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男のギャンブル・ムービー対決! 『ハスラー』VS『シンシナティ・キッド』 ニューマン VS マックィーン 町山智浩単行本未収録傑作選7

文:町山智浩
初出:『映画秘宝』2014年4月号

あいつの名はシンシナティ
逆転の切り札も無い小僧さ
熱く焼けるポーカー・テーブルに
あいつは心と魂を賭けたんだ

緑のフエルトの向こうで

あいつのハートのクイーンが待っている
でも、あいつがポーカーのキングになるまで
彼女は待って、待って、待ち続ける

レイ・チャールズ「シンシナティ・キッド」

 前にも書いた気がするが念のため、『タワーリング・インフェルノ』(74年)でポール・ニューマンとスティーヴ・マックィーンが競演したとき、筆者の世代は「スーパー・スターのライバル激突!」と本当に興奮したものだ。ブルース・リーと松田優作の前の、男の子の憧れはニューマンとマックィーンだった。2人がどのくらいライバル意識を持っていたか知らないが、当時テレビで映画を観ていると、キカイダーとハカイダー、ライオン丸とタイガージョーのように激しく戦っているように見えた。マックィーンが『大脱走』(63年)の独房王ヒルツで大人気になると、ニューマンは『暴力脱獄』(67年)の脱獄王クールハンド・ルークでカリスマになる。これにマックィーンは『パピヨン』(73年)で脱獄に半生を賭けた男パピヨンを演じて対抗。ニューマンが『動く標的』(66年)でハードボイルド探偵をクールに演じると、マックィーンは『ブリット』(68年)でハードボイルド刑事を熱演。マックィーンがカーレースに出始めるとニューマンも『レーサー』(69年)でレーサーを演じ、自分でもレースに出始める。するとマックィーンはル・マン24時間耐久レースに出場したうえに『栄光のル・マン』(71年)を製作してしまう。ニューマンもインディやル・マンにレーサーとして出場し……。
 ファンからは、2人がレースで競り合ってるように見えた。本当は偶然なのかもしれないが。でも、ポール・ニューマンの『ハスラー』(61年)を意識して、マックィーンの『シンシナティ・キッド』(65年)が作られたのは事実だろう。この2本の映画はあまりにも似ている。だから、ここでは2本まとめて論じる。

●ビリヤード VS ポーカー

『ハスラー』は「14-1(フォーティーン・ワン)」と呼ばれるビリヤード、『シンシナティ・キッド』はファイヴ・スタッド・ポーカーで稼ぐギャンブラーの物語だ。どちらのゲームも筆者はルールをよく知らない。でも、小学生のころ、初めて観たとき、その面白さとカッコよさに震えた。なぜなら、拳銃の代わりにキューかカードで戦う西部劇だったからだ。大人になって観直して、感動した。なぜなら、ギャンブルを通して、人生を描いていたからだ。
「ハッスル」とは「ヤバい金稼ぎ」のことで、「ハスラー」とは売春婦やポン引き、詐欺師、それに博徒、勝負師を意味する。『ハスラー』でポール・ニューマン演じる「疾風のエディ」は、素人のフリをして酒場のビリヤード台でカモを誘う。こういう稼業を「プール・シャーク」と呼ぶ。エディはクッションと手球(キューボール)に挟まれた的球を落とす賭けをする。どう見ても不可能なので酒場中の客が失敗するほうに賭けるが、エディは見事にやりのけて賭け金をかっさらっていく。このトリッキーなショットは今では「ハスラー・バンク・ショット」と呼ばれている。
 シンシナティ・キッド(マックィーン)はスタッド・ポーカーの打ち手。普通のポーカーと違うのは、最初に配られた手札だけが伏せられて、その後の4枚は上に向けて見せて配られるということ。どんな手が作られていくのかは全員に見える。その間、賭け金を上げていく。そして最後に最初の1枚目をめくって勝負する。最初の敵バスターはストレート・フラッシュらしく、自信たっぷりに賭け金を吊り上げ、他のプレイヤーはビビって降りていくが、キッドはこれを受けて立つ。
「コール」
 キッドがめくると、ただの8のワンペア。しかしバスターの手は6のワンペアだけだった。
「てめえ、しょぼいワンペアなんかで突っ張ったのか?」
「お前さんもだろ」
 これで、勝負で大事なのは手の高さではないとわかる。いかに高く見せかけるか、どうやってそれを見ぬくか、の心理的駆け引きなのだ。
 ビリヤードも同じだ。エディはテクニックでは誰にも負けなかったが、大きな挫折を味わう。
 エディはエイムズというプール場を訪れる。酒場のように音楽もおしゃべりもない。酒も出ない。あるのはプールだけ。ここにカモになる素人はいない。プロだけだ。
「ここはプール・プレイヤーの教会だ」
 エディは言う。実際、なぜかプリーチ(説教師)と呼ばれる牧師もいる。ここはエディにとって裁きの場だ。エディの相棒、チャーリーは「死体置き場かもな」と言う。その予感は当たる。


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