見出し画像

国際契約英文法ー法律文書では、どうして簡単な言葉を使わないのですか?(1)

法律文書は難しい言葉ばかり!

法律文書をもっと分かりやすい英語で書くことを目指して、Plain English(分かりやすい英語)を使おうといううごきが、英米で既に1960年代からあります。

イギリスにはわかりやすい文章に Crystal Mark をつける活動があります。Plain English Campaign という団体がやっていて、世界の名だたる政府機関、銀行、保険会社などがこのマークを取得しています。

また、アメリカでは1998年に証券取引委員会が、投資の勧誘に当たっての「開示資料」を読者にわかりやすく書くことを求めた A Plain English Handbook(How to Create Clear SEC Disclosure Documents)という手引き書を発行しています。

ところが、誰にもわかっていることですが、実際の英文契約書に目を向けると、いまだに難しい言葉が使われています。

契約書では ‘get’ や ’do’ に市民権はないのですか?

たとえば ‘get’ や ‘do’ のように誰にでも分かる言葉を使って、契約書を書けなくはないだろうと思うかもしれません。ところがそれらの言葉が使われている実例を探すとなると一苦労なのです。

Get の実例

The System allows end users to find places, get driving directions and …
システムはエンドユーザーが目的地を探し、経路の案内を取得……することを可能にする。

ここで、System はカーナビゲーションのことを指しています。これは ‘get’ のごく一般的な用法ですね。しかしこれは貴重な例なのです。

次をみて下さい。

Parties shall mutually select and appoint a contract manufacturing organization (“CMO”) and get the Product manufactured and supplied to each Party from the said CMO.
当事者は契約製造者(“CMO”)を選定し、任命の上、当該CMOから各当事者に製品を製造、供給させるようにしなければならない。

 ‘get’ は、ここでは 「得る、受ける」とかいったよくある意味でではなく、「何々を起こさせる」という使役の目的で使われています。

 次の例は「誰それに何々をさせる」という用法です。

A party may disclose information to a person if the party uses reasonable endeavours to get the person to agree to keep the information confidential.
一方当事者は、開示する相手に、情報の秘密を保つことに合意させる合理的な努力をすることを条件に、情報を開示してもよい。

これらは、文字通りどおり何百という契約書を探して、やっと見つけた例なのです。 ‘get’ のような平易な言葉が、いかに契約書では使われていないかを示しています。 

Do の実例

次に 'do' の例を見てみましょう。

Each Subsidiary is duly qualified or licensed to do business and is in good standing.
各子会社は事業活動をする資格を持つか、または許可を得ており、かつ有効に存在している.

 ‘do business’ は「事業活動をする」という意味で、普通の法律文書にも見られる表現です。ある国で事業を始める人のために諸手続や法制度を紹介した本のタイトルに ’Doing Business in …’ というのがあります。

 … the Purchased Businesses have not … knowingly done any act, omitted to do any act, … which would cause a material breach of any representation, warranty, … contained in this Agreement …
買収目的事業においては、本契約中の表示、保証……の重大な違反を構成するような何らかの行為を故意にしたり、すべき行為を怠ったり……したことはない。

企業買収契約中の例で、‘do … act(行為をする)’という使われ方です。次もそうです。

Each of the Parties will do all such further acts as may be reasonably necessary to effect the transactions set out in Section 1.
各当事者は、第1条に記載された取引を実行するために合理的に必要と考えられる、追加事項を行わなければならない。

 これも ‘do … act’ ですね。調べた限りでは 'do' については、意味、用法を問わずこれ以外には何も見付かりませんでした。

それにしても 法律文書では、どうして分かりやすい言葉が使われないで、難しい表現が多いのでしょうか?  これは次回(2)にお話ししましょう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?