坂本龍一最後の音楽ドキュメンタリー映画 『Ryuichi Sakamoto | Opus』
■内容
2020年にガンの診断を受けて以来、2023年3月28日に亡くなるまで、闘病と創作、演奏と社会的発信活動を続けた坂本龍一が、2022年に東京のNHK509スタジオで行ったピアノ演奏を記録したドキュメンタリー映画。
演奏曲は以下の通り。
Lack of Love
BB
Andata
Solitude
for Johann
Aubade 2020
Ichimei - small happiness
Mizu no Naka no Bagatelle
Bibo no Aozora
Aqua
Tong Poo
The Wuthering Heights
20220302 - sarabande
The Sheltering Sky
20180219(w/prepared piano)
The Last Emperor
Trioon
Happy End
Merry Christmas Mr. Lawrence
Opus - ending
■感想・レビュー
坂本龍一はピアノソロでの演奏活動を長年に渡って行っており、「プレイング・ザ・ピアノ」として何枚かのライブアルバムも出している。この映画は体力の衰えた坂本のために、全20曲の演奏を8日間に分けて撮影。無観客ではあるが、「プレイング・ザ・ピアノ」シリーズの最終章となる作品に仕上がっていると思う。
演奏される曲のうち最も古いのはYMO時代の「Tong Poo」(1978)で、本映画の資料では「初めてピアノ・ソロで演奏された」と紹介されている。そんなことはあるまいと調べてみると、ピアノバージョンは1999年のアルバム「BTTB」に収録されているが、これはピアノ連弾バージョンだったようだ。観客のリクエストに応えてライブでさわりの部分を少し長めに演奏したバージョンの録音はあるが、今回の全曲演奏は確かに初録音なのかもしれない。
不覚ながら、僕はこの「Tong Poo」でちょっと涙が出た。YMOは僕が中学生の頃のアイドル。全国の(あるいは全世界の)若者を夢中にさせた軽快なテクノサウンドの主役は坂本龍一だった。今になれば細野晴臣や高橋幸宏の存在感の大きさもわかるが、音楽体験が希薄な中学生にとっては、シンセサイザーの目新しい音色こそがYMOでありテクノポップに思えたのだ。そしてそこには坂本龍一がいた。「Tong Poo」の印象的な導入部を聴くだけで、そんなことが思い出されるのだ。
この映画で演奏されているのはどれも坂本龍一の代表曲だが、ほとんどの曲でそのメロディの美しさにうっとりさせられる。テクノサウンドで世界を熱狂させた坂本龍一は、じつは希代のメロディメーカーだった。こうした曲のいくつかは大貫妙子が詩を付けて歌っているが、たとえ坂本龍一が亡くなっても、こうしたメロディは世界中の音楽家に愛され生き続けるのではないだろうか。
全編モノクロ。ナレーションなし、字幕なし。なんとも贅沢な音楽映画だ。
シネスイッチ銀座(Screen 2)にて
配給:ビターズ・エンド
2023年|1時間43分|日本|カラー
公式HP:https://www.bitters.co.jp/opus/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt28490873/
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