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戦争児童文学〜わが家の本棚から

越水利江子 作・牧野千穂 絵『ガラスの梨ーちいやんの戦争』(ポプラ社、2018年)

小学3年生の少女が体験した本土の戦争。著者の母上の実体験にもとづく大阪大空襲の描写が壮絶で言葉を失う。多感な子ども時代を戦争に振り回され続けた子どもたちの姿がリアルに再現されている。巻末の参考書籍・戦時資料リストも圧巻。

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決して、あの暗黒の世界(人が人を疑い、おとしいれ、憎み、殺し合う世界)をくりかえさないために、わたしたちは決してだまらず、人の命を軽んじる政治や人びとに向かっては、勇気をもって発言し、愛する者を守りぬいて、強く生きていかねばなりません。・・・新聞やラジオでは、日本はどんどん戦争に勝っているとしかいわなかったあの戦争。・・・暴走する国家や政治を恐れて、人びとが沈黙すれば、この恐怖は、ふたたび、わたしたちに襲いかかってくるでしょう。(著者あとがきより引用)

坂井ひろ子 文・タカタケンジ 絵『そのとき、ぼくは戦場にいたー勇たちの沖縄戦』(偕成社、1995年) 

日本で唯一の地上戦があった沖縄。小学5年の勇の一家が体験したその様子は恐怖そのものだ。一番印象的だったのは、命からがら逃げてガマ(鍾乳洞のため避難しながら中で水を飲める自然洞窟)に身を潜めていた一家が、あっさりガマの外に日本軍によって追い出されてしまう件。軍隊とは国民を守るために存在するのではなかったのか。

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今なお米軍基地の負担を強いられている沖縄。その美しい海を前に何が起こったのか、私たちは知る責任があると思う。

松谷みよ子著・司修 絵『あの世からの火』(偕成社、1993年) 

戦後、3人の幼な子を抱えて朝鮮半島から日本に引き揚げる際、火の玉に導かれ救われた実話にもとづくお話。以前初めて読んだ時は怖いと思ったのだが、今回読み直してみて、全く違和感なく受け止めることができた。おそらく妖怪ブームやパラレルワールドに慣れている今どきの子ども読者なら、すんなり読めるものなのかもしれない。

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日米開戦に始まった太平洋戦争は、空爆や原爆を受けた本州のみならず、地上戦のあった沖縄、朝鮮半島や中国、台湾、太平洋の島々までも巻き込んでの大掛かりなものだった。戦後、海外からの引き揚げを余儀なくされた日本人の数は当時の人口の約1割であるおよそ624万人といわれ、そのうち半数は(軍人ではなく)民間人だった。日本の学校教育で詳細を教わることのないこの史実を、せめて書籍から学び記憶していくことは今後も必要だと思う。