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#89【マイ・エレメント】ep.1「メッセージ性とリンクする、音楽の作り方」

※この記事はPodcast番組「映画にみみったけ」内のエピソード#89にあたる内容を再編集したものです。

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【マイ・エレメントについて】

 2023年公開
 監督:ピーター・ソーン
 音楽:トーマス・ニューマン

作曲家紹介

 トーマス・ニューマンさんはニューマン一族という劇伴作家として有名な一族の次男にあたる人物です。
 父であるアルフレッド・ニューマンさんを筆頭に、兄のデイビット・ニューマンさんや従兄のランディ・ニューマンさんと一族皆、数えきれない程の作品を手がけています。
 そんなトーマス・ニューマンさんの音楽性は、ヒューマンドラマでその力を遺憾なく発揮します。
 このポッドキャストでもショーシャンクの空にやファインディング・ニモでみてきました。
 詳しいトーマスニューマンさんの作家紹介はS2#43ショーシャンクの空にの回でやっているので、ご興味のある方はそちらも聴いてみてください。

作曲家作品

 ザ・プレイヤー
 ショーシャンクの空に
 ジョー・ブラックをよろしく
 モンタナの風に抱かれて
 アメリカン・ビューティー
 グリーンマイル
 エリン・ブロコビッチ
 ペイ・フォワード 可能の王国
 ファインディング・ニモ
 ファインディング・ドリー
 レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語
 ウォーリー
 007 スカイフォール
 007 スペクター
 1917 命をかけた伝令
 オットーという男
 マイ・エレメント

登場人物

 エンバー・ルーメン:
 ファイアプレイスで働く火のエレメント。癇癪持ち。
 
 ウェイド・リップル:
 水のエレメントの青年。エレメント・シティの市役所で検査官として働く。
 
 バーニー・ルーメン:
 エンバーの父親でファイアプレイスの店主。
 
 シンダー・ルーメン:
 バーニーの妻でエンバーの母。
 
 ゲイル・キュミュラス:
 ウェイドの上司である風のエレメント。
 
 クロッド:
 エンバーに恋する土のエレメントの子供。

あらすじ

 火・水・土・風のエレメントたちが暮らすエレメント・シティ。
 その一角にある雑貨店で働く炎のエレメント・エンバーさんは、病気がちな父から店をつぐため一生懸命に働いていました。
 やがてその努力が認められ、エンバーさんはお店のセールの切り盛りを任されることになります。
 一人前になったところを父に見せるため、セールに大張りきりなエンバーさん。
 しかし、彼女にはカンシャクを起こすと周囲に炎をまきちらしてしまうという欠点がありました。
 やがて次から次へとやってくる身勝手なお客さんたちに耐えきれず、とうとう彼女は地下室でフラストレーションを爆発させてしまいます。
 そしてエンバーさんの起こした炎は水道管を壊してしまい、地下室は水浸しになってしまいました。
 あわてて水道管をふさごうとするエンバーさんですが、その時壊れた水道管から水のエレメントが飛び出してきました。
 ウェイドさんというそのエレメントはどうやら市の検査官のようで、街の水漏れを調査していたところ誤って水道管に吸い込まれたのでした。
 壊れた水道管を見渡し、それが市の基準を満たしていないと指摘するウェイドさん。
 彼が違反報告書を提出すれば、店は営業停止になってしまいます。
 必死に止めるエンバーさんでしたが、彼女の訴えもむなしく報告書は提出されてしまいます。
 しかしエンバーさんの身の上に同情したウェイドさんは、彼の上司に直接掛け合ってくれます。
 そして説得の結果、「街の水漏れの原因を突き止め、週末までにふさぐこと」という条件のもと、営業停止は見送られることとなりました。
 こうして火と水、正反対の二人は力を合わせて原因究明に乗り出すことになったのです。

【はじめに】

 ディズニー・ピクサー作品らしい、可愛らしいけど大人が見てもどこか考えさせられる内容ですね。
 僕個人はピクサー作品のファンなので、今作も非常に楽しく観入ってしまいました。
 そしてなんといっても美しい映像が、この映画の醍醐味の一つと言っても過言ではないですね。
 それと表情豊かなキャラクターがとても魅力的です。
 見た目は火だったり水なんですが、人の顔に見える気がする表現力が見どころでもあります。
 それと映画には欠かせないメッセージ性も、昨今抱える人種差別や移民問題であったり、親子で抱える問題であったりと、近現代では普遍的な問題に関しても触れていました。
 これにはピーター・ソーン監督の生い立ちが影響しているそうです。
 ディズニー+で観ることができる「マイ・エレメントが起こす奇跡の化学反応:メイキング映像」でやっていたので、作品が好きだった方は観てみると面白いと思います。

