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#68【レオン】ep.2「テンポと感情の関係性」

※この記事はPodcast番組「映画にみみったけ」内のエピソード#68にあたる内容を再編集したものです。

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【レオンについて】

 1994年公開(日本1995年公開)
 監督:リュック・ベッソン
 音楽:エリック・セラ

登場人物

 レオン・モンタナ:
 主人公。トニーからの依頼で仕事を行う殺し屋。
 
 マチルダ・ランドー:
 レオンのアパートの隣に住む少女。
 
 ジョセフ・ランドー:
 マチルダの父親。麻薬の運び屋。
 
 マージ・ランドー:
 マチルダの義母。
 
 ジョアン・ランドー:
 マチルダの義理の姉。
 
 マイケル・ランドー:
 マチルダの弟。
 
 ノーマン・スタンスフィールド(スタン):
 麻薬取締局の刑事。裏で麻薬の密売を行っている。
 
 トニー:
 レオンの雇い主でイタリアンマフィア。

【前回の振り返り】

 前回は映画の雰囲気と電子楽器の使用について話してきました。
 全体を通してレオンという映画の雰囲気について話してきました。
 シーンや映像のエネルギーレベルなどに合わせたジャンル選びと、会話のテンポや観客に与えたい情報、それに映画の世界観を作曲の元にして、曲を書いていくという話や、それとエリックセラさんの作家性として登場した電子楽器の使用や、電子楽器の歴史みたいなものに軽く触れました。
 今回はサブスクリプションで「フィフス・エレメント」をやるので興味のある方はぜひ聴いてみてください。
 エリックセラさんとリュック・ベッソン監督の共同作ですね。

【テンポの使い分け】

 この映画はアクションのパートと人間ドラマのパートがくっきりと分かれていて、みていてあることに気づいたので今回はその話をしようと思います。
 今回は長くなりそうなので、前後半に分けてお話しします。
 その気づいたことはテンポです。
 この映画をみていてどことなく独特なテンポの映画だなーという印象で、そこに引っかかったのでちょっとテンポを調べてみることにしました。
 そうすると意外なことに気づきました。
 それはマチルダさんが映っている時の楽曲のテンポがマチルダさんの心拍数というか気持ちにリンクしている事と全体を占めるテンポが割と一定であるという事です。
 もちろんある程度は偶然ですし、狙っている可能性は低いのですが意識せずに作曲に反映されているのかもしれませんが、半分はこじつけだろくらいで聞いてみてください。
 本当にそうだったら緻密な計算をするタイプの音楽家だなーと思います。
 それと楽曲は揺れているので、正確なテンポというわけではなく、楽曲に占める割合の多いテンポということだけご了承ください。
 まずはマチルダさんの登場しているシーンのテンポを抜粋してみていきます。

マチルダさんの初登場シーン BPM92

 まずはマチルダさんが初めて登場したシーンの楽曲のテンポは約92です。
 これはマチルダさんの出てくるシーンの中でも早い方で、BPMが気持ちにリンクしていない唯一例外のシーンです。

学校からの電話シーン BPM80

 次にマチルダさんが学校からの電話でサボっている報告を受けるシーンです。
 このシーンのテンポは約80です。
 このシーンは家族になりすまし、本人ではない体で電話に出るマチルダさんが「マチルダは死んだ」と学校に言うそんなシーンです。
 嘘をついて学校を休んでいることやそんなことを言ってしまうので、ここは少し早めと言った感じです。

ハンカチをあげるシーン BPM76

 次に映画を観て帰ってきたレオンさんが階段で鼻血を出しているマチルダさんにハンカチをあげるシーンです。
 このシーンのテンポは約76です。
 恐らくは虐待を受け、ハンカチをもらったことが嬉しかったシーンですね。
 この時は先ほどより少しテンポは抑え気味ですね。
 楽曲としても非常に揺れているので、76より少し遅く聴こえます。

