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#61【エターナル・サンシャイン】ep.1「音楽だけではないライトモチーフの世界」

※この記事はPodcast番組「映画にみみったけ」内のエピソード#61にあたる内容を再編集したものです。

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【エターナル・サンシャインについて】

 2004年公開(日本2004年公開)
 監督:ミシェル・ゴンドリー
 音楽:ジョン・ブライオン

作曲家紹介

 ジョン・ブライオンさんは、感情豊かなメロディと独創的なアプローチで知られる音楽家です。
 彼の音楽は、独自のサウンドスケープと繊細な楽曲構築によって、聴く人々に深い感銘を与えています。
 映画音楽、アルバム、ライブパフォーマンスなど、幅広い分野で活躍し、その才能は多くのファンと評論家から高く評価されています。
 シンプルなピアノメロディから繊細な編曲まで、幅広いスタイルを巧みに駆使しています。
 今回紹介する「エターナル・サンシャイン」でも、作品の雰囲気や感情を、音楽を通じて豊かに表現することに成功しています。
 静かな内省から情熱的な高揚まで、多彩な感情を引き出す力を持ち、聴く人々の心に深い共感を呼び起こすことができる音楽家です。

作曲家作品

 ハードエイト
 マグノリア
 パンチドランク・ラブ
 エターナル・サンシャイン
 ハッカビーズ
 ハニーVS.ダーリン 2年目の駆け引き
 脳内ニューヨーク
 俺たちステップ・ブラザース -義兄弟-
 アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!
 ザ・フューチャー
 パラノーマン ブライス・ホローの謎
 40歳からの家族ケーカク
 ブルー・アンブレラ
 人生、サイコー!
 ザ・ギャンブラー/熱い賭け
 エイミー、エイミー、エイミー! こじらせシングルライフの抜け出し方
 ウィルソン
 レディ・バード
 シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢
 プーと大人になった僕

登場人物

 ジョエル・バリッシュ:
 主人公。クレメンタインとの記憶を消去する。
 
 クレメンタイン・クルシェンスキー:
 ジョエルの元恋人。ジョエルとの記憶を消去する。
 
 スタン:
 ラクーナ社のスタッフ。メアリーとつき合っている。
 
 パトリック:
 ラクーナ社のスタッフ。クレメンタインに近づく。
 
 メアリー:
 ラクーナ社のスタッフ。ハワード博士に憧れている。
 
 ハワード・ミュージワック博士:
 ラクーナ社のトップ。記憶消去手術を考案する。

あらすじ

 主人公のジョエルさんは、バレンタインを目前に恋人と喧嘩別れしてしまいます。
 なんとか恋人のクレメンタインさんと関係を修復しようと彼女の働く本屋を訪れるのですが、
 クレメンタインさんはジョエルさんのことを知らないかのような素振りです。
 混乱するジョエルさんのもとに届いたのは、ラクーナ医院からの一通の手紙でした。
 そしてそこには、クレメンタインさんがジョエルさんを忘れるために記憶消去の手術を受けたということが書かれていたのです。
 ショックを受けたジョエルさんは、自分も同じ手術を受け、クレメンタインさんとの思い出を綺麗さっぱり忘れてしまうことにしました。
 やがて手術がはじまると、彼の頭の中にある世界では、クレメンタインさんとの思い出が浮かび上がっては消えていきます。
 そして恋人との大切な思い出に触れるにつれ、次第に彼女を忘れたくないという気持ちもわき上がってきました。
 頭の中の世界で、必死にクレメンタインさんを連れて逃げるジョエルさんですが、記憶は一つまた一つと消去されていきます。
 そして現実の世界でも、クレメンタインさんに危険が迫っていました。
 彼女の過去を知っている病院のスタッフが、ジョエルさんの過去の言動をなぞることでクレメンタインさんの心につけ入り、恋人にまでなってしまっていたのです。

