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#74【ズートピア】ep.2「理想と現実の間にある成長物語」

※この記事はPodcast番組「映画にみみったけ」内のエピソード#74にあたる内容を再編集したものです。

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【ズートピアについて】

 2016年公開
 監督:リッチ・ムーア、バイロン・ハワード、ジャレド・ブッシュ
 音楽:マイケル・ジアッチーノ

登場人物

 ジュディ・ホップス:
 ウサギの新米警察官。
 
 ニック・ワイルド:
 キツネの詐欺師。
 
 フィニック:
 フェネック。ニックと共謀してアイスを製造する。
 
 フラッシュ:
 ニックの友人のナマケモノ。免許センター職員。
 
 エミット・オッタートン:
 カワウソ。ある日突然行方不明になる。
 
 デューク・ウィーゼルトン:
 イタチ。花屋から球根を盗む。
 
 ミスター・ビッグ:
 トガリネズミ。マフィアのボス。
 
 ダグ:
 「夜の遠吠え」から薬品を製造する羊。
 
 ボゴ署長:
 ズートピア警察署(ZPD)署長の水牛。
 
 ベンジャミン・クロウハウザー:
 ZPDの受付のチーター。
 
 レオドア・ライオンハート市長:
 ズートピアの市長のライオン。
 
 ドーン・ベルウェザー副市長:
 市長の補佐役を務める羊。

【前回の振り返り】

 前回はズートピアの主題でもある失踪事件を主軸に音楽がどのように展開されていたかをみてきました。
 前半では捜査が開始された時のライトモチーフについてみてきました。
 このようなメロディでしたね。
 (演奏)
 この楽曲は捜査に関する時に演奏されていました。
 そして最後には捜査の集大成として、全ての事件の黒幕である犯人に大逆転を決めた時にも演奏されていたのは痺れましたね。
 そして後半では、この映画で演奏される楽曲のジャンルの割合についてみていきました。
 やはりサスペンスやアクション・チェイス、ホラーなどのジャンルが多く、映画の持つクライムサスペンスな要素が前に出ていましたね。

【メインテーマと言える楽曲】

 今回は映画でもっとも演奏されていた楽曲を見ていこうと思います。
 もしかしたらネタバレの要素があるかもしれないので、そのへんはご容赦下さい。
 前回はこの映画はクライムサスペンス映画という話をしたのですが、そのサスペンスな要素からウサギのホップスさんの成長を描いた物語でもあります。
 映画におけるサスペンスの要素を持つ音楽は劇中でたくさん演奏されているという前回を踏まえて、その事件から得た経験により、ホップスさんが成長する時にこの楽曲は演奏されます。
 ではどのようなシーンがホップスさんの成長に繋がっていたのかを、シーンの解説を含め見ていこうと思います。
 今回は長くなるので、前後半に分けて配信します。
 アップルミュージック ズートピア オリジナル サウンドトラック 9曲目に収録されている「ノット ア リアル コップ」という楽曲がその成長のライトモチーフといえます。
 一部ですが、このような楽曲でした。
 (演奏)
 とても抒情的な楽曲ですよね。
 成長のライトモチーフということで、ホップスさんの微妙な気持ちの揺れを感じさせるとても素敵なバラードです。
 まず、このホップスさんなのですが、映画冒頭では幼少期にどんな動物たちも仲良く暮らし、夢を持つことができ、自分は警察になることを夢に見ます。
 ホップスさんはこの頃からその夢に疑いも持たず、前進するのがこの映画の魅力の一つでもありますよね。

ノット ア リアル コップ シーン1

 しかし、
 5:23
 ガキ大将のキツネ、ギデオン・グレイさんに引っ掻かれ顔に傷を負ってしまうシーンです。
 この時に3匹の草食動物からチケットを取り返すために戦うのですが、やはり肉食動物で体格も大きいキツネには力で劣ってしまいます。
 このシーンで初めて演奏されます。
 この時、喧嘩ではやられてしまうのですが、チケットは取り返します。
 力ではやられてしまっても、ウサギの持つ特性を活かした方法が自分の力であるというシーンとして見ることができます。
 ギデオン・グレイさんにやられたことはあくまでも、キツネへの悪い印象、動物の種別による差、正義感、動物同士が仲良くなれるのかという不安、などが描かれていることになります。
 この出来事は映画を通して、ホップスさんの深層心理というか課題のような感じがしますね。
 たいした挫折ではなさそうすね。
 なので、次のシーンではそのまま警察学校的なところの訓練と首席で卒業するシーンがダイジェストでお送りされます。
 そして学校を出て、念願のズートピアで警察として働くのですが、ここでまた幼少期の不安が再燃してしまいます。
 ニックさんとの出会いですね。
 詐欺をして生計を立てていることを知り、さらにウサギが警察をやるのが厳しいことやズートピアの現状という意味での現実を叩きつけられます。
 これにホップスさんは参ってしまうわけですね。

