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二つの事件をつなぐ不気味な影 『朽ちないサクラ』

6月21日(金)公開 全国ロードショー

■あらすじ

 愛知県で起きた凄惨なストーカー殺人事件。被害者は警察につきまといの被害相談をしていたが、担当部署は被害届の提出を拒んでいた。警察に対する非難の声が高まる中で、地元紙が衝撃的なスクープをすっぱ抜く。

 被害届を受け付けなかった警察署の担当部署は、被害者を放置して慰安旅行に出かけてたというのだ。このスクープ記事を見て、県警の広報部署で働く事務職員・森口泉は青ざめた。彼女は新聞社の記者・津村千佳と親友で、つい先日、うっかり慰安旅行の件を喋っていたのだ。彼女は記事にしないと約束してくれたが、泉は千佳に裏切られたと感じる。

 泉に呼び出された千佳は、「私は約束を守った。記事は編集長が書いたが、そのネタ元については自分で調べてみる」と言い残して去る。それから数日後、千佳は他殺死体で発見された。彼女は調査の過程で何かを知り、口封じに殺されたのだ。泉は親友の死に責任を感じ、捜査と別に独自に犯人を捜し始める。

■感想・レビュー

 柚月裕子の同名小説を、杉咲花主演で映画化したサスペンス・ミステリー映画。主人公の森口泉は刑事ではなく、警察で働く事務職員。それが直属上司である元公安刑事の富樫隆幸や、殺人事件を捜査する捜査一課長の梶山浩介という中年オヤジたちと共に、親友の死の真相に迫っていく物語だ。

 主人公の泉を演じるのは杉咲花。冨樫役に安田顕、梶山役には豊原功補というベテランを揃えている。監督は『帰ってきた あぶない刑事』も公開中の原廣利。ミステリー映画としては少し明瞭さを欠く部分もあるが、全体の重苦しいムードは悪くないと思う。

 しかし映画の欠点は、この重苦しさなのだ。重量感のある冨樫と梶山の中に泉が入って重苦しい顔をしていると、キャラクターのコントラストが引き立たなくなって全員が重苦しいオジサン化してしまう。男と女。中年と若者。刑事と事務職員。そうした役職や立場の違いが、全体の重苦しさの中で変化に乏しく薄暗い一色に塗りつぶされてしまったのは残念だ。

 出演している役者は粒揃いで、藤田朋子、尾美としのり、駿河太郎などは、役の大きさの割には贅沢なキャスティングだと思う。こうしたベテランたちに囲まれても杉咲花が一歩も引かないのは大したもの。しかし泉を慕う磯川俊一を演じた萩原利久は、映画を観ていても頼りなくて冴えない感じだった。

 警察ものの映画としては、主人公を事務職員にしたのがユニークな着眼点。しかしそれならそれで、警察内での事務職員の立場や警察官との違いを、劇中できちんと説明するなり、それがすぐわかるエピソードを入れておくべきだったと思う。でないと映画の最後に見せる、泉の覚悟の意味が伝わらない。

 説明不足なのは、刑事警察と公安警察の違いについても同じだ。特に映画の後半では、公安警察の得体の知れなさが物語の重要なテーマになってくるだけに、そこを雰囲気やムードだけで押し切ってしまった本作には釈然とできなかった。

TOHOシネマズ日比谷(スクリーン6)にて
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
2024年|1時間59分|日本|カラー
公式HP:https://culture-pub.jp/kuchinaisakura_movie/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt31416518/

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