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尾野真千子、関西凱旋記 ―「茜色に焼かれる」とともに

 女優・尾野真千子さんが石井裕也監督とタッグを組んだオリジナル脚本の意欲作「茜色に焼かれる」が公開されて4週目に突入しておりますが、とにかく評判が良いですね。

 新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言の発令などにより、難しい興行となっていますが、規制緩和を受けてようやく関西地区での舞台挨拶が可能となりました。尾野さんは、自らの発案で6月10日に京都、大阪、奈良の3府県の劇場での舞台挨拶を敢行しました。

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(C)2021「茜色に焼かれる」フィルムパートナーズ

 舞台挨拶が行われたのは、TOHOシネマズ二条(京都)、TOHOシネマズ梅田(大阪)、TOHOシネマズ橿原(奈良)。前日に関西入りした尾野さんは、事務所関係者2人とワゴン車に乗り込み、作品の熱量を伝えるべく各劇場を巡ったのです。

 本日正午に映画.comでは奈良での舞台挨拶を中心にニュース配信しましたが、映画.com Styleでは各劇場でのエピソードをダイジェストでお届けするとともに、こぼれ話も読者の皆さまにご紹介させていただきますね。

■TOHOシネマズ二条での舞台挨拶

 同館で舞台挨拶が行われるのは、約1年半ぶりだったそうです。朝一の上映ながら、熱心な映画ファンが駆けつけ、尾野さんの発するコメントを聞き逃すまいと熱気に満ち溢れた空間となりました。

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▽石井監督について

すごく愛情の深い方なんです。とにかく熱いんですよ。台本からして熱い。読んで1ページ目から、熱さが伝わってくるんです。演出も、スタッフに伝える技術的なことも、全てが熱いから、見ていて気持ちがいい。こんなに熱い現場って、そんなにないんですよ。他の現場では、撮影部は撮影部、照明部は照明部って、それぞれ別なんだけど、石井組はすべてを監督に相談し、それに対して監督がすべて答える。それくらいみんなが信頼しているんですね」


▽作品選びについて

「監督が誰だからとか、共演が誰だからとか、そういうことで決めたことはありません。必ず台本を見せていただいて、自分にオファーをいただいている役がどれだか分からない状態で読むんです。そして、これが今の自分にとってやるべきか、作品と良い具合に馴染めるか、その時の自分の気持ちに合った作品を選ばせてもらっています」

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※こぼれ話※
控室にいた尾野さんに、来客がありました。それは、尾野さんの女優人生に大きな転機をもたらしたNHK連続ドラマ小説「カーネーション」で演じた小原糸子の娘(幼年期)のひとりを演じた少女でした。当時3歳だったそうで、尾野さんがおぶって演じるシーンもあったといい、実に10年ぶりの再会となりました。既に芸能界は引退しているそうですが、中学生になってすっかり大人びた少女は母親とともに涙を流しながら再会を喜んでいたようです。

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■TOHOシネマズ梅田

 同館での舞台挨拶は、約半年ぶりだったそうです。

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▽東京での初日舞台挨拶での涙について

「もしかしたら公開できないかもしれなかったわけですから。映画って、やっぱり映画館で観てもらってこそ一人前になれるんです。考えることはいっぱいありましたよ。こうして無事に公開できて、本当に良かったなあと思っています。皆さんのおかげですね」


▽尾野さんが女ヒョウになるシーンについて

「『こうしてください』っていうのは、特になかったんです。ただ、『女ヒョウ』の格好はしますというだけで。現場へ行っても、美術さんがあれだけのセットを作ってくださったわけですが、監督の演出としては『女ヒョウです』って、それだけ(笑)」

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▽神社のシーンで転んだ件について

「あれはね、実は一発目なんですよ。日が落ちてきたり、色々な都合で早く撮らなくちゃいけなくなった。それで、前後のシーンを一連で撮ろうということになって、みんなアドレナリンが出まくっていたんです。あのとき雨が降っていまして、わたし、たまたま滑ったんです。でも、カットかからないし、これ続けなあかんねやと思っていたら、それを使ってくれた。ちゃっかり、おパンティーが映っていましたね。まあ、見えてもいいやつを履いていたんですが、ちょっと恥ずかしかったですねえ」

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※こぼれ話※
京都から大阪への移動中、話が盛り上がりすぎて、運転していた尾野さんの担当マネージャーが高速道路のインターチェンジで降り損ねる事態が発生したそうです。梅田方面へ向わなければならなかったため、伊丹で慌てて降りたとのこと。尾野さんからツッコミが入ったことは、言うまでもありません。

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 そして、腹が減っては戦が出来ぬ…ということもあって、尾野さんのこの日のお昼ご飯をご紹介します。食べログ検索してから突撃した「うどん 讃く(さんく)。うどんに香味胚芽が練り込まれているそうで、なんとも美味しそうですね。尾野さんがすする直前のものを撮っておいてくれました。


■TOHOシネマズ橿原での舞台挨拶

 尾野さんにとっては、奈良というホームグラウンドでの舞台挨拶。劇場の歓迎ぶりも尋常ではなく、場内に掲示されている映画のポスターは、「茜色に焼かれる」一色となりました。ご両親や知人が見守るなか、出身地である五條市のシンボルキャラクター「カッキー」の被り物を頭部に装着して登壇したのです。

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 上映前の舞台挨拶となったため、まずは尾野さんの熱いメッセージをご覧ください。

1回目の緊急事態宣言の解除後すぐに撮った作品です。皆さんもそうやったと思いますが、このまま仕事を続けていいのか、人と接していいのか悩んだ時期やと思う。芝居をするということは顔と顔を突き合わせ、肌と肌を触れ合わせて撮らなければいけないから、すごく悩みました。そんなとき、この台本が届きました。こういう時代があったということ、この状況をいつか忘れてしまうかもしれない。でも、それを思い出すために、これから生まれてくる子どもたちのために、そして生きていくためにこれを撮っていかなければいけない。監督と、『命をかけて伝えよう』と約束して撮ったんです。現場のスタッフ、キャスト、関わってくださった人たち、みんなで力を合わせた作品なんです」

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▽奈良での舞台挨拶は?

