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#47【トロイ】ep.1「ヒリつく戦いの演出、使い方が神がかっています」

※この記事はPodcast番組「映画にみみったけ」内のエピソード#47にあたる内容を再編集したものです。

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【トロイについて】

2004年公開
監督:ウォルフガング・ペーターゼン
音楽:ジェームズ・ホーナー

作曲家紹介

 ジェームズ・ホーナーさんは以前このポッドキャストでもやったアバターの音楽を担当されていた方で、タイタニックの音楽も担当されていました。
 最近更新されてしまいましたが、アバターとタイタニックは興行成績1位2位で人気作品に多く携わっていますね。
 この2作に加えエイリアン2はジェームズキャメロン監督とのコンビとして有名ですね。
 他の作品もアカデミー賞やサターン賞、グラミー賞などで賞にご縁のある方です。
 しかし残念なことに2015年に亡くなられてしまいました。
 その後作曲がほぼ終わっていたマグニフィセント・セブンはアバター2の音楽を担当されたサイモン・フラングレンさんが補筆して本編で使われてたとのことですね。
 意志が受け継がれているようでなんだかアツいですよね。
 今後新作が聴けないのは寂しいですけれども、たくさんの作品を手掛けている方なので、過去の作品を楽しむのもいいですね。

作曲家作品

スタートレックII カーンの逆襲
スタートレックIII ミスター・スポックを探せ!
ブレインストーム(サターン音楽賞受賞)
コマンドー
アメリカ物語(グラミー賞受賞)
アメリカ物語2/ファイベル西へ行く
フィールド・オブ・ドリームス(アカデミー作曲賞ノミネート)
ブレイブハート(アカデミー作曲賞ノミネート)
キャスパー
アポロ13(アカデミー作曲賞ノミネート)
ジュマンジ
ディープ・インパクト
マスク・オブ・ゾロ
レジェンド・オブ・ゾロ
グリンチ(2000年、実写、サターン音楽賞受賞)
ビューティフル・マインド(アカデミー作曲賞ノミネート)
アメイジング・スパイダーマン
マグニフィセント・セブン(最後の担当作品)
エイリアン2(アカデミー作曲賞ノミネート)
タイタニック(アカデミー作曲賞受賞)
アバター(サターン音楽賞受賞)

登場人物

アキレス:
ギリシアの英雄。
アガメムノンに不満を抱きながらもトロイとの戦争に参加する。

ヘクトル:
トロイの王子でパリスの兄。

パリス:
トロイの王子。
メネラオスの妻ヘレンを祖国に連れ帰る。

ヘレン:
メネラオスの妻。パリスと恋に落ちる。

ブリセウス:
パリスの従妹。神殿の巫女。

オデュッセウス:
アキレスの親友。
アキレスにトロイア戦争への参加をうながす。

アガメムノン:
ミュケナイ王。
ギリシア連合軍を率いてトロイを侵攻する。

メネラオス:
スパルタ王。
アガメムノンの弟で、ヘレンの夫。

パトロクロス:
アキレスの従兄弟。
アキレスの元で戦いを学んでいる。

あらすじ

 今から3200年前。ミュケナイの王アガメムノンはギリシャの国々をまとめあげ、同盟国としていました。
 一方で、アガメムノンの弟メネラオス王は、トロイとの間で和平交渉をおこなっているさなかでした。
 トロイの王子、ヘクトル王子とパリス王子がメネラオス王の元を訪れ、一見平和のうちに交渉はまとまるかにみえました。
 しかし実のところ、トロイの王子であるパリス王子はメネラオス王の妻であるヘレンさんと通じ合っていたのです。
 愛をつらぬくため、ヘレンさんを祖国トロイへと連れ帰ってしまうパリス王子。
 当然これに激怒したメネラオス王は、兄であるアガメムノン王に助力を求めました。
 密かにトロイ侵攻を目論んでいたアガメムノン王は、これを口実にトロイに対しギリシャ連合軍を率いた大規模な戦争を仕掛けました。
 ついに始まったトロイ戦争。この戦いにはギリシャの名高い英雄アキレスも加わっており、彼の活躍によってトロイ側は苦戦を強いられます。
 しかしアキレスは内心アガメムノン王に不満を抱いており、彼が捕らえ保護していたトロイの巫女プリセウスを取り上げられたことをきっかけに、戦闘を放棄するようになります。
 一方トロイの王子パリスは戦争を終らせるため、メネラオス王に対して決闘を申し込みます。
 ですが戦闘経験のないパリス王子ではメネラオス王に歯が立たず、ついには剣を奪われ窮地に陥りました。
 そしてそんなパリスを守るため、兄であるヘクトル王子は一騎討ちの誓いを破りメネラオス王を殺害してしまいます。
 こうして弟を殺されたアガメムノン王はトロイ軍に対して一斉攻撃を仕掛けるのですが、アキレスを欠いたギリシャ軍は攻めあぐね、しまいにはトロイに押されはじめます。
 次第にギリシャ軍の内部では戦闘に参加しないアキレスさんに対する批判が高まり始めました。
 アキレスさんの従兄弟であり彼に師事するパトロクロスさんはこうした批判に耐えきれず、ついには自身がアキレスさんの鎧を着込んで影武者として戦場に立ちます。
 アキレスさんの参戦により士気を取り戻したギリシャ軍。
 トロイ側もヘクトル王子自らが出向いて迎え撃ちます。
 こうして始まった二人の戦いですが、やはりパトロクロスさんではヘクトル王子には敵わず戦死してしまいます。
 遺体を前に、それがアキレスさんではないことに衝撃を受ける両陣営。
 そしてパトロクロスさんの死を知らされたアキレスさんは、仇であるヘクトル王子を討つため再び戦場へと戻っていくのでした。