レオンさんの家に逃げるシーン BPM143

 次はハンカチのお礼に牛乳を買ってきた先で、自宅のドアから家族の遺体が見えて、そのままレオンさんの家に逃げるシーンです。
 この時のテンポは約143です。
 緊張感があり、レオンさんは状況的に開けるか開けないかを迷っている、そんなシーンです。
 ここは心拍数の上がるシーンですよね。
 楽曲は映画の中でもかなり早いテンポです。

家族のことを話すシーン BPM66

 次に家族のことをレオンさんに話し、それを聞いたレオンさんが励ますシーンです。
 この時のテンポは約66です。
 落ち着いたことがわかります。
 あの惨劇のあとですし、弟さんへの復讐も誓っているので落ち着いてるというよりは安心しているという感じですかね。

初めて銃を撃つシーン BPM143

 つぎにレオンさんに暗殺を教えて欲しいマチルダさんが、返答がNOなことに銃を窓から撃つシーンです。
 ここのテンポは約143です。
 助けられた時と同じテンポですね。
 覚悟を示すために初めて銃を持って撃ったのでしょうから心拍数は上がっていそうですよね。

ライフルの練習をするシーン BPM96

 次にスナイパーライフルの練習をするシーンです。
 この時のテンポは約96です。
 実弾を使った練習ではないのですが、初めて訓練らしい訓練をしているので、緊張感もあります。
 ですので落ち着いている時のテンポが70前後と考えると少し早めですね。

恋をしてみたいマチルダさんのシーン BPM100

 次に恋をしてみたいマチルダさんのシーンです。
 この時のテンポは約100です。
 心拍数のあがるようなシーンなので、ここのテンポが早いのはなんとなくうなずけますね。
 命の危機以外でテンポが早いのはこのシーンが初になります。

前の家に帰るシーン BPM138

 次に、惨劇のあった前の家にマチルダさんが帰るシーンです。
 このシーンのテンポは約138です。
 ここは早いですね。
 弟さんの遺体のあったであろう白い枠?を見てしまったりぬいぐるみを拾ったり、へそくりみたいなのを回収したりしているうちに
 スタンさん達が登場して、心拍数が上がっていると言えますね。
 この後のシーンがすごいです。

スタンさんを追いかけるシーン BPM155

 そのまま復讐相手であるスタンさんを追いかけるシーンです。
 ここのテンポは約155です。
 惨劇のあった家での弟さんとの思い出に浸ったり一家を殺されてしまった事実を受け入れたタイミングでのスタンさんの登場だったので、頭に血が昇って心拍数が上がっていてもおかしくないですよね。
 ここのテンポが映画内でも一番早いです。

拠点を追い出されるシーン BPM83

 次にまたマチルダさんのやらかしで拠点を追い出されるシーンです。
 この時のテンポは約83です。
 少し早めの印象ですが、移動のシーンなのでこのシーンはあまり関係ないかもしれません。

銃で自分を撃とうとするシーン BPM85

 次にマチルダさんが銃で自分を撃とうとするシーンです。
 この時のテンポは約85です。
 少し早めですね。
 緊張感があるにはあるんですが、それよりも対話が重要なシーンで撃つのを止めて欲しいという意味でも心拍数は上がっているかもしれませんね。

初仕事のシーン BPM94

 次はマチルダさんが初仕事をするシーンです。
 この時のテンポは約94です。
 ここは早いです。
 初めて暗殺の仕事をするということで、心拍数が上がっていてもおかしくないですね。
 そしてペイント弾でマチルダさんが暗殺対象を撃つのですが、撃った後にリタルダンドするんですよね。
 撃つことで少し落ち着いたとも取れる面白いシーンです。

仕事のダイジェストシーン BPM98-144

 次は仕事に慣れてどんどん仕事をこなしていくダイジェスト的なシーンです。
 この時のテンポは約98です。
 このシーンも先ほどの移動シーンに近くてあまり関係ないかもしれませんが、そのまま仕事の相手がドア越しに銃を撃ってくるシーンに繋がり、そのシーンではテンポは約144になります。
 いわゆる慣れてきた仕事にイレギュラーが起きたみたいな感じですかね。
 ここでテンポは爆上がりします。
 これも面白いですね。

