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#4【バック・トゥ・ザ・フューチャー】ep.1 「世界一のやりくり上手、ライトモチーフの考え方」


※この記事はPodcast番組「映画にみみったけ」内のエピソード#4にあたる内容を再編集したものです。

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【バック・トゥ・ザ・フューチャーについて】

1985年公開
監督:ロバート・ゼメキス
音楽:アラン・シルヴェストリ
製作総指揮:スティーブン・スピルバーグ
主題歌:ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース『The Power of Love(パワー・オブ・ラヴ)』

・作曲家作品

プレデター
プレデター2
アビス
ボディガード
スーパーマリオ 魔界帝国の女神
マウスハント
スタートレック 叛乱
スチュアート・リトル
スチュアート・リトル2
ハムナプトラ2/黄金のピラミッド
リロ&スティッチ
トゥームレイダー2
“アイデンティティー”
ヴァン・ヘルシング
ナイト ミュージアム
ナイト ミュージアム2
特攻野郎Aチーム THE MOVIE
キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー
アベンジャーズ
レディ・プレイヤー1
アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー
アベンジャーズ/エンドゲーム

・ロバート・ゼメキス&アラン・シルヴェストリ作品

(ロバート・ゼメキス監督の劇場公開作品は、1984年の『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』以降全てアラン・シルヴェストリが音楽を担当している)

ロマンシング・ストーン 秘宝の谷
バック・トゥ・ザ・フューチャーPART 1、2、3
ロジャー・ラビット
永遠に美しく…
フォレスト・ガンプ/一期一会
コンタクト
ホワット・ライズ・ビニース
キャスト・アウェイ
ポーラー・エクスプレス
ベオウルフ/呪われし勇者
Disney'sクリスマス・キャロル
フライト
ザ・ウォーク
マリアンヌ
マーウェン
魔女がいっぱい
ピノキオ(2022年)

・登場人物

マーティ・マクフライ:
 本作の主人公。実験中のトラブルで1985年から1955年にタイムトラベルしてしまう。

エメット・ブラウン(ドク):
 マーティの知人の科学者。デロリアン型のタイムマシンを発明する。

ジョージ・マクフライ:
 マーティの父。うだつの上がらない父親で、いつもビフから仕事を押し付けられている。

ロレイン・ベインズ・マクフライ:
 マーティの母。1955年の過去ではマーティに恋してしまう。

ジェニファー・パーカー:
 マーティのガールフレンド。

ビフ・タネン:
 現代ではジョージの上司。1955年の過去では不良としてジョージをいじめている。

・あらすじ

 舞台は1985年のカリフォルニア。
 ある日主人公のマーティさんは、友人である科学者ドクさんの発明したタイムマシンの実験に付き合うことになりました。しかし二人は実験中に突然、テロリストの襲撃に遭ってしまいます。実はタイムマシンの燃料であるプルトニウムは、ドクさんがテロリストから騙し取ったものだったのです。
 襲撃犯から逃れるため、デロリアン型タイムマシンに乗り込むマーティさん。彼が逃げた先は、なんと30年前の1955年でした。運の悪いことにタイムマシンは燃料切れを起こし、さらには実の母である過去のロレインさんが自分に恋してしまいます。
 このままでは歴史が変わって自分の存在が消えてしまいます。
 タイムパラドックスを阻止し、元の時代に戻るため、マーティさんの奮闘が始まります。


【ライトモチーフについて】

 今回もライトモチーフが登場するので、軽くおさらいしましょう。
 ライトモチーフとは、特定のキャラクターや感情、テーマに基づいて作曲された音楽のことです。
 始まりは19世紀折り、作曲家リヒャルト・ワーグナーさんのオペラに関連して初めて使われた手法。
 登場人物に音楽的なアイデアを割り当て、その登場人物が現れるたびにそのアイデアを引用しました。
 楽譜の構造を見ていくと、ライトモチーフという概念が各作品に登場します。
 いずれの場合も、音楽的アイデアを映画の根底にあるテーマに結び付け、その後、そのテーマがプロットの中に現れるたびにそのアイデアを引用します。

【アクション・アドベンチャーのテーマ】

 バック・トゥ・ザ・フューチャーのスコアは1つのライトモチーフを中心に構成されており、最初はアクション・アドベンチャーのテーマとして登場します。
 最初は主人公が旅に出るときに登場し、アクション・アドベンチャーのライトモチーフとしての十分な働きをしてくれます。
 テーマは、おなじみの「主題1」と「主題2」の構造で作られています。
 主題1は旋律をホルンに置き、非常に英雄的な旋律が使用されます。
 一方、叙情的な主題2は弦楽器に旋律を移し、旋律の輪郭に階段状の動きを用いています。
(主題1と主題2の演奏)

