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「死ぬのが怖い」・・その気持ち、少し和らぐかもしれない絵本 | 『ちいさな死神くん』(キティ・クローザー作 ときありえ 訳 講談社の翻訳絵本)を紹介します。

絵本紹介士のkokoroです。 “絵本紹介士”とはその字の通り、絵本を紹介する活動をしています。
幼い頃から読書が好きで、大学は児童文学科で学びました。またここに至るまで、挫折を経て心のことに関心を寄せ続けてきました。
ある時から絵本の楽しさに改めて気づき、多くの絵本を読んできました。
絵本は子どもが読むもの、と思われがちですが、大人の心にこそ響きます。
楽しくなり、癒され、深く心が動き、考えさせられる。
そんな風に心惹きつけられた絵本を1冊ずつ紹介しています。
実際にその絵本を手に取って頂き、思いを共有してもらえたら、こんな嬉しいことはありません。


1・この絵本を読むと「死ぬ」ことへの恐れが少し和らぐ。

この絵本の主人公は「死神くん」。だから、この絵本は「死後の世界」が描かれています。
「絵本」と「死」は結びつかいない気がしますが、意外と絵本の世界でも「死」をテーマに扱っているものも多いです。

誰にでも訪れる「死」。
その世界を幻想的にちょっとユーモラスに描いたお話、それがこの絵本です。

2・この絵本を取り上げた理由は「死」への長年の恐れがあった

いきなり、ちょっとネガティブな話題になりましたが・・
あなたは「死」についてどう思いますか?

怖いですよね。

怖くない、という方もおられるかもしれませんが・・

私は怖いです。小さい時から、「死んだらどうなるんだろう」と時々、寝る前に思っては怖い気持ちになっていました。今だって、その気持ちは変わりません。
これは多くの人が持つ気持ちなのではないでしょうか?

でも!この絵本を読んだら、その気持ちが少~し和らぎました。
死んだらこんな可愛い死神くんが迎えに来てくれるんだ、そしてそのあと、こんなところへ行くんだ、と想像できたからです。ただし、この作者はベルギーの方なので、ヨーロッパ圏。だから、死後の世界でも国別があるとしたら、日本に来てくれるかどうかについては疑問です。でも想像するのは自由だし、信じるのも自由だと思うことにしました。

私自身、小さい頃から本と共に生きてきて、いつも現実ではない別の世界がありました。
その時読んでいる本の世界がもう一つあるという感じです。
そして、これは今でも同じです。絵本しかり、小説しかり。常にそういう世界を傍らにおいて生きてきました。それがあるからこそ、生きてこられたともいえます。もう一つの世界があることで、気持ちが救われ、元気をもらってきました。

小学生のころ、『だれも知らない小さな国』(佐藤さとる作)シリーズを読み、本当にコロボックルがいると思い込み、いつか私の前にも現れると思い、密かに探していた時がありました。
いや、今だって、完全にいないとは思っていません。いるかもしれないと思っています。

ノートン作の『床下の小人たち』シリーズも好きで、今でも家の中で小さいスプーンがなくなったら(これがなぜかよく無くなるのです)「ああ、小人たちが持っていったんだ。何に使っているんだろう・・」と想像します。想像するだけで楽しい。

そんな風にファンタジーの世界と現実の世界がたまに(この年になるまで!)ごっちゃになることがあり、ちょっと変なのかもしれませんが、そのおかげで楽しい思いがたくさんできてきたともいえます。

・・・長くなりましたが、だから、死後の世界だって、この絵本のような世界が繰り広げられていることがあるかもしれないと信じてしまうのです。

3・絵本のストーリー

お話はタイトルにもなっている通り、「死神くん」のお話。
人が死ぬと迎えに行く死神くん。「かんじのいい ちいさな 男の子」の死神くん。
気を使って(?)やさしく連れて行ったり、寒くないかと火を焚いてあげたりしますが、誰もが泣いたりさむがったりします。

この表紙の絵を見る限り、「死神」というイメージの黒づくめで鎌を持っていて、「いかにもな」死神という感じで、怖いですよね。(文末にAmazonの紹介サイトを貼りましたので、気になる方は、そこで見てください)

でも本当は「かんじのいい ちいさな 男の子」なのです。

なんかそのギャップにまずは惹きつけられます。

そんなある日、エルスウィーズという女の子と出会います。
エルスウィーズは泣きもせず、怖がらず、死神くんが迎えにきてくれてことを喜びます。

そしてずっと身体が痛かったけど、今はもうラクになったと嬉しがっているのです。
そして、死神くんとエルスウィーズは仲良くなり、遊びます。

死神くんはとても楽しくて大笑いします。

死神くんなのに

こんなに 「生きている」って きもちになったのは はじめてでした。

『ちいさな死神くん』キティ・クローザー作 ときありえ 訳 講談社の翻訳絵本 より引用

そんな気持ちを味わうのです。

そんなある日、エルスウィーズはこの「死の王国」から旅立つことになり、死神くんは悲しくなります。その後、再びエルスウィーズと会えるのか?というお話です。

4・このお話の中で一番心に残る場面は「舟の場面」

私がこのお話の中で一番心に残ったのは、死神くんと死んだ人が舟に乗っているところ。日本では三途の川を渡ってあの世に行くと言われていますが、先程も書いた通り、この作者はベルギーの方なのでヨーロッパでも川を渡るという伝説があるのかもしれません。


こぶねが 死の王国へ むかって、ひたひたと すべっていきます。
死んだひとは だいじに あつかわれます。

『ちいさな死神くん』キティ・クローザー作 ときありえ 訳 講談社の翻訳絵本 より引用


エルスウィーズも舟に乗ります。楽しそうな表情なので、死への旅立ちの場面ながら、ちょっと旅行みたいでいいなと感じました、

死者と死神くんが舟にのって静かにすべっていくー。この場面がすごく幻想的でとても惹かれました。


5・この絵本が伝えたいメッセージとは「死」に対しての恐れへの救い

この絵本が伝えたいメッセージは「死」に対して「怖がることはないんだよ」と伝えてくれていることだと思います。死後の世界がこのような世界であったなら、むやみに怖がることもないということを教えてくれる。

この世は心配事やネガティブな気持ちになってしまうことが多いです。「死」について考えることだってそう。でもこの絵本を読めば、気持ちが落ち着き、少し明るい気持ちにだってなる。

6・何と言っても絵が魅力的

この絵本は何といっても絵がかわいい。魅力的。ちょっとたどたどしいところもありながら、真面目に描かれている雰囲気が伝わってきます。色合いも優しく、温かく、それでいてちょっとクールなところがまた魅力を増しています。ユーモアも感じさせるので見ていて飽きないです。

作者、キティー・クローザーはベルギーのブリュッセルに1970年に生まれました。耳が不自由だったそうで、幼い頃から物事の裏に隠れた意味に惹きつけられていたといいます。
そう聞いてから絵本を改めて読むとなんだか腑に落ちた気がしました。
この世界には色んな音があふれている。音楽、人の声、街のざわめき、自然が多いところへ行けば小鳥が鳴く声、木々の揺れる音、などなど・・。そういう音を楽しむのもいいですが、私は「静謐」(静かでやすらかなこと。穏やかなこと)という言葉も好きです。
その「静謐」感をこの絵本から受け取りました。この絵本から惹かれる訳もこんなところからあったのです。

ちなみに、この『かわいい死神くん』はオランダで最も美しい子どもの本に贈られる銀の絵筆賞を受賞しています。

静謐で楽しくてユーモアのある、ちょっと不思議なこの絵本をぜひ読んでみてください。



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