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大きくなるのが不安な君へ

これは、4歳の夏に突然「ぼくは小学校へは行かない」と言い出したいとうくんと、その母の記録です。

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「ぼく、小学校には行かない」ときっぱりとした口調で言い切った。いきなりなんの話?と、母である私は面食らってしまった。唐突だった。

いろんな言葉が頭をよぎるが、ひとまず「なんでそう思ったの?」と聞いてみる。

「勉強したくないから」

「そうなんだ」

この日、無理に掘り下げない方がいい気がして、ひとまず否定せずに受け入れる雰囲気にしてみた。私の内心は、驚くやら悲しいやら、台風の目に巻き込まれたかのように混乱していた。

教員の子どもなのに。と一瞬思ったけど、慌てて「親の仕事と子どもの選択は関係ないや」と打ち消した。

そして、なんで急にそんなことを言い出したのか考えてみた。


息子は、もうすぐ5歳だけど、ひらがなが一文字も読めない。自分の名前も読めない。年間数百冊の絵本を読み聞かせすること5年。発語はとっても早くて語彙も多いけど、ひらがなカタカナは一文字も読めない。(数字は読める)

幼稚園の数少ないメンバーは、たいていの子がひらがなをなんとなく読めるようだ。そのことで劣等感を抱いている様子を見せた。

迷路やパズルが好きな彼にZ会を勧めて、年少の頃から取り組んでいるけど、文字の練習ページにさしかかると、「字はいい(やらない)」と飛ばすことが多い。母はやりたいところだけやればいいと思ってはいるけど。

「学校へは行かない」と言い出したのは、

学校に行くと勉強をする=文字の勉強だろう=ぼくは苦手。やりたくない。

そんなところだろうか。

でも、それだけではない気がした。

幼稚園に向かう車の中で「ママ、この街にも慣れてきたね」と言った。耳を疑った。もうすぐ5歳の子どもが言うことなのか?と思ったものの、「そうだよね、慣れてきたね」と何食わぬ顔で返事をした。彼はときどき、私より年上かと疑うような大人びたことを言う。おちりぷりぷり〜も言うけど。

「この街にも慣れた」には、新しい幼稚園にやっと慣れてきたこと、母が働くこの生活にも慣れてきたこと、でも慣れるまでは頑張って慣れようとしていたこと、それに苦戦したこと、いろんな過程が含まれていると想像される。

5歳にして3つ目の街だ。きっと新しい出会いよりも、大変なことが多かっただろう。

そして彼には、心許せる友達ができていない。前の街には、大好きな友達が2〜3人いて、毎日遊びたい友達もたくさんいた。

今回の街は、残念なことに、同級生が少なすぎた。小さい子どもとはいえ、もう人間関係が出来上がってしまっていたのかもしれない。転園した上に控えめな彼はなかなか馴染めないようだ。

「ぼく、小学校には行かない。友達もいらない。ママが先生だから家でママと勉強する」

そうして、この結論になったみたいだ。

もしかして、と考えてみる。

もしかして、小学校という先のことへの不安ではない、のではないか。

今、幼稚園で困っています。夏休みのように、ママと一緒に遊んだり勉強したりしたいです。

そういう意味かな?とも思えた。

ここからが母の出番だ、さてどうしましょうか。

ひとまず、もうこれ以上引っ越しをしなくていい方法を考えた。結果、家を建てることにした。いとう家最後の引っ越しまで、あと1年半と決まった。

それまでを、どう楽しく過ごすか。友達に対する不信感、不安感。

どうにか幼稚園以外のコミュニティーに属したいなと考えている。いろんな課外活動に顔を出そうとしている。が、気軽に出かけられない状況。ぐぬぬ。

世界は広い。世の中は、ほとんどいい人だし、その中に気の合う人がいるはずだ。それに気がついてほしい。

ちなみに私が「友達問題」から解放されて息がしやすくなったのは、大人になってからだ。何を隠そう、私も「友達」に苦戦した。だから、半ば通過儀礼だとも思っている。

私が息子にできること。話を聞くこと、一緒に遊ぶこと、抱っこと言えば抱っこすること、チャレンジするのを見守ること。きっとそのくらいだろう。あとは、彼自身が乗り越えると思う。

大きくなるのが不安な君へ
大丈夫、ここから見てるよ、やってごらん。
きっとうまくいくよ!

(おしまい)



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いとう(絵本案内人)
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