「トークショーをやったことはあるんですが、公開時期に舞台挨拶というのは多分デビュー(97年公開の『萌の朱雀』)以来くらいのことじゃないかな。20代の頃だったらすごく恥ずかしくて、きっと関西へ行くのも嫌がっていたかもしれへん。でも最近は、観てほしいと思う気持ちのほうが強い。親も見ているし恥ずかしいけど、この作品やったら自信をもってお届けできるかなと


▽女優を志したのは?

「当初は撮影現場というものが楽しくて、スタッフさんたちとまた会いたくてやっていたというのもあります。ちゃんと女優というものを目指し始めたのは、東京に出てから。『2年で芽が出なかったら帰ってくるから』って親を説得して、そこからですね。最初はテレビに出たい、映画に出たいとか、それだけやった。色々な作品に出演させていただくたびに、もっと違う、何かを伝えらえる女優になりたいという思いが強くなっていった。今作でいえば、(尾野さんが演じた)田中良子の気持ちをなんとかみんなに知ってほしい、届いてほしいの一心。NHKの作品に出て親孝行したいというだけだったのが、ちゃんとその場で生きているように見えて、その気持ちが届いてくれたらいいなあと、ようやく思えてきた気がします」

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▽挑戦してみたい役柄は? 「極道の妻」とかは?

「いいですねえ、やってみたいですねえ。そういう話題を事務所内でして盛り上がっていたら、『ヤクザと家族 The Family』という作品の仕事が舞い込んできたんです。言ってみるもんやなあと。ただ、ヤクザの妻ではなく普通の役やったから、今度はどっぷりと極道の妻の役とかをやってみたいですね。ほか? 絶対にダメやと思うけど、恋愛ものをやりたい。よくよく考えたら、恋愛ものってやっていない。キュンキュンなやつ、ちょっとはやりたいねえ。お相手? どうしましょ。いっぱいいはるから、わっかいの。若い方がお望みです(笑)


▽奈良での幼少期の思い出は?

「保育所へ行く前やったかな、家の前に2メールちょっとの崖があったんですよ。そこで、いとこのお姉ちゃんとままごとして遊んでたんですね。うちは姉妹ばっかやったから、立ちしょんの真似事をしてたんです(笑)。それが終わったから座ろうと思ったら、お姉ちゃんがおった。いないと思ってたから避けたら、そのまま顔面から崖を落ちたんです。記憶にないんやけど、顔は血だらけやったみたいね。落ちる瞬間、2番目のお姉ちゃんが『真千子!』って向こうから来るのを目にしたのを最後に、気を失ったんです。っていうお話(笑)」

「あとはね、山の中を駆け巡って遊んでいたんで、頭の中にダニを飼ってたんですよ。大きくなりすぎて、親がイボやと思ったんやて。明日病院に連れて行こうかと言って触ったら、取れたんやて(笑)。ダニやった!って。どんだけ山で遊んでんねんって話よね(笑)」

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▽今日は知人が劇場に来ている?

「うん、いっぱいおる。恥ずかしくて、この場所で一緒には観られない。最近はようやく両親や姉たちも内容を観てくれるようになってきた。それまでは、身内の恥ずかしさとかもあって、私を見ることで精いっぱいやったと思うんです。最近はここが良かったとか、色々と感想をくれるようになったから、ちょっとは成長できているのかな。自分の故郷で舞台挨拶ができて、本当に幸せです。またここに帰って来られるように、これからも良い作品と出合って頑張りたい」

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※こぼれ話※
 カッキーの被り物を装着して登壇した尾野さんに対し、司会が「落ち着かないからカッキー取りますか?」と促したところ、「なんで取らなあかんねん! 暑くなったら取るわ」と断固拒否する一幕がありました。実はこれ、尾野さんが不意に思いついて、五條市役所の担当者に急遽電話をかけて「映画、観に来てください」と誘い、そのついでに市役所に保存してあったカッキーの被り物を持ってきてくれるようお願いしたという裏話がありました。
 市役所の担当者はこの日、作品を鑑賞すると事務所スタッフに「最高でした。涙を流して観ていました。最後の女ヒョウで救われた気がします」と丁寧な感想を送ってきてくれたそうです。
 また、ご両親が今作を鑑賞するのは、この日が2度目。普段はあまり褒めることがないという母親から、珍しく褒められたとのこと。

 必死に働く劇場スタッフの姿を目にした尾野さんは、現場に支えられていると再認識したそうです。映画館で働く、ひとりでも多くの方々にも、この作品の奏でるメッセージが届くことを願い、今回の関西凱旋記を締め括らせていただきます。

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