画ではあまり音楽が使われていなかったように感じます。
 このバランスがとてもうまかったのは、シックスセンスでした。
 S3#81で取り上げているので、まだの方は聴いてみてください。
 とまあCMを入れつつ、話を戻すと、他にもサスペンス映画も演奏回数のバランスが難しいですよね。
 実際に事件が起きているようにみせなくてはならないので、演奏回数も控えたいところですが、音楽によってハラハラドキドキもさせなくてはならないので、これまたバランスが難しいです。
 そして、事件を解決する探偵なり刑事がヒーローである必要があるので、そこにも音楽を演奏する必要があります。
 このPodcastであまりサスペンス映画を取り上げていないので、そのうち取り上げたいものですね。

演奏回数のバランスが上手な作曲家

 この演奏回数のバランスが上手なのが、ジョン・ウィリアムスさんです。
 もちろん監督が決めている部分がほとんどだと思いますが、例えばスターウォーズ作品では、劇中大体なにかしら演奏されています。
 演奏されていない時間の方が短いくらいですね。
 かと思えば、シンドラーのリストでは演奏回数はスターウォーズ作品に比べてとても少ないです。
 ふたつの作品は監督も違いますが、それよりなにより、舞台が違います。
 スターウォーズはSF映画ですし、シンドラーのリストは実話をもとに作られた伝記映画です。
 監督を揃えるとしたら、ジュラシックパークも重要な効果音やセリフ以外では演奏されています。
 これも現実味の違いからくる演奏回数の違いと取ることができます。

アドベンチャー&ヒーロー映画の演奏回数

 とまあ自分でもびっくりするくらい話は脱線しましたが、アドベンチャー映画の演奏回数は年々多くなっているように感じます。
 ヒーロー映画もそうですかね。
 全体的にOSTの曲数は増えていて、いままでなら収録されなかった劇伴も収録されていたりと、一度見た映画ならOST聴いただけでもう一度観た気になれる感じがあります。
 ただこれ弊害があって、観てない映画のOSTを先に聴いてしまうと、映画の内容というか、展開がある程度予想できちゃうんですよね。
 先に聴かなきゃいいんですが、ついつい聴いちゃうんですよね。
 特に続き物だとライトモチーフなんかもあるので、あーあのキャラ出てくるんだとか、ヴィランの楽曲あのキャラのライトモチーフだなとか、いらないことに気づいちゃったりするんですよね。
 そうだったとしても、やっぱりってなるし、そうでなかったとしても、えー違うんだってなるので、観てる時ちょっと集中できてないですよね。
 とまあそれはおいておいても、OSTは近年非常に充実しております。
 とくにアドベンチャー映画は、ジェットコースターのような、アミューズメントパークに遊びに行っているような展開が非常に多く、映像の進化、これはCGや高画質なiMAXもそうですが、映画館に行くと遊園地で遊んだ後のような充実感があります。
 これに加えて3D上映や4DXといった、体感型の映画も多いですよね。
 音楽の演奏回数が多いことは体感としての充足感を多く感じられるので、擬似的に映画を追体験できるアトラクションのような効果を狙っているのかもしれません。

 このように映画の演奏回数は、映画にリアリティをどれくらい与えるか、観客の感情をどれだけ高めるか、映画をどのように展開するかなど、多方面から最も適切な演奏回数が考えて作られているので、観た映画のOSTの曲数と映画のジャンルを見比べてみるのも面白い遊びです。

【エンディング】

 今回は映画の演奏回数について話しました。
 ダンジョンズ&ドラゴンズの話をあまりしていない気もしますが、それはサブスクリプションでやろうと思います。
 ただ、この演奏回数はとてもおもしろいので、数えるのは大変ですが、OSTをみてみたり、演奏されていないシーンではなぜ演奏されていないか考えたりすると、作り手側の視点が少しだけ垣間見れるので、興味があったらやってみてください。
 そしてサブスクリプションでは「ダンジョンズ&ドラゴンズ」から1曲、別作品では「グランツーリスモ」という映画をやろうと思います。
 グランツーリスモはテレビゲームのグランツーリスモのことで、今回は1曲に絞った解説ではないですが、モータースポーツの音楽の謎に迫っているので、聴ける方はぜひ聴いてみてください。
 そして次回は「コーヒー&シガレッツ」という映画を1週だけやろうと思います。
 その次に100回記念ということで、ゲストを招いて楽しくおしゃべりをしようと思います。
 映画に詳しい友人や音楽に詳しい友人などから、様々な映画や音楽の話をしようと思っております。
 
 サブスクリプションでは過去の特別エピソードも聴き放題で初月無料、月額300円で聴くことができます。
 それと番組のフォローとXのフォローも励みになりますので、よろしくお願いいたします。
 あと映画にみみったけでは、お便りも募集しています。
 info@eiganimimittake.comにてお便りお待ちしております。
 やってほしい映画とか、この回が好きだったなど、どしどしお待ちしております。

 最後までお読みいただきありがとうございました。
 映画にみみったけ、放送時のパーソナリティはヨシダがお送りいたしました。
 podcastのエピソードは毎週日曜日に配信中ですので、そちらでもまたお会いいたしましょう。
 ではまた!

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