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卑劣な実態を切り取ったドキュメンタリー、「るろ剣」最終章など 今週のオススメ3本【次に見るなら、この映画】4月24日編

 毎週土曜日にオススメ映画をレビュー。

 今週は、現代の子どもたちが直面する危険をありのままに映し出したドキュメンタリー、「るろうに剣心」完結編2部作の第1弾、「GUMMO ガンモ」のハーモニー・コリン監督7年ぶりの長編映画の3本です。

①成人女性が未成年の設定でSNSへ登録すると、何が起こるかを検証した「SNS 少女たちの10日間」(公開中)

②剣心と謎の武器商人・縁の死闘を描く「るろうに剣心 最終章 The Final」(公開中)

③マシュー・マコノヒーが放蕩の詩人を演じた人間ドラマ「ビーチ・バム まじめに不真面目」(4月30日公開)

 劇場へ足を運ぶ際は、体調管理・感染予防を万全にしたうえでご鑑賞ください!


◇まるで変態博覧会。それを「どうやって撮ったか?」がミソ(文:駒井尚文)

「SNS 少女たちの10日間」(公開中)

 本作を見た映画.comスタッフの女子複数が「胸くそ悪くなる映画でした」と感想を述べていたので、私も早速見てみたら、本当に胸くそ悪くなった(笑)。まるで、変態博覧会です。カメラ越しに「洋服脱いで」と懇願したり、自らの局部の写真を送りつけたり、必死でティーンエイジャー女子を口説くオッサンたち(爺さんも!)は、本当に見ていて不愉快になる連中です。しかし、妙齢の娘を持つ親の皆さんには、後学のために鑑賞することをお勧めします。十分に成熟していない彼女たちが、性的リクエストに対して正しい判断ができず、金銭などの見返りで変態オヤジの誘いに乗ってしまう可能性についてしっかり説明されているからです。基本的に、SNSは変質者の巣窟ですからね。

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 私は「こんな際どいSNS上のやりとりを、いったいどうやって撮影したんだ」という疑問を持ちました。「18歳以上で幼い顔立ちの女優を3人集め、12歳という設定にして、SNSで友だち募集するという実験」そのものが秀逸だったというのがひとつの答えでしょう。3人の女優は、この実験を「仕事」として10日間頑張ります。そしてもうひとつ、この映画の監督は2人いて、片方のバーラ・ハルポヴァーは女性監督であることも重要なポイントです。同じような「どうやって撮影したんだ」疑問は、2020年のオスカー候補になったドキュメンタリー「ハニーランド 永遠の谷」で思ったのと同じ類のものです。「こんな僻地に住む独身女性に、どうやってここまで本音を語らせることができたのか?」これも答は「相手が女性監督だから」ということで説明がつきます。

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 女性同士、監督が被写体に寄り添いながら手厚くフォローすることで、男性監督では絶対に撮れない画が撮れる。これ、ここ最近のドキュメンタリーにおける潮流のひとつだと思います。変態オッサンのどうしようもない映像のケア(顔のボカシが半端ない!)は男性監督にまかせ、ティーンエイジャーのメンタルケアと励ましは女性監督がやる。役割分担の結果だと思います。ドキュメンタリーの世界でも、女性監督の躍進はしばらく続くでしょう。

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 あと、本作のエンドロール。Skypeの着信メロディを重唱にしてかぶせたBGMには痺れました。締めがお見事でした。


◇芝居の延長線上にアクションがあることを実証してみせた、疾風怒涛の138分(文:大塚史貴)

「るろうに剣心 最終章 The Final」(公開中)

 疾風怒涛の138分、瞬きすることすら忘れそうになるほどの鑑賞体験は、そうそうあるものではない。振り返れば、今シリーズは第1作「るろうに剣心」の134分を皮切りに、「るろうに剣心 京都大火編」が139分、「るろうに剣心 伝説の最期編」が135分と、その全てが2時間20分近い仕上がりだが、通底しているのは10年近くにわたり観る者の心を掴んで離さない仕上がりを右肩上がりで続けていることだ。

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 ここまで観客を夢中にさせたのには、絶大な人気を誇った和月伸宏氏の原作漫画の存在があり、これを無視することは当然できない。だが、漫画の世界でしか成立しえないと思われたアクションを大友啓史監督が、アクション監督の谷垣健治が、そして主人公の緋村剣心に息吹を注いだ佐藤健をはじめとするキャスト陣が、CGでもVFXでもなく、生身の肉体を徹底的に駆使することを選択し、成立させてしまったことは特筆すべきことである。

