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#81【シックス・センス】ep.1「この映画が描きたい3つの意味について」

※この記事はPodcast番組「映画にみみったけ」内のエピソード#81にあたる内容を再編集したものです。

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【シックス・センスについて】

 1999年公開
 監督:M・ナイト・シャマラン
 音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード

作曲家紹介

 ジェームズ・ニュートン・ハワードさんは、アメリカの映画音楽家です。
 元々、エルトン・ジョンさんのキーボードサポートを経て映画音楽へと進んでいて、映画音楽(特にハリウッド)に於けるイロハをキッチリと理解し、コードやメロディの取り方もとても理論的です。
 数えきれないほどの映画音楽を書いていて、いくつか特筆するとバットマンシリーズのダークナイトやビギンズ、このポッドキャストでも取り上げたアトランティスやマレフィセント、あとはハンガーゲームやプリティウーマン、ファンタスティックビースト、今回やるシックスセンスであったり同監督のヴィレッジなど、本当に多岐にわたるジャンルの作品を手掛けています。
 それだけの振れ幅で仕事ができる大きな理由は洗練されたオーケストレーションです。
 その中でも取り分け魅力的なのはメロディ楽器の移り変わりにあります。
 メロディ楽器が弦楽器にいったり、金管楽器にいったり、木管楽器にいったりと映画の状況にマッチした楽器を常に選択していて、映画により一層色彩を与えています。
 これは彼の特徴と言っても良いと思います。
 派手なサウンドというわけではないのですが、現存する映画音楽家の中でもトップクラスにオーケストレーションがうまく、その表現力の高さは世界中からとても高い評価を受けています。

作曲家作品

 メジャーリーグ
 プリティ・ウーマン
 逃亡者
 ワイアット・アープ
 ER 緊急救命室(TV シリーズ)
 アウトブレイク
 ウォーターワールド
 シックス・センス
 アンブレイカブル
 サイン
 ドリームキャッチャー
 ピーター・パン(2003年)
 ヴィレッジ
 コラテラル
 バットマン ビギンズ(ハンス・ジマーと共同)
 キング・コング(2005年)
 レディ・イン・ザ・ウォーター
 アイ・アム・レジェンド
 ウォーター・ホース
 ダークナイト(ハンス・ジマーと共同)
 ハンガー・ゲーム
 マレフィセント
 ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅
 ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生
 ジャングル・クルーズ

登場人物

 マルコム・クロウ:
 小児精神科医の男性。コールのカウンセリングを行う。
 
 アンナ・クロウ:
 マルコムの妻。夫婦仲は冷え切っている。
 
 コール・シアー:
 マルコムの担当する少年。死者の姿が見える。
 
 リン・シアー:
 コールの母。息子の抱える問題がわからず途方にくれている。
 
 ヴィンセント・グレイ:
 マルコムがかつて担当した患者。マルコムを銃で撃つ。

あらすじ

 アメリカ・フィラデルフィア州で暮らすマルコム・クロウさんは、優秀な小児精神科医としてこれまでに数々の子どもたちをケアしてきました。
 妻であるアンナさんとも仲むつまじく、平穏に暮らしていました。
 しかしある日、彼の自宅に元患者であるヴィンセント・グレイさんという青年が現れます。
 そしてヴィンセントさんは「かつての自分を救ってくれなかった」とマルコムさんを逆恨みし、彼を銃で撃ったあと、自分もその場で自殺してしまったのです。
 一年後。事件以来マルコムさんとアンナさんの仲はすっかり冷え込み、妻から無視される日々が続いていました。
 そんな中、マルコムさんはコール・シアーくんという少年と出会います。
 誰にも打ち明けられない悩みを抱えた様子のコールくん。
 そんな彼の姿にかつてのヴィンセントさんを重ねたマルコムさんは、コールくんのカウンセリングを引き受けます。
 辛抱強く対話を重ねるマルコムさんに対し、次第にコールくんも心を開いていきます。
 しかしようやくコールくんが打ち明けてくれた彼の悩みは、「死んだ人たちの姿が見える」という、マルコムさんの予想を超えたものでした。
 コールくんの言葉を信じられず、当初は幽霊の存在に懐疑的なマルコムさん。
 それでもコールくんとの対話を続けるうち、次第に彼の言葉が嘘ではないことが明らかになっていきます。
 そして、かつて救えなかった患者のヴィンセントさんも、コールくんと同様に幽霊が見えることに悩まされていたことに気づきます。
 こうしてマルコムさんは、コールくんとともに死者たちが現れる理由をさぐり始めました。