ノット ア リアル コップ シーン2

 26:35
 そんなニックさんに散々言われて、アパートへ帰ってくるシーンです。
 すっかり凹んでしまい、ラジオから流れるバラードが「ノット ア リアル コップ」という楽曲ですね。
 レンチンのにんじんもしょぼくて食欲も無くなってしまい、両親からのテレビ電話でも駐車違反の取り締まりをやっていることを知られてしまい、また散々の感じになってしまいます。
 ここでも自分の思い描いていた理想と現実の間で悩みます。
 この悩みが今のところは演奏の動機と言ってもいいですね。
 もう少し突っ込むと、さっきニックさんに言われたのを気にしていることであったりとか、ワンルームの暗いアパートであったりとか、レンチンご飯も美味しそうでないこととか、色々なことの理想と現実とが乖離していることが演奏の動機といえますね。
 そういう意味で言うと少しネガティブな意味での演奏になります。
 次の演奏で少し意味に変化がおきます。

ノット ア リアル コップ シーン3

 32:12
 行方不明のエミット・オッタートンさんの奥さんが、直接警察署長のところまで来て捜索をお願いするシーンです。
 この前のシーンでホップスさんは署長に呼び出されているんですけれども、ここでホップスさんは本物の警官になりたいと署長に訴えかけます。
 駐車違反の取り締まりばかりなのでね。
 ここで署長は「人生はアニメじゃない 歌を歌ってもくだらない夢は叶いやしない だからあきらめろ」と言い放ちます。
 その後がオマージュで「So Let It Go」というのがおもしろいですね。
 アナと雪の女王の「Let It Go」からのオマージュですね。
 日本語吹き替えだと「ありのままに」になっていますね。
 こういう細かいところで、現実感を出し理想との差を浮き彫りにしています。
 とまあ脱線しましたが、すでに10人以上の失踪者が出ている状況、刑事は手一杯、一人のために人員を割くことができないという局面で、オッタートンさんの捜索依頼をホップスさんは勝手に受けてしまいます。
 これはきっかけなんですよね。
 署長に呼び出された理由は、逃走した犯人を捕まえたのですが、勝手に持ち場を離れて、騒乱を起こし、ネズミたちを危険に晒した結果、犯人の盗んだものは玉ねぎだったというオチまでついています。
 実際は玉ねぎではないのですが、金品ではなく植物であるという皮肉を署長に言われてしまうわけですね。
 ホップスさんは悪者を捕まえたと主張するのですが、署長からは違反切符を切ることがお前の仕事だと言い返されてしまいます。
 今までのは警官になるまでと、なってから置かれている状況に対して文句を言って不貞腐れている状態でした。
 ホップスさんの言うところの本物の警官になれない、もしくは理想と現実問題がこの楽曲の演奏動機だったのですが、ここでは警官になれば理想の生活ができると思っていたことに対して、実は警官になったことがスタートラインで、理想に近づくため、もっと自分から行動しなければならない、ということにホップスさんが気づくことで、この楽曲が演奏されているという仕組みに変わります。
 自分の理想に近づくために必要な1つめの要素は「行動」ということに気づくわけですね。
 実際はあまりにも身勝手な行動に署長から大目玉をくらうのですが、市長補佐の助力により期限付きで捜索を許可されます。

