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【メルマガ絵本沼】vol.28 『だむのおじさんたち』(加古里子)の意外な思い出

絵本を読み、愉しみ、考えて、ハマる、【メルマガ絵本沼】。

今年ももう半分終わりました(^^;)
今回のテーマは『だむのおじさんたち』(加古里子/1959/こどものとも第34号)という絵本です。
本作は加古先生の絵本デビュー作で、その後、2007年に復刊する際、私は加古先生からとても印象深いお話を聴かせていただいたのでした。

ひとときお付き合い願えれば幸いです。


【お知らせ】
■第二期絵本沼読書会#6『かたあしだちょうのエルフ』(ポプラ社)を開催します。
同じお題絵本、同じ内容の2回開催で(メンバー入れ替わり)、日程と募集人数は下記となります。7/6(土)よりお申込み開始。参加者はすぐに満席になるのでお早目にどうぞー。

・7/13(土)参加者1名/見学者3名(参加者5名は受付済)
・7/20(土)参加者5名/見学者3名(参加者1名は受付済)

※「参加者」と「見学者」の違いについて
「参加者」は事前にお題絵本を読み込んで、感想と次に読むおすすめ絵本を発表します。「見学者」は発表ナシで見学のみとなります。


【メルマガ絵本沼】vol.28
『だむのおじさんたち』(加古里子)の意外な思い出

■有名ないきさつ
加古先生の絵本作家デビューのいきさつは、わりと有名な話のように思う。ご本人がさまざまなところで触れられているし、私が最初に知ったのもたしか、堀内さん(堀内事務所)という1997年刊行の私家本の中でだったと記憶している。

『堀内さん』の中で加古先生は、「幸運と不幸」というタイトルで下記のように書かれている。

昭和28年のある日、可憐な(!)おかっぱ女子学生がセツルメントの応援に現れ、それが路子さんだった。その姿がやがて見えなくなったと気づいたころ、「今度絵本をかいてもらうことになりましたので福音館書店へ来てください」という葉書がとびこんできた。

『堀内さん』

セツルメントとは経済的、社会的弱者への支援活動のことで、加古先生は敗戦後の20代の時間を、川崎のセツルメントでのボランティア活動にあてられていた。

そこにふいに現れた「路子さん」とは、姉は翻訳家の内田莉莎子、祖父は作家の内田魯庵(1868-1929)、そして夫はエディトリアルデザインの巨人・堀内誠一(1932-1987)の内田路子さんのことで、後年、内田さんは加古先生との出会いについて以下のように触れている(『別冊太陽 かこさとし』(2017/平凡社)より部分引用)。

かこさとしさんの絵をはじめて見たのは、父・内田巌(洋画家、1900-1953)がくれた葉書でした。「ほら、この絵、面白いでしょう」と言われて、私も面白いなと思いました。それで、父からもらった葉書をずっと大事に持ってたんです。その後、知人から松居直さんを紹介されて、福音館書店でアルバイトすることになりました。たしかその頃だったと思いますけど、セツルメントの子ども会に、何度か行ってたんです。そこに、かこさんがいらして。

『別冊太陽 かこさとし』

上記の「その頃」が昭和28年、1953年ごろとすると、その3年後に「こどものとも」が創刊し、編集長として絵本の新人作家を探していた松居直(1926-2022)に、内田さんは父からもらったあの葉書を見せた。
それを見た松居先生はこのように感じたとのこと。

まだ内田さんだった頃の路子さんが、私に一枚の絵はがきを見せてくださった。上手ではないのだけれど、見ているうちに子どもはこの絵を好きだろうと思えてきた。それが加古さんの絵でした。

『松居直と『こどものとも』』松居直/2013/ミネルヴァ書房

こうして松居先生は加古先生に会うことを決め、そのための内田さんから加古先生への連絡が、冒頭の『堀内さん』の引用箇所となる。

そしてセツルメントで出会ってから6年後の1959年、加古先生は絵本デビューを果たすことになった。

ちなみに件の葉書は、加古先生による「第6回日本アンデパンダン展(1953/2/22~3/5)」の案内葉書だった。
ふりかえると、一枚の葉書ってのは時にすごい力を持つのだなあと、素朴に思ってしまう。

■『だむのおじさんたち』という絵本
で、松居先生が加古先生に依頼したテーマは「ダム」。
このことについて松居先生は「意識の底にあったのは、戦後復興の歴史だと思います。1959年頃というのは日本の経済成長が始まった頃で、そのシンボルがダム建設でした」と語っている。

松居先生は加えて、「メインはダム建設ではなく、そこで働いている人たちの様子を子どもたちに伝えてほしいと、加古さんにお願いしました」とも語る(引用同上)。

(左が復刊ドットコム版、右が福音館書店版)

さて。
時は一気に流れ、初出から47年後の2007年、この絵本は復刊ドットコムとい
う出版社から復刊することになる。
その時に担当したのが私・吉田で、この時、加古先生にはじめてお会いすることにめっちゃ緊張したのをよく覚えている。

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