0:30:57

 バック・トゥ・ザ・フューチャーでは、主人公のマーティ・マクフライさんが、うっかりして世界初のタイムトラベラーになり、1955年にタイムスリップしてしまいます。
 タイムトラベル・マシンは、友人の科学者エメット・ブラウンさん(以降ドク)がデロリアン(スポーツカー)を使って作ったもの。
 その後、マーティさんは映画の大半を費やして1985年の現代に戻ろうとします。
 マーティさんがタイムスリップしたとき、アクション・アドベンチャーのライトモチーフの最初の演奏が行われます。
 そのシーンでマーティさんは、ドクさんがタイムマシンの燃料となるプルトニウムをテロリストから盗んだために追いかけられます。
 逃げようとしたマーティさんはタイムマシンに飛び乗り、加速してタイムスリップしてしまいます。
 音楽的には、テーマ1は断片的な形で表現されており、フレーズはわずか3小節に短縮されています。
 各フレーズには短い間があり、これがシーンにドラマを与え、1回目のストップではテロリストが武器を、2回目のストップでは重要な台詞を入れるスペースにもなっています。
(演奏)
 上記のフレーズの後、より叙情的なテーマ2がオリジナルのフレーズで演奏されます。
 いずれも、トランペットを中心としたフルオーケストラを活用したオーケストレーションです。

0:33:13

 マーティさんは1955年の納屋に不時着。農夫とその子供たちはマーティさんが宇宙人であると信じ、ショットガンで彼を襲います。マーティさんはタイムマシン「デロリアン」で納屋の扉を破って逃げ出します。
 マーティさんが納屋の扉を突き破ったところで、シルヴェストリさんはアクション・アドベンチャーのライトモチーフを再現します。
 このライトモチーフは、主人公が敵や障害を克服するときに繰り返されるもので、私たちの期待感を高めてくれます。
 音楽的には、最初のフレーズはさらに切り詰められ、2小節の爆発音として現れます。
 この場面もフレーズの後は、より叙情的なテーマ2がオリジナルのフレーズで演奏されます。

1:40:26

 最終的に、2人はマーティさんを1985年に送り返すことに成功します。
 雷を利用して、それをタイムマシンのエネルギーに利用します。
 このシーンは、主人公たちが障害を乗り越え、冒険の旅に出るという、アクション・アドベンチャーのテーマにふさわしいものです。
 音楽的には、マーティさんが納屋から脱出する場面で初めて目にした、3小節の分割フレーズ構成が用いられています。
 ここでも、叙情的な第2フレーズが長くつながったフレーズで演奏されます。

・アクション・アドベンチャーのテーマまとめ

 いずれの場面でもポジティブなアクション・アドベンチャーのライトモチーフとして、非常に効果的に使われています。
 この音楽は2フレーズ構成で、勇壮な第1主題と、より叙情的な第2主題を使用しています。
 ライトモチーフは、まず主人公たちが旅に出るときに演奏され、その後主人公たちが障害を乗り越え、さらに旅が進むと、再びテーマが演奏されます。
 このように、主題が戻ってきたときに変奏曲のテクニックを使って微妙に変化させ、音楽に面白さを加えていくのです。
 このテーマを色々なシーンで断片的に用いてこのテーマを中心にして映画音楽が構成されています。

【アクション・チェイスの音楽】

 他のアクションチェイス映画のキューでも見られる要素が多く使われています。特徴としては以下のようになります。

 速いテンポと細かいリズムで、リズムに大きな躍動感を生み出す。
 弦楽器に配置されたオスティナート(連続的な音)。
 半音階的なメロディーライン。
 メロディーは短く断片的なフレーズで、楽器から楽器へと素早く移り変わる。
 メロディーが全くないこともある。
 金管楽器や打楽器のリズミカルな音がアクセントとして使われる。
 高い濃度の不協和音。
 頻繁な転調。
 全体的に楽器編成が大きく、木管楽器、金管楽器、打楽器、弦楽器がフルに使用されている。

0:29:35

 ここはマーティさんがテロリストから逃げようとするシーンです。
 彼は車に飛び乗り、テロリストが武器で追いかける中、必死で車を走らせます。
 音楽は、アクションチェイス音楽のテンプレートに従ったものです。
 このシーンでは、多くのメロディラインが素早く行き来しています。
 重要なのは、そのメロディラインの1つが、アクション・アドベンチャーのライトモティーフに由来する短いモチーフであることです。
 テーマが流れるのはマーティがアクセルを踏み込んだ直後です。
 このテーマはトランペットで演奏され、オーケストレーションの中で際立っています。
 この手法は、楽譜の中で何度も使われることになります。
 アクション・アドベンチャーのライトモチーフの最初の3音を、引き伸ばした変奏で演奏しています。