マチルダさんが家で待つシーン BPM74

 次はレオンさんが一人で仕事に行って、マチルダさんが家で待つシーンです。
 この時のテンポは約74です。
 少し遅めですね。
 イレギュラーな仕事の後に置いてけぼりなのでここはしょんぼりですね。
 テンポも少し遅めです。

一人でスタンさんの元へと乗り込むシーン BPM82

 そして次はマチルダさんが一人でスタンさんの元へと乗り込むシーンです。
 この時のテンポは約82です。
 この復讐のためにということでテンポも少し上がっています。

レオンさんが助けに来るシーン BPM91-74

 そしてそのまま捕まってレオンさんが助けに来てくれます。
 この時のテンポは91です。
 それで助けてに来てくれたレオンさんに会えて、その時の楽曲のテンポは74です。
 安心したかのようにテンポが変動している感じがしますね。

レオンさんの過去について聞くシーン BPM75

 次にレオンさんの過去について聞くシーンです。
 この時のテンポは75です。
 過去があまりにも悲しいのでテンポもすっかりこうですね。

警察が拠点に突入する前のシーン BPM87

 次に警察が二人の拠点に突入する前のシーンです。
 この時のテンポは約87です。
 緊張感もあり、テンポも早めですね。
 この時マチルダさんは警察側に確保されていて緊張の時です。

マチルダさんを一人で逃がすシーン BPM113

 その後マチルダさんを奪還し逃げ道を確保するシーンです。
 しかし逃げ道が狭すぎてレオンさんは別の方法で逃げると、一人で逃げることを嫌がるマチルダさんを説得します。
 この時のテンポは約113です。
 とても早いですね。
 緊迫感もあり二人とも逃げることができる保証はどこにもないですもんね。
 特にマチルダさんは一人で逃げることへの抵抗があるため、テンポも上がっているように感じます。

トニーさんの元へ向かうシーン BPM84

 次にマチルダさんがとりあえず逃げきれそうなシーンです。
 警察にも気づかれていない様子で、お世話になったイタリアンマフィアのトニーさんの元へ向かいます。
 この時のテンポは約84です。
 おそらくレオンさんは助からなかったことも察していたと思うので、テンポは少し早めと言ってもいいかもしれません。

学校の庭に植物を植えるシーン BPM83

 そして最後に学校の庭にレオンさんが大切にしていた植物を植えます。
 この時のテンポは約83なんですが、エンディングで演奏されている挿入歌のようなので例外になってしまうかもしれませんね。

テンポの使い分け まとめ

 このように、マチルダさんの心拍数と言いますか気持ちがテンポに合わせられていると取ることもできます。
 もちろん、アクションではテンポが早まったり、落ち着いたシーンでテンポが遅かったりと当たり前なこともあるのですが、今回微妙な変化、例えば初仕事をした時のテンポが94から若干リタルダンドしたり、学校のサボりの電話対応の時は80でその後階段でレオンさんからハンカチをもらうシーンでは76とテンポが若干変化していたりと、気持ちに沿うように若干の変化がみられます。
 シーンのテンポ感に合わせてテンポを作っていると思うので、映画自体の画作りとしてのテンポをコントロールしていて、それに合わせた結果がマチルダさんの感情のテンポとマッチしていたのかもしれません。
 この二人の名コンビたるゆえんはその辺りにあるのかもしれませんね。

 テンポ別でシーンを軽くまとめてみると、全体を通して、特にテンポが早かったのはマチルダさんが自宅の惨劇をみてレオンさんに助けてもらうシーン、窓から拳銃を撃つシーン、マチルダさんがスタンさんを追っかけるシーン、仕事にイレギュラーが起きたシーンの4つです。
 意外にも仕事のイレギュラーが起きたシーン以外はアクションシーンではありません。
 全てマチルダさんの感情が大きく揺らいだシーンです。
 この場合は仕事のイレギュラーも感情が揺らいだと言えますね。
 テンポも約143~155と早いです。