ノット ア リアル コップ シーン4

 ここから演奏はしばらくお休みで、次に演奏されるが、
 56:58
 野生化したジャガーに追いかけられ、応援を要請するのですが、現場にはジャガーはおらず、署長にクビを宣告されてしまいますが、ニックさんが擁護してくれるシーンです。
 ここの演奏は意識的にニックさんが話し出すタイミングで演奏がはじまります。
 これまでは捜査では無理やりニックさんを協力させていたのですが、自らの意思で捜査に協力してくれたシーンです。
 ガキ大将に喧嘩で負けたシーンや散々な1日だったシーンでは、どこかネガティブだったこの楽曲がオッタートンさんの捜査依頼や今回のニックさんの一件では、ポジティブな印象の楽曲に変化しています。
 楽曲のイメージが変化する仕掛けですね。
 話が進むにつれて楽曲の持つ要素に変化が生まれていくという、とても素敵な仕掛けですね。
 楽曲自体もネガティブにもポジティブにも取れるように作曲されているのはさすがです。
 作曲の話はサブスクリプションでやろうと思いますので、ご興味のある方はぜひそちらも合わせて聴いてみてください。
 この2面性のある楽曲がポジティブに変化したわけですが、演奏の理由はまだあるといえます。
 それは仲間の存在です。
 今までのホップスさんは一人行動でした。
 警察官になる努力も、なってからの捜査も、半ば強制でニックさんに手伝ってもらっていました。
 しかし自分の理想に近づくために必要な2つめの要素は「仲間」であることに気づくわけです。
 この理想に近づくことが演奏の動機になっているわけですね。
 どんどん明るい感じになってきました。
 ここで怒涛の演奏が始まります。
 そして、またネガティブへと向かうんですね。
 その前に補足しておくと、失踪事件の犯人は市長ということで収まり、その証拠を掴んだのがホップスさんで大手柄の末、インタビューを受けまさに街のヒーローのような存在になりました。
 これでもう違反切符を切る仕事もしなくていいし、街の治安維持のため本物の警官としての職務を全うできるというのが、次の演奏までの間のシーンです。

ノット ア リアル コップ シーン5

 1:15:22
 警察署受付のクロウハウザーさんが肉食動物であることを理由に受付から地下の記録室への異動を知るシーンです。
 この時の演奏は事件に関わっています。
 この失踪事件のほとんどの動物は肉食動物だったのです。
 そのため肉食動物は危険であるとみなされ、どんどん肩身がせまい思いを強いられることになります。
 しかしこうなったのはホップスさんのインタビューでの発言もきっかけの一つだったのです。
 ホップスさんは肉食動物だけが凶暴になり、もしかしたら生物学的な要素が関係しているかもしれないと発言してしまいます。
 それは何千年も前にあった肉食動物の狩猟本能に関する話ですね。
 これを話してしまったことが原因のひとつとも言えて、このことでニックさんともケンカ別れしてしまいます。
 このことがあって、受付のクロウハウザーさんは人事異動をよぎなくされるわけですね。

ノット ア リアル コップ シーン6

 そのすぐ後の
 1:16:09
 市長補佐だった羊のベルウェザーさんが市長に繰り上がり、ホップスさんにズートピア警察署(ZDP)の顔になって欲しいと頼むのですが、それを断り警官をやめるシーンです。
 ここでの演奏動機は挫折です。
 ホップスさんは自分がヒーローではないと市長にいうわけですね。
 世界をよくするために警官になったホップスさんは、今や逆に世界を壊してしまったというのが理由です。
 先ほどのインタビューや市長逮捕のことですね。
 ここで署長もホップスさんのことをいい警官だというのですが、ホップスさんにとってのいい警官は街を守り、市民を守るのがいい警官であると反論します。
 そしてバッジをお返しするわけですね。
 はじめは世界をより良くするために警官になりたかったのに、結果世界を壊してしまったのが自分自身であるということが許せなくなってしまったわけです。
 そのチグハグの答えが、自分がヒーローではないという意味になるわけですね。
 これは自暴自棄といいますか、挫折ということになります。
 しかしこれはネガティブなのかポジティブなのかとても不安定なシーンです。
 表面では警官の顔役も蹴って、辞職もしています。
 しかしここで自分の理念を押し通しているのも事実です。
 もしこれで顔役もやって辞職もしなかったら、さすがに心から笑うことはできないですよね。
 自分らしくいるということを押し通した結果としては、ポジティブな気もしますが、現状は割とネガティブです。
 難しいですね。
 なんだか受験や就職みたいですね。
 目的と手段が入れ替わってしまって、合格や内定が目的になってしまい、結果先を見失うというなんてことは現代でも起こることです。
 とまあこれをきっかけに地元に帰るわけですね。
 地元では無気力に人参を売り捌く日々を送っているわけですが、ここでまた演奏する機会が登場します。

ノット ア リアル コップ シーン7

 1:18:34
 昔一悶着あったガキ大将のギデオン・グレイさんと再び出会い、大人になって話すことで当時のわだかまりが解消され、その時に畑に生えていたミドニカンパム・ホリシシアスという花に近づくんじゃないと父が子供達に注意を促すシーンです。
 この時のギデオン・グレイさんはミドニカンパム・ホリシシアスという花を「夜の遠吠え」とうちでは呼んでるといいます。
 この花はウサギだって凶暴になってしまう成分を持っていることを知り、事件は肉食動物に限ったことではないかもしれないと思い立つわけですね。
 これが壊れた世界を元に戻すきっかけになるわけです。
 さらにはニックさんと再び仲良くなれるきっかけを得るわけですね。
 ちなみにここの演奏は真っ当に演奏するのではなく、メロディの一部を使ったり、一部ハーモニーを用いる程度にとどめています。
 というわけで、壊れた世界を元に戻すきっかけを見つけたことが演奏の動機になっていて、再びポジティブな意味へと帰ってくるわけですね。
 一度落としてからまた上げるということですね。
 この高揚感のままニックさんに会いに行き、次の演奏が始まります。

