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国際契約英文法ー言わなくてもよいこと(2)

国際契約英文法」のシリーズでは、英文契約書を普通にいう文法という見地から考えるほか、文章を書く作法という視点からも見てみます。英文契約書ってなぜこう書くのだろうか、と筆者が思ったことを取り上げて考えます

文頭に書かれている The Parties agree that … などは、いつも不要なのでしょうか?

前回に、契約書は合意事項を集積したものだから、条項ごとに ’The Parties agree that …’ とか、’Seller agrees that …’ と書かなくても構わないといいました。ではいつもそうなのでしょうか?

実はそうとも言い切れません。当事者が何か特別なことをするということが書いてあるときには、そのことを明らかにすることには意味があります。(☚これがポイント)

売主は「保証(warrant)」する

例えば、売主が「製品は、12ヶ月の間は、合意した仕様に合致する」(つまり「ちゃんと機能する」)ということを「保証」するときには、次のようにいいます。

The Seller warrants that the Product meets the agreed specifications for 12 months. 

契約の中では、両当事者とも色々なことに合意していますが、この条項では売主は「保証」しています。

もし何かを約束するのは分かり切ったことだとして、文頭の4語を外したらどうなるでしょうか?

The Product meets the agreed specifications for 12 months.

ということになります。何となく頼りないと思いませんか?誰がそういっているのかも一見して、わかりません。

どういう合意をしているのかが、分からない?

つまり、‘The Seller warrants that’ を外してしまうと、当事者である売主、言い換えれば義務を負う者が「保証の約束/合意をしている」ということが、文章からは明確に分からなくなってしまうのです。もちろん当事者は知っているでしょう。しかしそれだけでは契約書としては不十分です。

契約書を作る目的は?

契約書を作る最大の目的は、裁判などになったときに、第三者にも当事者の約束ごと(つまり当事者それぞれの義務)が明確に分かることにあるからです。(☚これがポイント)

そのためには ’ The Seller warrants that’ として、「売主は保証する」ということを明文で書かなければならないのです。

前回の復習

念のために、前回の最後の例をもう一度みて見ましょう。

I undertake that I will carry out the following work to the Property … :

この場合、’I undertake’ を外しても、「私(借主)は以下の作業をする」とはっきり書いてあります。だから分かり切っている「引き受けます/約束します」はなくても問題なかったのです。

売主は「表明する(represent)」

企業買収などの契約書に ’Representations and Warranties'(表明と保証)という条項が、必ず出てきます。

‘Warranties’(動詞は ’warrant’)は上に見た通り「保証」です。一方 ’Representations’(動詞は ’represent’ )とは、一方当事者が相手方当事者に対して、重要な事柄について「……」というのは事実であると表明/宣言することです。そして表明したことが真実でなければ、表明した当事者は責任を問われることになります。(☚これがポイント)

例文を見てみましょう。

The Seller represents that there are no taxes which are past due.
売主は、如何なる税金の滞納もないことを表明する。

買主にしてみれば、会社を買収してみたら、税金問題が起こったのでは困ります。しかし買収しようとする会社に税金問題あるかどうかを、契約締結前に正確に調べるのは、実際には不可能に近いことです。

そこで相手(売主)にそう「表明」させて、その通りでなかったら責任を取らせる、という構成にするのです。これが ’representations’ という規定の目的です。(☚これがポイント)

単に ’There are no taxes which are past due’ と書いただけでは安心出来ません。誰がそのような「表明」をしたのかが、はっきりと読み取れないからです。表明条項では、’ The Seller represents that’ という書き出しは必要なのです。

当事者の約束ごとが明示される必要がある

2回に分けて契約書によくある表現の要/不要を考えてみました。書いてなければ当事者の約束の内容が第三者に明らかにわからないときは、明記しておく必要がありますが、そうではないときは書かなくてもよい、ということです。


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