【音楽だけにとどまらないライトモチーフ】

 今回の冒頭はちょっとした小話と言いますか、最近ちょこちょこやっている、直接的な音楽の話ではないシリーズなんですが、視聴者を惹きつける仕掛けについて観ていて面白かったので、話したいと思います。
 この作品は映像からプロットから趣向を凝らした作りになっていて、視聴者を惹きつける仕掛けがたくさんありました。
 そのひとつに、音楽だけにとどまらないライトモチーフがあります。
 この作品には音楽によるライトモチーフというのはあまり出てきません。
 その理由は展開されるシーンがそもそも繰り返しであるという、この映画のプロットの部分ですね。
 映画の半分以上は記憶の中であるからこそ、音楽的なライトモチーフを用いにくい作りになっています。
 それともう一つは、登場人物の印象が人によって違うことです。
 これはこの映画特有と言ってもいいような、とても特徴的な描かれ方です。
 例えば、主人公のジョエルさんの印象は、元恋人であるクレメンタインさんと記憶の中ではまだ付き合っていて、現実では別れていて、そんなクレメンタインさんはジョエルさんを記憶から消去しているという、3つの印象が映画では同時に描かれていたりと、映画の進行度でどんどん印象が変化してその複雑な内面を描いている作品といえます。
 この作品ではキャラクター登場や特定の行動を起こすたびに音楽を演奏することは、あえてさけているように感じます。
 ではどのように恋愛や人間関係をライトモチーフにしているかというと、それは光です。
 光というか太陽光がライトモチーフに使われています。
 感情が動いた時、もしくは物語が展開を迎えた時に、太陽光が出てくる作りになっています。
 そのため、ここに音楽を用いていてもおかしくないということですね。
 いくつかシーンを紹介してみていきたいと思います。

ライトモチーフとしての光 シーン1

 16:04
 冒頭ラストのシーンです。
 冒頭では主人公のジョエルさんがクレメンタインさんと出会うまでのシーンが描かれています。
 映画を観た方はわかると思うのですが、このシーンは二人とも記憶を消した後に再びまっさらな状態で出会ったシーンですね。
 この後のシーンが映画のラストで描かれています。
 そんな冒頭から描かれた出会いのラストのシーンです。
 このシーンでは、クレメンタインさんを車で家まで送り、車中で寝てしまったクレメンタインさんを起こすシーンです。
 明け方まで星を見ていたという意味ももちろんあると思いますが、二人は知らない間柄になったとともに、また知らぬ間に惹かれあったという恋愛模様を見せます。
 さらにここでは外から突然見知らぬ男性に「大丈夫?お困りかと」と声をかけられます。
 ジョエルさんはなんのことかわからず、男性を追い返します。
 この男性は忘れさせ屋さんであるラクーナ社の社員さんで、クレメンタインさんに一目惚れした男性ですね。
 このシーンで一気に映画に引き込む物語の展開を迎えます。
 この時に用いたのが、音楽ではなく光だったわけですね。
 他にも見てみましょう。

ライトモチーフとしての光 シーン2

 1:31:44
 忘れさせる施術が終わったシーンです。
 ジョエルさんが記憶の中で隠れたので、普段より時間がかかり朝になっています。
 この時に朝日が窓から入っています。
 このシーンでは、ラクーナ社のトップであるハワード博士とスタッフのスタンさんの二人がいるのですが、施術中に起きた、ハワード博士とメアリーさんとの一件や記憶消去が光のライトモチーフとして機能していますね。
 このシーンの後から冒頭のシーンに繋がるので、物語の展開としてもってこいのシーンですね。

ライトモチーフとしての光 シーン3

 もうひとつ、わかりやすいシーンを出すと、
 45:50
 記憶の中のジョエルさんとクレメンタインさんは普通に話をしているのですが、途中から言い争いになるシーンです。
 この時、二人には薄く光が当たっている状態から、クレメンタインさんに一気に光があたります。
 言い争いでは、二人の食い違いや言葉の端々にトゲのようなものがみえてこれは喧嘩になりますね、といった会話です。
 二人の気持ちは少しづつ離れて、関係性に亀裂が深まるシーンでもあります。
 ですので、光は恋愛や人間関係、物語の展開に関わる時に使われるライトモチーフということになりますね。
 他にも光を使ったライトモチーフはたくさん出てくるので、ぜひみて確かめてください。

効果音の使い分け

 それと、もう一つライトモチーフとまではいかないですけれども、仕掛けがあります。
 それは効果音(SE)です。
 これは記憶の中でのシーンの切り替えに使われています。
 この効果音はノイズのような音で、記憶が現実的な動きをしない時に使われます。
 というのは、部屋から突然クレメンタインさんが消えたり、手に持っていたものがなくなったり、記憶が切り替わったりのシーンで使われています。
 こちらもいくつかシーンをあげてみます。