1:42:57

 映画の終盤、1955年から戻ってきたマーティさんは、テロリストがドクさんを射殺するのを目撃します。
 彼は駐車場の端からその光景を眺め、タイムトラベル前の自分が過去に戻るのを見届けます。
 このシーンでは、速いテンポ、リズミカルな弦楽器のオスティナート、断片的なメロディラインなど、同様のアクション音楽に回帰しています。
 この場面でも、メロディーのモチーフのひとつは、冒険活劇のライトモティーフから派生した断片です。
 上の旋律は、マーティさんがタイムマシンに向かって疾走する直前のシーンで使用されています。
 ホルンのユニゾンで、オーケストレーションの中で目立つように配置されています。
 ここもアクション・アドベンチャーのライトモチーフを変奏することでうまくアクションシーンに組み込んでいます。

1:05:57

 前2つの例は、同じ作曲技法を使っています。
 つまり、アクション・アドベンチャーのライトモティーフの最初の音から短いメロディーのモチーフを作り、そのモチーフをアクション音楽の構造の上に重ねたのです。この手法は非常に効果的です。
 次のシーンは、映画の中盤にあるチェイスシーン。
 1955年、マーティさんは悪役のビフさんを殴りつけ、即席のスケートボードを使って逃げます。
 音楽的には、まずアクション・チェイスの構成でこのシーンをスタートさせます。
 速いテンポで、リズミカルなストリングス、アクセントのあるパーカッションやブラスのパンチなど、非常に活発な音楽が使われています。
 チェイスの最中、マーティさんが優位に立つ場面が描かれます。この勝利のような瞬間、一時的にアクション・アドベンチャーのライトモティーフに切り替わります。
 映像が切り替わり、ビフさんが追跡している様子が映し出されると、アクション・チェイスの音楽が戻ってきます。
 このように、音楽はアクション・アドベンチャーのライトモチーフと伝統的なチェイスミュージックを素早く行ったり来たりするのです。
 アクションアドベンチャーのライトモチーフはチェイスシーンの一部であるように感じられますが、これはテロシーンで使われた手法とは異なる構成上のアプローチです。

1:19:06

 マーティさんが1985年に戻る直前のシーンでも、アクション音楽と冒険のライトモチーフが交互に使われる手法が使われています。
 この時点では、未来に帰れるかどうかは不明です。
 マーティさんがタイムマシンに乗って加速する場面では、アクション・アドベンチャーのライトモチーフが使われます。
 大事なケーブルの上に木が倒れ、誤ってケーブルが抜かれるといった障害が発生すると、アクション音楽に切り替わります。
 ここではマーティさんとドクさんに幾度となく場面が切り替わります。
 マーティさんの場面にはアクション・アドベンチャーのライトモチーフが使われ、ドクさんにはアクション音楽、と場面によって音楽を変えることで、視聴者にどうなるかわからない不安と期待を一度に与えることに成功しています。

・アクション・チェイスの音楽まとめ

 スコア全体を通して、アクションアドベンチャーのライトモチーフがアクションチェイスのテクスチャーに取り入れられています。
 アクション・アドベンチャーのライトモティーフを取り入れるために、2つの作曲技法を用いています。

 まず第一に、アクション・アドベンチャーのライトモティーフの最初の3音に基づいて短いメロディック・モティーフを作成しました。
 このモチーフを分解して、アクションチェイスの音楽に使用しました。

 第二に、いくつかの場面で、アクション・チェイス音楽とアクションアドベンチャーのライトモティーフをすばやく交互に演奏していました。
 これらのシーンでは、主人公と何らかの障害物や敵が素早く入れ替わる視覚的なアクションもしくは視覚的なリズムに起因しています。
 主人公たちが進んでいく映像にはアクションアドベンチャーのライトモチーフが、敵や障害物の映像にはアクション音楽が使われていました。

【エンディング】

 今回はバック・トゥー・ザ・フューチャー内の中心的なライトモチーフである「アクション・アドベンチャーのテーマ」と、アクションシーンで使われるアクションチェイス音楽について見てきました。
 次回もバック・トゥー・ザ・フューチャーから、ミステリーやサスペンス要素を含んだ音楽と、アクションの前段階である準備シーンで使われる音楽を取り上げてみたいと思います。

 最後までお読みいただきありがとうございました。
 映画にみみったけ、放送時のパーソナリティはヨシダがお送りいたしました。
 podcastのエピソードは毎週日曜日に配信中ですので、そちらでもまたお会いいたしましょう。
 ではまた!


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