 今作を鑑賞してみて、瞠目すべきポイントは幾つかあるが、まずはアクションのグレードが更に上がっていることに尽きる。大いに貢献したのは、剣心が生み出してしまった最恐最悪の敵・雪代縁(ゆきしろ・えにし)に扮した新田真剣佑だ。新田の辞書に不可能の文字はないのではないかと勘繰りたくなるほどに、優雅でいて圧倒的に切れ味の鋭い動きを披露している。

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 そして、芝居による説得力が見落とされがちである点も言及しておきたい。日本映画史を塗り替える疾走感溢れるアクションに目を奪われがちだが、激動の幕末を戦い抜いた人斬り抜刀斎こと剣心が維新を迎え、斬れない“逆刃刀”に持ち替えて人のために生きようとする眼差しこそが、今作を今作たらしめている。

 前2作の公開から再結集するまでの5年間で、キャスト陣はもちろん製作陣もさまざまな現場を経験し、引き出しを増やしていった。経験に裏打ちされた技術と色褪せぬ情熱の蓄積が、今回の「るろうに剣心 最終章 The Final」「るろうに剣心 最終章 The Beginning」に投入されている。

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 原作の「人誅編」を描いている今作の肝となるのは、自分が原因で大切な人たちが次々と襲われ精神的にも肉体的にも疲弊していく剣心の苦悩と、最愛の姉・巴(有村架純)を剣心に斬殺された過去をもつ縁の底知れぬ怨嗟にある。姉のいない世に絶望し、姉を亡き者とした剣心への復讐はおろか、周囲の関わる人すべてに苦しみを与えるべく、周到に追い詰めていくさまは秀逸だ。

 そして最終章の公開順に関しての是非が問われることもあるだろうが、大友監督がこだわり抜いた「終わり」から「始まり」を描く狙いに唸らされる。この件について評するのは、剣心の頬の十字傷の謎に迫る「The Beginning」公開時まで待ちたい。


◇予測不可能な悪ふざけのオンパレード。映画表現の解体と再構築をやってのけた怪作(文:村山章)

「ビーチ・バム まじめに不真面目」(4月30日公開)

 ハーモニー・コリンがもう48歳!? 1990年代半ばに現れた早熟な天才。「KIDS」の脚本が19歳、監督デビュー作「GUMMO ガンモ」を世に送り出したのが22歳。常識破りで挑発的な創作活動は、いつも枠に押し込められることを拒絶しているように思えた。しかし、ぶっちゃけ48歳はまごうことなくオッサンである。

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 ジョナ・ヒルの監督作「mid90s」に出演した姿も「あれがコリン?」と目を疑うくらいただのオッサンだった。冷静に考えれば、いつまでも“怒れる若者”であり続けられるはずがない。無軌道で不道徳な女子大生のバカ騒ぎをフルスイングで肯定してみせた怪作「スプリング・ブレイカーズ」から9年(製作は7年後)、ようやく届いた新作は清々しいほど「オッサンの映画」になっていた!

 とはいえ「ビーチ・バム」の主人公はただのオッサンとは違う。マシュー・マコノヒーが演じる、ムーンドッグというカリスマ詩人だ。ただし一世を風靡したのは昔話で、今では浴びるほど酒を飲み、老いも若きも頓着せずに女性たちを愛し、24時間ハイなその日暮らしを満喫している。上映時間95分、ほぼ全編が、ムーンドッグがちゃらんぽらんに遊んでいる場面だと言っていい。

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 なぜいい年のオッサンが働きもせずに遊んでいられるのか? それは大金持ちの妻がいてくれるから。しかし妻が亡くなり、莫大な遺産の相続条件として新作の詩集を書き上げなくてはならくなる……というのが一応存在しているプロット。一応、と書いたのは、エピソードを積み上げながらクライマックスになだれ込むという通常の語り口を、本作がほとんど放棄しているからだ。

 普通の映画なら、主人公に試練を与え、それを乗り越えて成長する姿を物語にして提示する。しかしムーンドッグも監督のコリンも、そんな当たり前のストーリーテリングからひたすらに逃げまくる。浮世離れした天才詩人が繰り広げる、予測不可能な悪ふざけのオンパレード。その先に何があるのかと戸惑う観客に、「映画も人生も “楽しい”以外になにかいる?」と問いかけているようですらある。

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 光も闇も等価に呑み込む刹那的な問題提起は、現実の写し絵として機能する一種の逆説なのだが、そんな小理屈もムーンドッグからは「ダセえな」と笑い飛ばされるのがオチ。コリンは本作で映画表現の解体と再構築をやってのけたと思うのだが、力みを一切見せないスタンスが、もはや空恐ろしい怪作である。

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