【戦いで演奏されるテーマ】

 この映画はトロイとミュケナイの戦いが映画の主軸となります。
 これはどちらがヒーローでどちらがヴィランかというのは明言されていないといってもいいのですが、トロイがどちらかといえば人道的なヒーローで、主人公呼べるアキレスさんは非人道的なミュケナイに所属しているという、どちらの点からも描かれている映画です。
 今回はそのミュケナイのために用意されたフレーズというのを見ていきたいと思います。
 アガメムノンにとても合うヒリついた緊張感のあるフレーズが必ず演奏される仕組みになっていました。
 そのメロディとはこのようなフレーズです。
(演奏)
 非常に緊張感のあるフレーズですよね。
 こちらアップルミュージック トロイ ミュージック フロム ザ モーションピクチャー 3曲目に収録されている「アキレス リードズ ザ ミュルミドン」という楽曲で聴くことができます。
 このフレーズはミュケナイの戦いのライトモチーフとして機能します。
 戦いの多いこの映画では非常によく演奏されるフレーズですね。
 ではどのようなシーンで使われていたかを見ていこうと思います。

ミュケナイの戦いのライトモチーフ1

 まずは
37:18
ミュケナイがトロイに進軍してきたシーンです。
 このタイミングでは直接的な戦いはないのですが、その後トロイの浜で大規模な戦闘が始まります。
 トロイではミュケナイの規模感に恐怖すら覚えるシーンですね。
 この緊張感のあるフレーズが非常に素晴らしい組み合わせのシーンです。

ミュケナイの戦いのライトモチーフ2

1:17:36
 パリス王子とメネラオス王がヘレンさんをかけて一騎打ちをし、負けそうになったパリス王子を兄であるヘクトル王子が助け、メネラウス王を殺してしまい、それを皮切りにミュケナイがトロイに攻め込もうとするシーンで演奏されます。
 ここはミュケナイの進軍が演奏の動機になっていますね。
 ひとつ前のシーンとこのシーンでミュケナイが攻めてくる時に演奏されていることがわかりますね。
 戦いが演奏の動機ともとれるのですが、ミュケナイが攻め込む時に演奏されているというのが、次のシーンでわかります。

ミュケナイの戦いのライトモチーフ3

1:40:25
 トロイがミュケナイに奇襲を仕掛けるシーンでは、違う演奏がされます。
このシーンではヒロイックなメロディが演奏されているのがおもしろいですね。
 そこにアキレスさんの鎧を纏ったパトロクロスさんがヘクトル王子と決闘する時に、ミュケナイの戦いのライトモチーフが使われます。
 この両者の攻防は8曲目に収録されている「ザ トロジャンズ アタック」で聴くことができます。
 ですので、やはりミュケナイの侵攻が演奏の動機でありライトモチーフとなっていることがわかりますね。

ミュケナイの戦いのライトモチーフ4

 次が、
2:16:01
ヘクトル王子がアキレスさんにやぶれ、葬儀を行うため12日間の休戦が約束された後ですね、12日後にミュケナイが拠点としていた浜に来てみると、そこはもぬけの殻で、一体の大きな木馬が置かれているシーンです。
 ここは戦闘がないのですが、この木馬の中にミュケナイ兵が潜伏しているので有名なトロイの木馬ですよね。
 このミュケナイ兵が潜伏していることを示唆するようにフレーズが演奏されます。
 実際に戦闘がなくても、作戦にもこのフレーズが使われているのは面白いですよね。
 ミュケナイの侵攻に関する出来事にはこのフレーズを演奏する動機が隠れているわけですね。
 ですので、そこからすぐのシーンでも、