 そして次に中ぐらいのテンポだったのが、恋をしてみたいマチルダさんのシーン、凄惨な家に戻るマチルダさんのシーン、警察が押し寄せてきて逃げる方法を説明しているシーンです。
 テンポは約100~138と早め寄りの中ぐらいです。
 警察が押し寄せてくるシーン以外は割と感情がどことなく揺れているようなシーンが多いですね。
 マチルダさんが出てこないシーンですとスタンさんが一家を襲撃した時が約103なので近いですね。

 次に早めの遅めといいますか、遅めの中ぐらいのテンポが多く、マチルダさん登場シーン、学校から電話がくるシーン、スナイパーライフルの練習をするシーン、拠点を追い出されるシーン、拳銃を自分にむけるシーン、初仕事のシーン、仕事をたくさんするダイジェストシーン、ひとりでスタンさんの元へ行くシーン、マチルダさんを助けにいくシーン、警察が突入する前のシーン、マチルダさんのみ生存したシーン、植物を庭に植えるシーンとこのテンポのシーンがとても多いです。
 テンポは約80~98と遅めの中くらいです。
 全体的に大きな感情の揺れはあまり感じられないシーンが多いですね。
 このテンポが割とフラットなテンポと言えるかもしれません。

 そして最後に遅めのテンポです。
 約66~76です。
 マチルダさんがハンカチをもらうシーン、レオンさんから励ましてもらうシーン、レオンさんが一人で仕事に行き帰りを待つシーン、レオンさんがスタンさんから助けてくれるシーン、レオンさんの過去を聞くシーンです。
 これらのシーンはどこか感情的に落ちている、バラードな気分のシーンが多いですね。
 これらが意図したものかどうかはわかりません。
 ただ、このようにまとめるとリンクしていると取ることもできますよね。

 それと僕が気になったのはもう一つあって、テンポが約80~98の間の楽曲が特に多かったことです。
 映像のテンポに合っていたのだと思いますが、これが映画を観ていて感じた独特のテンポな気がします。
 アクション映画はテンポの振れ幅が大スペクタクルな印象を与えますが、この映画は少し特殊で基本的にはヒューマンドラマで、その結果起きた出来事がアクションであったと考える方が妥当かもしれません。
 さらに、ニューヨークのリトルイタリーでの出来事で最後なんかは大事件ではありますが、大規模というよりはどこかミクロなあくまでも大都市の片隅で起きた出来事のような他人の人生を覗き見しているような不思議な感覚があります。
 これがこの映画の醍醐味でもあり、魅力の一つだと感じました。
 今回初めて映画の楽曲のテンポを分析してみましたが、なんだかとても面白いですね。
 また違った見え方で新しい解釈が生まれたりと、映画の楽しみ方がさらに広がった感じがしました。

【エンディング】

 2回にわたってレオンをやってきました。
 1回目には映画全体の持つ雰囲気や電子楽器についてやりました。
 エリックセラさんの醸し出すジャンルの使い分けがとても冴えていて、そのジャンルの出し方が雰囲気に繋がっていたわけですね。
 そして、電子楽器とオーケストラを合わせることに長けているエリックセラさんなので、電子楽器の使われどころや電子楽器の歴史についてみてきました。
 今回は楽曲のテンポがマチルダさんの感情に合わせるように使い分けられていたのをみてきました。
 初めは独特なテンポの理由を探るためにやってみたら、面白いことも見つけられて新たな映画音楽の楽曲分析に使えそうな印象です。
 そのテンポコントロールというアプローチからせめている作品にまだ出会ってないのか、すでにあるのに気づいてないだけなのか、わからないですが、新たな手法に落とし込めそうな気がしました。
 
 サブスクリプションで「フィフス・エレメント」をやるので興味のある方はぜひ聴いてみてください。
 次回はディズニーアニメーション作品の「アラジン」をやろうと思います。
 アランメンケンさんが音楽を担当されていますね。
 楽しみにしていてください。

 最後までお読みいただきありがとうございました。
 映画にみみったけ、放送時のパーソナリティはヨシダがお送りいたしました。
 podcastのエピソードは毎週日曜日に配信中ですので、そちらでもまたお会いいたしましょう。
 ではまた!

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