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国際契約英文法 ー動詞の目的語(1)

「国際契約英文法」シリーズをはじめるにあたって

文法」という言葉には、語句と語句のつながりの法則という、普通よく使われる意味(文法ぶんぽうの他に、文章を作る作法やきまり、という意味(作文の方法ほうほう)の、二つがあります。

このシリーズでは、契約書を読み書きするときに、この二つの意味の英文法上で気をつけておきたいことや、筆者が英文国際契約を最初に見たころに「これはどうなっているのか?」と戸惑ったことについて、お話ししてみたいと思っています。

ところで画像の「道知辺みちしるべ」というのは梅の品種です。その名のゆえんは、この花は香りがたいそう強く、そのむかし旅人が闇夜でもそれを頼りに道をたどることが出来たからだそうです。このシリーズが英文契約書に疑問を持つ方の道しるべになることを願っています。

第1回と第2回では、動詞の目的語について考えてみます。

他動詞と目的語

英語の動詞には他動詞と自動詞があります。他動詞は何かを対象にしなければならない語です。文法では「直接目的語」とよばれ、名詞か名詞節で大抵はモノです。それに対して自分だけで完結できるのが自動詞です。

たとえば他動詞 find は an answer か何かなければ落ち着きが悪いのですが、自動詞 come は何も続かなくても構いません。

売買契約に頻繁に出てくる sell、supply、deliver といった動詞は、たとえば the Products などを直接目的語にとります。また、買主は代金を払わなければなりませんが、Buyer shall make payment for the Products というと、make は payment を目的語としています。

両生類もいます

現実には他動詞、自動詞の両方の使い方をされる動詞は少なくありません。つまり、どちらか一方だけであるとは限らないのです。

'eat' は
I eat breakfast every day.
というときには他動詞として使われていますので breakfast という目的語がなければ落ち着かないのですが
I usually eat at about 6 pm.
というときには、自動詞ですので目的語はいりません。

実は他動詞の例としてあげた 'find' も、裁判で裁判官や陪審員が「事実認定をする」、という大事な意味で使うときには自動詞なのですが、契約書にそんな話がでてくることはまずありません。

不完全自動詞

ところで自動詞は自分だけで完結できると言いましたが

This Agreement remains effective for 3 years.
本契約は3年間有効である。

のように、補語(ここでは 'effective')を必要とするものもあります。でも補語は目的語ではありません。

be も自動詞ですが、名詞か形容詞を補語とします。

If the Product is defective, …
もし商品が不完全であったら(欠陥があったら)……

契約書ではどうすればよいのでしょうか?

他動詞には少なくとも直接目的語が必要ですし、時には次回にお話しする間接目的語も出てきます。

もっとも契約書を読む段では、他動詞、自動詞のどっちであろうが影響はありません。その判断を誤ったからといって、文章の意味を読み違えることは、まずないからです。

しかし、契約書を書くときに、うっかり他動詞に目的語を置き忘れることがあると、ちょっと問題です。日本語では「売主は売渡す義務を負う」と言っても、あるべきものが抜けているとは思われませんが、英語ではそうはいきません。

そんなことが起こらないようにするには、契約書を書くときは「第三者にでも正確に理解されることが最重要!」ということを意識して下さい。(☚これがポイント)

そして、そのためには、動詞が自動詞か他動詞かを考えることも大切ですが、何よりも「<誰(何)が><誰に><何を><どうする>」がはっきり分かるかどうか、から出発してください。<何を>と考える段階で、目的語は自動的に出てきます。

The Seller shall sell the Products.
売主は商品を売渡さなければならない。

The Buyer may pay the Price at any time within ten (10) days after receipt of the Product.
買主は、商品受領後10日以内のいつでも商品代金を支払うことが出来る。

なお他動詞は受動態で使われることもあります。

Payment shall be made in Japanese Yen.
支払いは日本円でなされなければならない。

The Product shall be delivered at the Buyer's office.
商品は買主の営業所で引き渡さなければならない。

元に戻せば、make payment、deliver the Product で、やはり<何を>が必要なのが分かります。


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