ミュケナイの戦いのライトモチーフ5

2:18:48
海岸沿いを警備していたトロイ兵が違う海岸に、ミュケナイ兵の船が潜伏していたのを見つけるシーンです。
 このシーンでも戦闘らしいことはおきないのですが、フレーズは演奏されます。
 それはミュケナイの作戦が演奏の動機になりますね。

ミュケナイの戦いのライトモチーフ6

 その後、
2:19:02
ではトロイに運び込まれた木馬からミュケナイ兵が出てくるところや
2:25:15
トロイが落とされるシーンでも使われています。

戦いで演奏されるテーマ まとめ

 では、なぜこのような緊張感のあるヒリついたフレーズを使ったかというと、この映画はミュケナイとスパルタの合同国がトロイに攻め入る内容です。
 その中でミュケナイのアガメムノン王は人道的ではないと言いますか、ぶっちゃけかなり酷い人です。
 そんなミュケナイにトロイが落とされてほしくない、という構図が出来上がります。
 この構図の中でミュケナイの侵攻はトロイにとって脅威になります。
 その脅威こそがこのフレーズを作曲するに至っているわけですね。
(演奏)
 そのためトロイが奇襲をかけた時の演奏はとてもヒロイックで英雄的なメロディを採用しています。
 実際は戦争の火種を生んだのはトロイなんですけれどもね。
 しかしその火種を利用して、トロイを自分の配下におきたいアガメムノン王の策略ですので、誰がいい奴で誰がわるい奴かは一概に言えない感じですよね。
 ただ、音楽の演出上トロイがいい奴でミュケナイがわるい奴という構図が出来上がっているわけですね。

【英雄アキレスと他の英雄的表現】

 先ほど、トロイの奇襲の時には英雄的なメロディが採用されているという話をしましたが、その他にも使われているシーンがあります。
 基本的には英雄的な音楽というのは主人公であったり、その行いが人々を助けるような、力強いかっこいい対象に対する、いわゆるポジティブな行為やキャラクターに与えられる音楽ですね。
 さらに映画を観ている観客は英雄的な音楽に救世主のようなイメージを抱くという効果もあります。
 そしてこの映画は古代ギリシャの話で、主人公にはアキレスという神話上の名前まで登場します。
 このアキレスさんが非常に面白い立ち位置のキャラクターでして、前半でも話しましたが、映画の大部分では主人公のような誰にも負けない英雄なのですが、その戦争ではトロイ軍の敵であるミュケナイ軍に付いています。
 大きな括りでは敵国にいるのに、単体でみると敵国にいる主人公のような構図ですね。
 ですので、その音楽には非常に気を使っているわけです。
 ということで、後半はアキレスさんの立ち位置を音楽の角度からみていこうと思います。
 今回の映画で登場するアキレスさんは、神ではなく、強い人として描かれています。

アキレスさんの登場シーン1

 そのアキレスさんの登場は、
6:54
映画冒頭、敵国の大男と決闘するシーンです。
 ここでは英雄的な音楽は演奏されておらず、どちらかといえば恐ろしい印象を受ける音楽が採用されています。
 このシーンでは何にも恐れない強さと名声に貪欲な男として登場します。
 そのキャラ付けが映画中盤以降の戦わないアキレスさんにかかっていて、とても印象深いシーンですね。
 恐怖すら感じる強さがこのシーンで演奏される音楽には込められているというわけですね。
 しかし次に登場する時は印象をガラッと変えます。

アキレスさんの登場シーン2

21:26
残念ながらOSTにはこの時に演奏される楽曲はないのですが、、、
 アキレスさんがいとこのパトロクロスさんに剣技を教えているシーンです。
 強さもさることながら、家族であるパトロクロスさんには厳しくも優しく剣技を教えています。
 この登場シーンでは英雄的な音楽が演奏されます。
 王や大男をも恐れない戦いの達人であるアキレスさんはギリシャでは勇者として強く慕われています。
 そしてこのシーンではオデュッセウスという友人に戦争に誘われるシーンです。
 映画としてはもちろんめちゃめちゃ強いけど人として描かれています。
 しかし英雄的な音楽と並外れた剣技、なんだか遺跡のような場所と神のような扱われ方をしているようにも観える演出ですよね。
 初登場のシーンでは恐ろしいほどに強い人として、次のシーンでは神々しさすら感じる強い人としてアキレスさんは描かれています。
 強い人に変わりはないのですが、みえている角度から真逆の人を作り上げています。
 この二面性の中でこの後のストーリーは展開されていると取ることもできます。