【はじめに】

 ホラー映画ですが、どこか文学的というかただ怖いだけで終わらないのがいいですね。
 ホラー映画は苦手なのですが、苦手な僕でギリギリ観れるラインです。
 苦手な人は体はのけぞりますが、多分観れると思います。
 さらにこの映画は面白い仕掛けがあります。
 それは映画内で赤いものが出てきたり、息が白くなったりとサインのようなものが登場します。
 これは音楽ではない、色や状況などがライトモチーフになっていて、例えば息が白くなるとお化けが出るサインであったり、赤色も似たような効果がありますね。
 観ていて本当に飽きません。
 それと子役時代のハーレイ・ジョエル・オスメントくんの演技がめちゃめちゃ光ってますね。(出演作 A.I.、ペイフォワード、フォレスト・ガンプなど)
 本当に演技がお上手で、子供なのにあんなに表情で語れるもんだなと観ていて感心してしまいました。
 あとシリアスなホラーサスペンスにブルースウィリスさんが出てるのも、なんだかいいですよね。
 ちょっとフィジカルで解決しそうですよね。
 映画自体は1:38:00くらいでしたが、非常にバランスの取れたプロットで、無駄がなくスッキリしていて、当時は非常にポピュラーな尺ですが、これはこれで観やすいなと思います。
 今は平均したら2時間くらいが主流ですもんね。
 そこまでお化けも出てこないですし、出てきてもよく喋るんでまあギリいけると思うので、観ていない方はサブスクですとAmazonプライムビデオ、huluで観れるのでぜひ観てみて下さい。
 それとそこまで多くはないと思いますが、ネタバレの要素を含みますので、お聞きになる際はご注意ください。

【音楽ジャンルについて】

 ということで、今回は音楽ジャンルについて観ていこうと思います。
 今回は音楽ジャンルについてですね、どのような場面の違いで演奏の差が出るかという話で、この映画は言わずと知れたホラー映画なので、ホラー音楽が基本的には演奏されます。
 それは当たり前なのですが、その他にバラード、あとはスロードラマが演奏されています。
 というかこの3種類でやりくりしています。

ホラー音楽

 ホラー音楽が演奏されるのは、恐怖演出のためです。
 観客に怖いと思ってもらうために作られた音楽というわけです。
 なので、ホラー映画には欠かせないですね。
 急に大きな音が鳴るのもホラー音楽ですし、不協和音で不快な気持ちにさせるのもホラー音楽です。
 シーンを抜粋すると、
 42:48
 コールくんが螺旋階段を昇ると暗闇からお化けの声がするシーンです。
 明らかに現在の状況に似つかわしくない内容の声が聞こえてきます。
 この状況に対して、ホラー音楽が演奏されるとそれは異質ななにかに触れたということになりますよね。
 それがホラーで、普段の生活にはありえない、一種のシュールレアリスムのような状況がホラー、いわゆる恐怖の状況を生み出します。
 ここでの音楽は不協和音で非常に不快で息苦しいものです。
 これが今回のホラー音楽ですね。

バラード

 では次に、バラードとはなんなのかですが、バラードはゆったりとしたテンポという性質を持ち、映像のエネルギーレベルが決して高くないのですが、大きく感情の変化や揺れなどが起きたときに演奏されるのがバラードです。
 バラードにはポジティブな感情とネガティブな感情の二つの表現が存在します。
 これがバラードです。
 シーンでみると
 1:15:25
 うなされている母をなだめるコールくんのシーンです。
 家族愛がもう一つのテーマになっているこの作品の、とても心温まる数少ないシーンです。
 このシーンではポジティブなバラードが演奏されています。
 まさに映像のエネルギーレベルというのは高くありませんね、少年が寝ている母の頭をなでるだけなので。
 しかし、うなされているというか寝言ではコールくんを心配する内容で、それに対して母の愛を感じます。
 コールくんはお化けが見えてしまうという、一般的には理解されない悩みを抱えた少年です。
 このことから母とも言い争いになることも多く、母も息子を理解してあげられません。
 そんな中でも、母はちゃんと自分のことを考えて心配してくれていたことを知るコールくんの感情は、ポジティブに揺れます。
 ということで、ここではポジティブなバラードが演奏されていますね。

 もう一つは
 40:04
 主人公のマルコムさんはいつぞやの結婚パーティーの映像をみて、こんな時代もあったなとにっこりだったのですが、妻が抗うつ剤を飲んでいることに気づくシーンです。
 二人の仲はどうも冷めているようで、お互いにすれ違う毎日を送っています。
 しかし、マルコムさんは本当に仲の良かった時代に戻れるようにと日々思っています。
 そんな中で、抗うつ剤を飲むほど相手にしんどい思いをさせているのか、というとてもネガティブなシーンなので、ここでの演奏はネガティブなバラードです。
 映像のエネルギーレベルも低いですね。
 シャワールームの洗面台の鏡が引き出しになっていて、海外特有のオレンジ色のケースに入った薬を見つけます。
 歩いて戸棚のケースを見るだけですが、ここでの感情は大きく揺れます。
 もとのように仲良くありたいだけなのに、相手に辛い思いをさせてしまっているという、感情はネガティブに揺れています。
 これがネガティブなバラードですね。