ノット ア リアル コップ シーン8

 1:21:22
 ホップスさんは自分の発言や言動を本心から謝罪し、ニックさんと仲直りするシーンです。
 ここで、ホップスさんの本心が垣間見れます。
 世間知らずで、無責任で、偏見を持っていたと自分から打ち明けます。
 さらに自分のせいで肉食動物が苦しんでいるのをなんとかしたいと続けます。
 それにはあなたが必要だと、これがホップスさんの本心ですね。
 そうなんですよね、ホップスさんの今までの理想と現実問題の引き金はここに集約されています。
 ニックさんも署長もホップスさんの突っ走りに翻弄されていたわけです。
 しかしこの事件がきっかけでホップスさんは、自分の行動や言動を見つめ直す機会になったわけです。
 まさに成長物語といった感じですよね。
 これ以上はなんだか説教くさくなりそうなので、やめておきますが、ここでの演奏動機は再び仲間ですね。
 本当の意味で仲間になって、これこそが肉食動物と草食動物の仲良く暮らす世界を体現できたことが演奏の動機になっています。
 ここまでの流れは完璧ですよね。
 このクロウハウザーさんの異動からの約6分くらいで4回演奏され、その間この楽曲のみが演奏されています。
 あとは音楽がなくセリフですね。
 この怒涛の演奏で一度落としてからの急上昇は観ていてニコニコしてしまいますよね。

ノット ア リアル コップ シーン9

 そして最後に、
 1:33:23
 事件は真犯人が捕まり一件落着、街には再び平和が戻り、ホップスさんのナレーションベースで街を歩くシーンです。
 ここで、さらに映画の根幹とも呼べるセリフがホップスさんのナレーションで告げられます。
 要約すると、子供時はズートピアは理想の地で、みんなが仲良く暮らしてなんでもできると思っていたけど、現実はもっと複雑でとても厳しい。
 それぞれに得手不得手があるけど、お互いを理解し思い合えばきっとうまくいく、的なことを最後に話します。
 これが事件を通してホップスさんが学んだことで、実際に知っていなければならない知恵となって、社会勉強をしたというお話になっていたというわけですね。
 というわけでここでの演奏動機は理想と現実を知るということだったというわけですね。
 現実は理想とは違っても、それを知ることで自分ができることを見つけられたわけですから、とてもいい経験ですよね。
 これがこの楽曲が演奏されていた動機になっていたわけです。
 まさにメインテーマと言ってもいいような用いられ方ですよね。
 このメインテーマにクライムサスペンスが合わさったのがズートピアという動物たちだけが暮らす街のお話でした。
 

【エンディング】

 2回にわたってズートピアをみてきましたが、面白い映画ですね。
 クライムサスペンスの要素とホップスさんの成長物語が合わさることで、ハラハラドキドキもできるし、なにやら考えさせられるテーマを突きつけられた気にもなります。
 さらにはさまざまな社会問題にも間接的に触れていて、しかし動物たちの出来事なので、どうもほんわかした気持ちで見ていられる、よくできた作品だなと思いました。
 サブスクリプションでは今回取り上げた「ノット ア リアル コップ」を掘り下げようと思います。
 ネガティブにもポジティブにも対応している楽曲の作りを分析してみようと思います。
 別作品からは「リメンバーミー」という作品を取り上げようと思います。
 メキシコが舞台の映画なので、全ての楽曲がとても明るく魅力的です。
 次回は「アベンジャーズ インフィニティー ウォー」をやろうと思います。
 ちなみにその次は「アベンジャーズ エンドゲーム」をやろうと思うので、4週にわたって、アベンジャーズ特集になってます。
 年末はマーベルでも観よう的な感じで、12月のアベンジャーズ特集も楽しみにしていてください。

 最後までお読みいただきありがとうございました。
 映画にみみったけ、放送時のパーソナリティはヨシダがお送りいたしました。
 podcastのエピソードは毎週日曜日に配信中ですので、そちらでもまたお会いいたしましょう。
 ではまた!

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