【施術日誌#1】先天性股関節脱臼のオペ後のマッサージ ~目的とリスクのジレンマ~
1、Yちゃんについて
大脳発育不全(先天性大脳白質形成不全)と、先天性(うまれつきの)右股関節脱臼のある、3歳のYちゃん。
この夏、先天性股関節脱臼への整形外科的オペを行いました。
予定していた退院日より早く退院するなど、オペ後の経過は順調とのことで一安心です。
Yちゃんは、1歳過ぎごろから、訪問マッサージ施術を開始しました。
オペから退院後もすぐに施術再開しています。
大脳の発育不全や、股関節脱臼以外にも、難聴や頭蓋縫合早期癒合症など、様々な奇形や合併症があり、出生時の診断では「何もできないでしょう」と言われたYちゃん。
しかし、独歩や立位は難しくても、手を上手に使っておもちゃで遊んだり、呼びかけに反応したり、笑ったり、泣いてママややパパに甘えたり、運動面でも寝返りするなど、予想に反してYちゃんなりの成長を見せてくれています。
2、オペ決断まで
先天性の股関節脱臼に関しては、現実的には「歩くことがない」のであれば、無理にオペをする必要はありません。寝たきりで過ごすのなら、股関節が脱臼していても体重を支える必要がありませんので、大きな問題にならないからです。
ママとパパも、担当の医師ともよく話し合い、とても悩まれていました。
股関節のオペは、小さなお子さんにとってはとても大きな負担のかかるオペです。
しかし、先天性の股関節脱臼に対しては、整形外科的なオペ以外に治療方法の選択肢がありません。
予想に反してYちゃんなりの成長をみたママとパパは、「足ったり歩いたりできるかもしれない」という希望を持って、オペを決めました。
3、「希望」と「課題」
オペは、成功といって良い経過を辿っています。合併症などもなく、Yちゃんも退院後、とても元気に過ごしています。
ただ一点、課題となるが、股関節の装具着用です。
関節の骨を触るオペをしていますので、オペ部位の骨や関節の位置が落ち着くまで、脱臼肢位を取らないよう、両足に装具の着用が必要となります。
これが、入浴時以外24時間、6カ月ほど続くとのお話です。
年齢的に考えて、半年にも及ぶ装具固定が運動獲得に与える影響は無視できません。
その間、下肢を使った訓練もできません。
立位や独歩の獲得という「希望」を持って、股関節の位置をととのえるオペを決断しました。
しかし、オペ後の装具固定に加えて、訓練ができない期間というのは、同時に「課題」でもあります。
4、マッサージでできること
リハビリ時に装具を外すことができない指示が出ており、訪問マッサージ施術も当然、装具を外さずに行います。
体重をかけることも、関節可動域を維持する運動もできません。
では、何ができるのか?
立位や独歩獲得に必要な要素は、
・姿勢のコントロール
・前庭覚(バランス感覚)
・固有覚(筋肉や関節の感覚)
・それらの土台になる触覚(皮膚感覚)
です。
姿勢のコントロールと前庭覚は、立位や取れる姿勢が制限されていて十分に訓練できません。固有覚も、動かせないため、十分に訓練できません。
唯一、マッサージで育成できるのが、触覚(皮膚感覚)です。
装具着用が長期間にわたることは、仕方のないことです。
今は、下肢全体が装具で守られており、床や地面を皮膚面で感じることも限定的です。
装具を外さないまま、触れる場所に触刺激を入れていきます。
装具のない足首や足裏などはとくにしっかりと刺激していきます。
半年後、装具が外れたあとのリハビリや療育が、スムーズに行われるよう、装具を着用し動きが制限されている今のうちから、しっかり感覚の準備をしていきます。
将来、ママやパパの希望通りになるかはわかりません。
でも、そこを目指してできる限りのことしていく。
でなければ、僕が介入する意味はないから。
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