アキレスさんの登場シーン3

 ではアキレスさんが活躍するこの後のシーンを見ていきます。
39:59
アキレスさん率いる少数精鋭がトロイの海岸を攻め込むシーンです。
 前半はミュケナイの侵攻が動機で演奏される、フレーズが演奏されていますがアキレスさん達が優位に立ち始めると、楽曲は英雄的な楽曲へと移り変わっていきます。
 さすがギリシャの勇者と言われるだけあって、強さは圧倒的です。
 その後ミュケナイ兵が上陸していくタイミングで前半で話題に上がったフレーズが演奏され、アキレスさんのシーンに戻るとまた英雄的な楽曲が演奏されて、シーンに合わせて楽曲が移り変わっていくのも見事な演出です。
 そこからアキレスさんは戦いに参加せず、映画は後半に向かいます。

アキレスさんの登場シーン4

1:59:02
アキレスさんとヘクトル王子の一騎打ちのシーンです。
 このシーンは非常に面白いですね。
 長尺のアクションシーンで、その間メロディやフレーズ、ハーモニーの類は演奏されません。
 ただパーカッションでリズムが刻まれます。
 シーンに合わせて強弱を設けているだけなんです。
 あとは剣のぶつかり合う金属音であったり、地面を蹴る砂の音などが鳴るだけです。
 非常に緊張感があり、共に決闘し合う敬意のようなものを感じることができますね。
 しかし圧倒的な力の差でアキレスさんが勝利します。
 その決定打となる攻撃が繰り出されたタイミングで民族的なコーラスが入り、バラードな演奏が始まります。
 全体を通して戦いにはとても力強いパーカッションが登場するものの、テーマとなるフレーズや英雄的なメロディが演奏されていましたが、ここではそれらが演奏されないというのがとても作品の中で新鮮味を感じて映像に集中できるようにしています。

アキレスさんの登場シーン5

 そして最後に
2:27:41
ではブリセウスさんを救うためにトロイ中を探し回っているアキレスさんのシーンです。
 この時はとても英雄的な楽曲が演奏されています。
 ブリセウスさんはアキレスさんにとって最後の彼女的な存在で、ミュケナイにとっては敵国の王子のいとこにあたります。
 アキレスさんはいとこを殺されたことでヘクトル王子に復讐して、ヘクトル王子を殺したことでパリス王子に殺される、というなんとも悲しい最後では悲しくも激情を感じる楽曲で幕を閉じるのはとても感動的な演出ですね。
 古代ギリシャの英雄譚といった感じですね。
2:31:50
ではアキレスさんは火葬され、悲しいバラードに編曲されたトロイのメインテーマとコーラスが悲しく演奏されます。

英雄アキレスと他の英雄的表現 まとめ

 アキレスさんは勇者と呼ばれるほど強く、怖がられるほどにも強かったので、英雄的な楽曲とネガティブな楽曲の両方が剣の矛先によって使い分けられていました。
 その中でもアキレスさんとヘクトル王子は敵ながらもどこか心を通じ合わせていたように感じます。
 その結果メロディもハーモニーもないパーカッションが二人の剣闘を見守るように演奏されていたのかもしれませんね。

【エンディング】

 今回は映画トロイから、ミュケナイに関する戦いのテーマとアキレスさんの音楽の使い分けについてみてきました。
 ミュケナイのやり口はとても嫌な感じで、その結果あのようなフレーズが演奏されていたのかもしれませんね。
 アキレスさんはそのあまりの強さに見る相手によって楽曲が使い分けられていましたが、その方向性はやはり英雄的で主人公と呼んでもいいものでした。
 ヒーロー側にヴィランがいてヴィラン側にヒーローような構図がとても面白く、その見分けかたは音楽を聴いていればわかる仕組みになっていたのも面白い仕掛けですよね。
 次回なのですが今シーズンのサブスクリプションはブレイブハートから1曲、楽曲を分析しています。
 この映画も13世紀末のスコットランドの話なので、過去の英雄譚特集のような感じですね。
 興味のある方は初月無料ですのでぜひ聴いてみてください。

 最後までお読みいただきありがとうございました。
 映画にみみったけ、放送時のパーソナリティはヨシダがお送りいたしました。
 podcastのエピソードは毎週日曜日に配信中ですので、そちらでもまたお会いいたしましょう。
 ではまた!

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