【マイ・エレメントの音楽の方向性】

 ということで今回は、マイ・エレメントの音楽の方向性についてみていこうと思います。
 映画における音楽の方向性というのは、描かれる時代や文化的背景がその方向性を決めていきます。
 気軽に宇宙に行ける近未来であったり、機械文明ではなく魔法が文明の中枢を担う世界であったり、人間の代わりにモンスターが暮らしていたりと、映画には様々な世界を小旅行しているような楽しさがあります。
 わかりやすいところだと、日本を舞台にしていればお箏や三味線、龍笛などの雅楽が使われたりします。

移民に影響を受けた音楽

 ではこの映画にもどると、4つのエレメントが暮らす都市エレメント・シティが舞台です。
 大部分は水が占めていて、次に土、風、最も少数が火という都市です。
 文明も見るからに発展していて、電車やバイクなんかも出てきました。
 そんな世界観の音楽とはどのように考えるのかはなかなか難しいですよね。
 この映画の場合、エレメントらしい音でも、発展した文明でもなく「移民」に大きな影響を受けているようです。
 というのも、映画が占める音楽の多くは民族音楽に由来しています。
 それは楽器もそうですし、作曲も然りです。
 どこか異国情緒を感じさせることが、様々な人種が入り混じっているエレメント・シティという都市を表現しているように感じられます。

異国情緒のある音楽1

 この異国情緒のある音楽性は都市の様子を見せる時に多く登場しています。
 例えば、映画冒頭に主人公のエンバーさんの両親が住み始める街があります。
 ここはもともと草が生えた住宅街でしたが、住んでいるうちに活気が出てきて、火に強いレンガや金属の建物がひしめき合うようになり、ファイアタウンと呼ばれています。
 この時、エンバーさんの成長までの過程で演奏されている楽曲には、中国のようなオリエンタルな印象を受けます。
 これは街に中国感があるというわけではないと思うのですが、入り混じった文化という意味でここではオリエンタルが選択されたように感じられますね。

異国情緒のある音楽2

 というのも、ブルーファイアという火のエレメンタルが大切にしている火種の説明をしているシーンです。
 ここでは、ファイアランドというもともとエンバーさんの両親が住んでいた土地がでてくるのですが、ここではインド由来の楽器が使用されたりとインドの雰囲気があります。
 ただ、建物や風土はインドとは違いそうなので、インドっぽい演出をしたいわけではなさそうですよね。
 あくまで、異国情緒をどのように音楽に組み込むかが重要になっているようです。

異国情緒のある音楽3

 他にもインドを想起させる音楽は登場します。
 水のエレメントのウェイドさんに営業停止の報告をさせないために、エンバーさんが追いかけるシーンです。
 この時は、電車に乗って市役所まで向かっているのですが、リズミカルな楽曲の中にこれまたおそらくシタールですね。
 インド由来の楽器が登場しています。
 全体的にはオリエンタルな雰囲気を強く感じますね。

マイ・エレメントの音楽の方向性 まとめ

 この楽曲もそうなんですが、どこか異国っぽい音楽というのが特徴です。
 このどこかインドっぽいとか、どこか中国っぽいとかこの「ぽい」で終わるのがこの映画音楽のすごいポイントです。
 もちろん、まさにインドらしくも完全に中国らしくも「いかにも」な楽曲を書くことはいくらでもできるはずなんです。
 しかしこの映画で大切なのは、現実の異国情緒ではなく、どこか異国情緒を感じさせる必要があるというところです。
 ピクサー映画のすごく好きなポイントなんですけども、現実に酷似しているのに、現実とはかけ離れているこのバランスがとてもイケてます。
 全くの異世界の話なのですが、どこか現実味を帯びているそのバランスが、今作マイ・エレメントにも生かされている、ととることができます。
 そのため、映画の重要なシーンではバラードやアクション音楽が演奏されるのですが、そこには異国情緒の雰囲気はあまり感じられません。
 あくまでも街を映すシーンであったり、情景が映るシーンで異国の雰囲気が与えられているというのが、この映画の音楽の方向性として表現されています。
 このおかげで、人種差別や移民問題といったようなメッセージ性が浮き彫りになって、大人も楽しめる作りになっているわけですね。
 もちろん異国情緒を感じさせながらも、楽曲としてはシーンに合わせたジャンルの書き分けがハッキリしているので、なにも考えずに、というか集中してみていなくとも楽しめてしまう、というピクサーの持つエンターテインメントの最高峰を感じさせる作りです。

