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喪失から立ち直るさまが描かれた絵本 |『フォックスさんのにわ』を紹介します。

絵本紹介士のkokoroです。幼い頃から読書が好きで、大学は児童文学科で学びました。同時に、心のこと、スピリチュアルなことにも、とても関心を持っています。このnoteでは、そういう観点から心惹かれる絵本を選び、お話の中の気付きやメッセージを読み解いています。

その絵本を紹介することで、どういうところが心がラクになるのかなどを伝え、そして実際に読んでもらって、落ち込んでいる人や辛い気持ちにいる人が、心がラクになったり、元気や勇気を出してもらえることを目指しています。

今日選んだ絵本のテーマは「喪失から、どうやって立ち直っていったか」です。
誰しも喪失感を味わうことがあると思います。そんな人が読んで元気になれるヒントをもらえ、少しでも希望を持てたらいいなと思っています。


1・今日の絵本

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『フォックスさんのにわ』(ブライアン・リーズ さく せな あいこ やく 児童図書館・絵本の部屋出版


<はじまり>
このお話はフォックスさんというキツネが主人公です。フォックスさんはともだちの犬といつも一緒でした。遊ぶときも家の中も車に乗るときも。
一番好きなのは素晴らしい庭で一緒に庭仕事をすること。

<別れ>
ところが、ある時、その大事な存在である犬が死んでしまった。
それからは何もかも変わってしまい、家に閉じこもってしまいました。

<混乱>
庭を見るのも辛すぎてめちゃくちゃにたたきこわしてしまった。
それでも庭は生きていて、新しい草も生えてくる。
どうせなら、気味の悪い庭にしてやろうと思い、木の草も怖いおばけのような形に刈りこんだ。

<回復>
そんななか、カボチャのつるやはっぱが生えてきた。
フォックスさんは、ほっておくことにした。
カボチャはどんどん育ち、フォックスさんも雑草を抜いたり水をやったりした。
カボチャはすごく大きくなり、車に積んで収穫祭に出かけた。
久しぶりにお手伝いをしたり、遊んだり、美味しいものを食べたり、人と話した。

<再生>
なんと、カボチャがコンテストで3等になった。
懸賞は10ドルか子犬かどうぞ、と言われ、10ドルを選んだものの、子犬も気になる。

・・そして、最後の場面。
フォックスさんと子犬が並んで車に乗っています。
そうです、フォックスさんはまた新たな友達を連れて帰ったのです。

2・喪失から立ち直りへ

①喪失~大切な人を失って


このお話、どうなることかと思っていました。
いつも一緒のワンちゃんがいなくなって、何もする気がなくなった。大好きな庭仕事も。

余計、庭を見るのが辛い。庭に八つ当たりします。
読んでいる方は「だ、だいじょうぶ?どうなるの?これから」と心配になる。
でも、最後まで読むと、この行為もあまりの悲しみを表現していることなので、これもこれで必要だったのかなと感じます。
悲しみが、なぜいなくなってしまったんだという「怒り」に変わり、それを外向きに発散できて一つ気がラクになったよう。喪失から再生への、これも大切な段階。

②行動~自分の心を解放


そして、どうせなら気味の悪い庭にしようと思った。「気味の悪い庭づくり」に夢中になってくるのです。再び、庭仕事自体が楽しくなってくる。
フォックスさんが庭作りの才能があることに気付かされます。

庭は生きている。草は伸びてくる。

植物がどんどん生えていくのは生命力を感じられます。
喪失からの再生です。失ったと思ってもなにもかも失ったわけではない、またやり直せる、そんなことを感じます。

カボチャが大きくなるのを見て、ほっておけなくなったフォックスさん。
雑草を抜いたり、水をあげたり。
カボチャはそれに応えるかのように立派に成長。

くうきが つめたくなって くると、フォックスさんに、なつかしい、わくわくした きもちが もどってきた。


『フォックスさんのにわ』(ブライアン・リーズ さく せな あいこ やく 児童図書館・絵本の部屋出版より引用

再び、前の気持ちを取り戻したんですね。
フォックスさんは、秋の収穫祭に参加しようと町へ出かけた。そこではジェットコースターに乗って楽しんだり、りんご飴を食べたり、人と楽しく話すフォックスさんの姿が。

