見出し画像

往復書簡・映画館の話をしよう「映画館と街」①(山口雅)

大浦さんの「好きな席」のお話、興味深く読みました。
2人きりの場内で最前列の隣り合わせ鑑賞という話にビックリしました。はたから見るとあまりに不思議な光景ですが、その席へのこだわりがそれ以上にあるということですよね。真似できません。すごい。

さて、「映画館と街」というお題、ありがとうございます。

映画館によく行く人なら「映画の前後の定番コース」というのがみんなあるのではないでしょうか。映画館で映画を見るという行為は体験なので、「街」とは切り離せないものですよね。むしろ映画の一部といっていいくらい。駅から映画館まで歩きながら見た風景、帰りに寄ったカフェやラーメン屋までもが映画とセットで記憶されること、とても多いです。

シネマスコーレは「街の風景」をとても色濃く感じられる映画館だと思います。街も劇場も個性が強く、名古屋駅の新幹線改札からも抜群のアクセスで、遠方から来ても迷うことなく行けるであろう映画館。
劇場スタッフである大浦さんにとってはもしかしたらウイークポイントだと思うようなことでも、お客さんにとっては魅力そのものに映る点がたくさんあるんじゃないかな。今回はシネマスコーレと街の好きなところを書いてみようかと思います。

シネマスコーレの特徴は、まず路面店であること。
通りがかった人がふらりとそのまま映画を観られるというのが本当に素敵です。ゲストとしてやってきた監督や俳優さんが猛アピールの末、通行人を館内へ誘い込むことに成功する光景を何度も見ました。映画を観るつもりなんてなかった人が、ふらりと足を止められる。「ひらかれた映画館」という意味では最高ですよね。あの立地は開かれまくっていると思います。

ロビーらしいロビーがないことも、劇場の立場的には言われたくないことかもしれませんが、私にとっては重要な面白ポイントです。
入場時刻が近付くと、路上にあふれたお客さんたちが手持ち無沙汰気味に立ち尽くしているあの光景。「この人たち何?」と不思議そうに通り過ぎていく人々。車の影が見えるたびにスタッフさんが「クルマ通りますー!」と声を張り上げているのは、やはり面白いです。

シネマスコーレの周辺は最近でこそずいぶんと綺麗になりましたが、どこかのアジアの国の路地裏みたい。特に夜になると立ち並ぶ飲食店の街灯に照らされ、ひときわ明るいシネマスコーレの看板。雑然とした昼間とはまた違う風景です。それが名古屋という大都市の玄関口からわずか徒歩数分という場所に広がっているのも面白い。
レイトショーの終わった夜更けの映画館を出てみると、向かいの屋台のアジア系のおじさんたちが路上バトミントンに熱中していた光景は忘れられません。

それからたった数年。今では多くの店が閉まり、ビルは閉鎖され、あのおじさんたちもどこかに行ってしまいました。シネマスコーレには別室ロビーもできましたね。
街は変わりつつあります。映画館を取り巻いていた無国籍で怪しげな雰囲気は、ずいぶん薄まりました。

そう、街は変わっていきます。これはどこの街も同じ。街は変わる。
変わらない方が良いとは必ずしも思いません。人も街も変わっていくのが自然なこと。ちょっと切ないけど仕方ない。何かがなくなり、また新しい何かができて、少しずつ変わっていきます。それによるいいこともいっぱいあるんでしょう。少なくともシネマスコーレが今日もちゃんと存在している街は、私にとってはとても良い街です。

なんだか最初に書こうと思っていたことと全然違う方向の手紙になりましたが、まあいいか。大浦さんの話もぜひ聞かせてください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?