【クワイア音源が使われている点】

 次にこれは気になったことなのですが、クワイア音源が使われている点です。
 クワイアとは、音楽業界では聖歌隊や合唱のことをクワイアと呼びますが、このクワイア音源は人間のコーラスあるいはソロ歌唱を収録した音のことを指します。
 これは音楽制作で使われるものですね。
 日本でも流行ったボーカロイドにも近いっちゃ近いですが、ボーカロイドは歌詞を歌わせることができるので、少しニュアンスが違います。
 このクワイア音源がこの映画には使われているんですね。
 いや、正確には違うかもしれないんですが、おそらくクワイア音源だと思います。
 どのようなものか少し音を出してみますね。
 (演奏)
 普通に人が歌っているように聴こえますが、どこか肉声ではないような違和感が若干残ります。
 この違和感をわざと生かしている楽曲がちょくちょく登場します。
 アップルミュージック マイ・エレメント オリジナル サウンドトラック 4曲目に収録されている「エレメント・シティへ」という楽曲があるのですが、この楽曲の先ほどいったクワイア、コーラスですね。
 この音が非常に不思議というか違和感を感じさせる音声になっています。
 なにが違和感を感じさせているかというと、人間の発声として「あり得ない音」を鳴らしています。
 あり得ない音というのは、言語は口から発声している以上、口の動きに連続性が生まれます。
 例えば日本語の母音である「あ」から「う」に発声する時口は、大きく開けている「あ」から口を尖らせる「う」へと変化します。
 口を開けっぱなしにすると「あ」と「う」の中間のような発声になります。
 このように言語や歌には口の連続性が生まれます。
 これを無視したのがクワイア音源となります。
 この違和感をわざと感じさせる楽曲がちょくちょく登場します。
 なにが言いたいかというと、火のエレメントには独自の言語形態があるシーンが登場します。

クワイア音源の使われているシーン1

 2:43
 ではエンバーさんの両親がエレメント・シティの入国審査のようなものを受けているシーンが登場します。
 このシーンで、両親が名前をいう際にスペルを聞かれるのですが、そのスペルが認識できない発音、火のエレメント独自の言語のような発声をします。

クワイア音源の使われているシーン2

 54:25
 でもウェイドさんの実家に遊びに行った際に、ウェイドさんの叔父から共通語が流暢だと褒められるシーンが登場します。

 どうやらエレメントには本来はそれぞれの独自の言語形態があって、いつもは共通語を話しているようですね。
 この独自の言語形態を表現しているのではないかと思います。
 独自の言語は、おそらく人間が聞き分けられない発声をするものなのではないかと思うので、その表現としてクワイア音源を使用して、わざと「違和感のある音」もしくは「あり得ない音」を残して作曲に生かしていると考えると、非常に面白い仕掛けなわけです。
 これもまた異国を思わせる仕掛けになっていますね。
 もちろん楽曲には英語も登場するのですが、この微妙な違和感を映画の節々に入れることで、映画全体に多国籍な印象を与えて、映画の持つメッセージ性を強化しているような作りが非常におもしろいですね。

【エンディング】

 今回は音楽の方向性とクワイア音源を使っていることに関してやってきました。
 まあ実際クワイア音源ではなく、音声合成(サウンドコラージュ)をやっている可能性もあるので、一概には言えませんが、聞いている感触としてはクワイア音源じゃないかなと思います。
 今回やった二つはこの映画の根幹とも言える「多種族や移民」などの一箇所に、もとは文化も言語も違う種族が集まることで起きた物語を浮き彫りにするような、そんな音楽的な仕掛けについてでした。
 次回はマイ・エレメントの続きとサブスクリプションで「オットーという男」これは2023年に公開された方ですね。
 これをサブスクリプションでやろうと思います。
 
 ということでサブスクリプションは過去の特別エピソードも聴き放題で初月無料、月額300円で聴くことができます。
 それと番組のフォローとXのフォローも励みになりますので、よろしくお願いいたします。
 あと映画にみみったけでは、お便りも募集しています。
 info@eiganimimittake.comにてお便りお待ちしております。
 やってほしい映画とか、この回が好きだったなど、どしどしお待ちしております。

 最後までお読みいただきありがとうございました。
 映画にみみったけ、放送時のパーソナリティはヨシダがお送りいたしました。
 podcastのエピソードは毎週日曜日に配信中ですので、そちらでもまたお会いいたしましょう。
 ではまた!

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