いつまでも落ち込んではいられない、人と話したり、フェスティバルのお手伝いをしている内にフォックスさんの気もちは前向きに。

とても楽しそうなフォックスさんの姿を見ると荒れていた姿を知っているだけに、ほっとします。
フォックスさんはこんな風に思います。

おしゃべりも した。
たまには でかけるのも いいものだ。
むかしと まったく おなじとは いえないにしても。


『フォックスさんのにわ』(ブライアン・リーズ さく せな あいこ やく 児童図書館・絵本の部屋出版より引用

犬を失った喪失は大きいけれど、楽しい思いはできる、前とまったく同じでないにしても。

③立ち直り~希望は必ずある


最後はまた子犬を連れて帰るところで終わっています。
読んでいる私も「よかった~」とほっとしました。

この新しい子犬は前の犬とは違います。だけど、また二人で楽しい日々が送れる。
そして、一度失ったからこそ、余計、しみじみとその嬉しさ、有難さがわかるのではないでしょうか。

これは私たちの人生においても同じようなことがいえる。
死という別れでなくとも、人との別れや喪失というものがある。すごく辛い。悲しい。
だけど、いつしか時が経ち、引きずりながらも新しい日々を送っていく。
そんな再生へ向かう中で、新しい出会いが待っていることもある。
初めの出会いより、余計ありがたく、嬉しく、幸せを深く感じられる。
そんなことを思わせられる絵本です。

3・心に響いたポイント!


この絵本の中で一番心に響いたところは、フォックスさんが自分のマイナスな気持ちを素直に表したことです。庭に八つ当たりしてめちゃくちゃにしたり、草や花を切り刻んで捨てたり。喪失感が怒りとなってそれを思いきり表した。それが感情の解放となり、少し落ち着けたのではないかと感じました。
自分の気持ちをごまかさずに、表す。もちろん、人に迷惑をかけたり傷つけることはダメですが、何らかの形で発散する。

それは人によって違うと思います。大きな声を出したり、歌をうたったり、あるいは走ったり、ゲームに熱中したり。

どうしようもない思いを自分が持っていることを認め、それを行動によって発散させる。
フォックスさんはもっと気味の悪い庭にしてやろうと、木を怪獣やお化けの形に刈りこんだりして「気味の悪い庭」を作ることに夢中になります。

それに夢中になることで、本人が知らない間にいつしか、心にあった悲しいことが少しずつ癒えてきて、前向きになってくるのです。

その過程に希望を感じました。
人って(フォックスさんはキツネですが)どんなに辛いことがあっても、喪失感を感じても(その内容には差があると思いますが)何か前向きになる力が備わっているんだと感じられる。
なので、特にこの悲しみ・怒りを表現してからの前向きになる瞬間が描かれたところを「心に響いたポイント」として挙げたいです。ここをよく味わって読んでもらえたらと思います。

4・まとめ


この絵本は色彩豊かで生き生きと、とても美しい。
カボチャがめっちゃ大きいのがビックリ(笑)
どうやって車に積んだのか、そんなことも絵本の中に出てきます。
細かいところもよく描きこんであり、何回も読んで楽しめる。

最後が本当にほっとする希望のある結末なので、読んでいても嬉しくなります。
何か落ち込んでいたり、喪失感を抱えている人にとっては前向きになるヒントになるのでは?と思います。

また、この絵本は2019年のコールデコット賞のオナーブック(次点)に選ばれた作品でもあります。コールデコット賞とは、世界的に有名な賞の一つで、毎年、アメリカで最も優れた絵本が選ばれています。

心が温かくなり、元気が出る絵本です。ぜひ、読んでみてください!


この絵本が気になる方はこちらへ☆

https://www.books.or.jp/ResultDetail.aspx?isbn=9784566080546


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