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国際契約英文法 ー動詞の目的語(2)

直接目的語と間接目的語

他動詞の目的語には直接目的語の他に、はたらきかける対象である人を表す間接目的語があります。そしてこの2つが出てきたときは、次のように2通りの方法で言えると学校で習いました。

1. I sold James my car.
ジェームズに私の車を売った。
2. I sold my car to James.
私の車をジェームズに売った。

動詞 'sold' のすぐ後には直接目的語(may car)、間接目的語(James)のどちらがくる可能性もあるのに、誰も1の文章を見て「ジェームズを売った」とは思わないことに注目してください。

ところで同じく学校で、目的語が両方ともに代名詞の場合は
I sold it to him.
とは言えても
I sold him it.
とは言えないと習いました。

Asahi 社は何を売ったのか?

では次の2つをみて下さい。

1. Asahi sold Maxsoft Asahi (USA).
2. Asahi sold Asahi (USA) to Maxsoft.

これは「朝日社は米国子会社である朝日社(米国)をMaxsoft 社に売却した」という企業買収案件です。2はすぐに当事者関係が分かりますが、1では全部読んだあとですら、何があったのかピンと来ないのではありませんか。

さっきの 'I sold James my car' では、誰も「ジェームズを売った」とは思わないのに、'Asahi sold Maxsoft Asahi (USA)' では案件の内容を知らない限り、Maxsoft 社が売却の対象だと錯覚しませんでしたか?

Maxsoft や Asahi (USA) が固有名詞ではなく、代名詞なら文法的に正しい並べ方は2しかありません(とは言え、会社は ‘it’ で受けるので、'Asahi sold it to it' ということになって、やっぱり混乱しますが!)。しかし Maxsoft もAsahi (USA) も固有名詞ですから、1も理屈の上では成り立つのです。ところが、実際は大いに「即(!)理解性」に欠けますね。

とにかく分かりやすいことが第一番です

では契約書では I sold James my car /Asahi sold Maxsoft Asahi (USA) のような語順(動詞+間接目的語+直接目的語)で書くことはないのでしょうか。そんなことはありません。たとえば動詞から間接目的語(人)までの間隔が空いてしまって、読みにくいときにそうします。

ただし、その際に現実の契約書では、'I sold James my car' のように間接目的語(人)が先に来た場合でも、「誰に」が分かるようにその前に ‘to’ を入れて

Asahi sold to Maxsoft Asahi (USA).

つまり 'I sold to James my car' のような形にするのです。これでMaxsoft は直接目的語ではない、ということが一目瞭然に分かります。

実例を2つみて下さい。最初は株式譲渡契約、2番目は投資に関する契約書です。

Pursuant to the terms and conditions set forth in this Agreement, the Seller has agreed to sell to the Purchaser, and the Purchaser has agreed to purchase from the Seller, the Transferred Shares.
本契約に定められた条件に従って、売主は買主に移転対象株式を売り、そして買主は売主から移転対象株式を買うことに、合意した。

The Company shall pay to the Buyer the Interest as set forth in the Note. 
会社は手形に規定された金利を、買主に支払わなければならない。

いずれも太字にした部分が文法的には少し型外れな個所ですが、そんなことより分かるように書くことに意を用いている、ということがよくお分かりいただけると思います。(☚これがポイント)

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