スロードラマ

 そして最後にスロードラマです。
 サスペンス要素ですね。
 僕としてはこの映画の最大に面白いと感じる点です。
 スロードラマという音楽ジャンルが演奏される時は、未知の何かがプロットに存在する時です。
 観客は何が起きてるのか、これから何が起きるのかわからない状態で、それでも話は前に進んで行く場合にスロードラマが使われます。
 シーンで説明すると
 11:43
 マルコムさんが教会へと走るコールくんを追うシーンです。
 映画冒頭で、コールくんというキャラクターの情報はなく、マルコムさんは小児精神科医であるという情報しかなく、なぜコールくんを追っているのかはわからない状態です。
 観客はマルコムさんの新たに担当する患者さんなのか、友人または友人の子供なのかなど、わからないことが多いです。
 このような現状まだわからないけれど、物語が前に進んでいく時にこのスロードラマは使われます。
 演奏される状況が似ているのは、サスペンス音楽です。
 サスペンス音楽もなにか謎に直面した時、またはその謎が解決できていない時に使われます。
 サスペンス音楽との大きな違いは、明確に推理しているかどうかです。
 推理というのはサスペンス映画に限らず、映画によく登場するプロットです。
 そしてもう一つ似たジャンルとしてはネガティブなバラードです。
 ネガティブなバラードは楽曲として似ているのですが、演奏される状況がまるっきり違います。
 スロードラマはプロットに未知の要素があって観客はそれに対して心配している状況で演奏されのに対して、バラードはむしろ、観客は状況の事実を知っていて、それに対して悲しんでいる時に演奏されます。
 このような違いがあります。
 この3つのジャンルだと、スロードラマというジャンルは少し聞き馴染みがないかもしれませんが、映画ではよく登場するジャンルだったりします。
 起承転結で言うところの、起や転でよく使われますね。
 何かが始まる前段階である起と、物語に転換が訪れる転では、観客にこの先の心配をさせることで、なにに興味を引かせたいのか、もしくはなにが起きているのかを理解したいという観客の心理的構造をこのスロードラマというジャンルで高めることが目的となります。
 映画としては必要な要素のひとつですよね。
 特にこの映画は一体なにが起きているのか、それをあまり明確に描きません。
 よく考えると、映画後半まで何をしているかよくわからないんですね。
 マルコムさんはコールくんを治療しにきているにも関わらず、具体的な解決法を導き出さずに、とにかくコールくんの今ある現状というのを描いています。
 しかし映画は意外な方向へと進み、最後には大どんでん返しが待っているので、その伏線がとにかく描かれていたことに最後に気づく仕掛けになっているので、よくできた映画なのですが。
 そんな何が起きているのかわからない状況で活躍するのが、スロードラマということですね。

音楽ジャンルについて まとめ

 たった3つの音楽ジャンルだけでエンターテインメント映画として昇華している映画も珍しいです。
 特にこの時期のMナイトシャマラン監督の作品は、尖っているけどとても明確でわかりやすいという特徴を持っているかもしれません。
 そしてその映画をたった3つの音楽ジャンルでかき分けてしまうジェームズ・ニュートン・ハワードさんもとんでもないですね。
 明確に音楽ジャンルを書き分けるアカデミックさと、オーケストレーション能力の高さは随一です。

【エンディング】

 ということで今回は映画に登場する音楽ジャンルについてみて行きましたが、少しお勉強感が出てしまいましたね。
 しかし、3つの音楽ジャンルだけでここまで書き分けることのすごさといいますか、状況はたくさん変化したほうが観客を飽きさせないのですが、少ない変化だけでも話が面白いので飽きずにみていられますし、映画に統一感を与えていました。
 その中でも取り分け聞き馴染みのないスロードラマというジャンルについて軽く触れましたが、今後も映画を見る時にこのスロードラマを気にしてみてみると面白いと思います。
 次回やるサブスクリプションではそんなスロードラマの作り方についてやろうと思うので、興味のある方は月額300円で初月無料ですので、試してみて下さい。
 そして映画「ソルト」も次回のサブスクリプションでやろうと思います。

 最後までお読みいただきありがとうございました。
 映画にみみったけ、放送時のパーソナリティはヨシダがお送りいたしました。
 podcastのエピソードは毎週日曜日に配信中ですので、そちらでもまたお会いいたしましょう。
 ではまた!

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