SEの使われるシーン1

 36:48
 記憶の中でジョエルさんとクレメンタインさんが喧嘩をし「言いすぎた、ごめん」とクレメンタインさんを追いかけるも突如消えるシーンです。
 消える少し前からノイズが鳴り始めます。

SEの使われるシーン2

 つぎに、
 41:15
 持っていたお箸とカップご飯が消えるシーンです。
 ここも同じように消える少し前にノイズが登場します。

SEの使われるシーン3

 59:24
 屋外で目覚めようと記憶の中で奮闘している中、急に部屋の中に移動するシーンです。
 突然シーンが切り替わる少し前からノイズがなり始めます。

SEの使われるシーン4

 1:10:09
 記憶の中で二人で野外映画を観ている時、クレメンタインさんが消えてしまう時です。
 ここがおもしろくて、ここで2つめのSEに気づけるシーンです。
 クレメンタインさんが消えてしまいそうになる時は、低音のシンセサイザーが唸るような音を出します。
 その後、ラクーナ社のスタッフであるスタンさんがコンピュータで記憶を消す作業的なシーンで、先ほどから取り上げているノイズがなります。
 まとめると、内容によってノイズと低音のSEを使い分けているということです。
 さらにその後、壁や車が消える時はまた別のSEが使われています。
 これら3つの効果音を巧みに使い分けて、記憶の消去を音として認識させているわけですね。
 たとえば、この壁などが消える時のSEは、

SEの使われるシーン5

 55:46
 記憶の中で、消去から逃げる時のシーンで使われています。
 この時は、周りにいる人や地面に置いた荷物が消えていく時にSEが登場しますね。

SEの使われるシーン6

 次に、低音のSEです。
 47:45
 図書館で、顔を思い出せない男性とクレメンタインさんが話をしているところを邪魔しようとするジョエルさんが、その場を立ち去ろうとした時に登場します。
 場面の切り替わりのタイミングに合わせていますね。

SEの使われるシーン7

 1:10:55
 でも使われています。
 二人で記憶の消去から逃げている途中、図書館のようなところに突然移動してしまうシーンです。

音楽だけにとどまらないライトモチーフ まとめ

 では、どのように使い分けているかをみていきます。
 一つめのノイズ型のSEは、クレメンタインさんに直接的な関わりのない記憶が消去されるシーンで登場しています。
 クレメンタインさん自体ではなく、お箸や食べ物がなくなったり、いたはずの場所から移動していたりと、間接的な記憶の消去がされるタイミングでノイズがなっています。
 そして、低音型のSEは直接的なクレメンタインさんの記憶の消去がされるタイミングで低音がなっています。
 もしくは、その記憶が消されることに理不尽さを感じた時に低音がなります。
 どちらにせよ、ジョエルさんが負の感情を感じた時に使われていますね。
 ただ、この2つのSEは画面の切り替えに使われていることも多いですね。
 映画の特性上唐突に画面が切り替わるので、観客を置き去りにしない工夫としても使われていますね。
 その画面の切り替わりにどのような意味があるかで使い分けられています。
 壁や車などが消える時のSEはそのままです。
 二人の記憶とは関係ないものが消える時のSEですね。
 これらのSEをうまく状況に合わせて使い分けていたということですね。
 しかしそもそも記憶が消える音っていうのが面白いですね。
 現実では存在しない「記憶が消える音」を、今回は記憶消去の施術ということで機械的な音で表現しています。
 そして記憶なので、映画的に観づらくなってしまう画面の唐突な切り替えに用いることで、場面のつながりであること、その記憶への解釈が音によって表現されていたというわけですね。

【エンディング】

 というわけで、今回は音ではないライトモチーフとSEに与えられたライトモチーフとしての機能についてみていきました。
 映画の特性上唐突な画面切り替えや記憶の中という非現実的な世界の説得力を増すための仕掛けとして非常に巧みに機能していました。
 そして近々ウォッチパーティー雑談という企画もやる予定ですので、ぜひご興味がございましたら聴いてみてください。

 最後までお読みいただきありがとうございました。
 映画にみみったけ、放送時のパーソナリティはヨシダがお送りいたしました。
 podcastのエピソードは毎週日曜日に配信中ですので、そちらでもまたお会いいたしましょう。
 ではまた!

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