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ひとりよがりの『三匹の子ブタ』考

本のご紹介にあたっては、できるだけあらすじを書かないことにしている。でも今回は例外。日本では簡略版が有名すぎて、後半のストーリーがあまり知られていないように思うからだ。

三匹の子ブタがそれぞれワラの家、木の家、レンガの家を建てたものの、ワラの家と木の家はオオカミに吹き倒されてしまい、頑丈なレンガの家で復讐を果たすという筋書きはご存じの通り。

欧米で普及しているジョセフ・ジェイコブズの再話では、オオカミがレンガの家を吹き飛ばすのを諦めてから、煙突を通じての不法侵入に至るまでの間に、穏便な作戦に変更を試みている。カブやりんごの収穫に誘ったり、一緒に移動遊園地に行こうともちかけるのだ。

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(福音館書店から出ている瀬田貞二訳はジェイコブズ版に基づいている)

ブタはオオカミの誘いを快諾するものの、約束の時間より早く行って、先に収穫したり遊んだりして満喫する。しかも、あとからやって来たオオカミへの仕打ちが随分ひどいので、ついにオオカミが腹を立てて煙突によじ登るのも無理はないと思える。オオカミは挙げ句の果てに暖炉でオオカミ鍋にされてしまうのだから、「三匹の子ブタ」vs.「一匹オオカミ」は不公平な残酷物語にさえ見えてくる。

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その点、ジェームズ・マーシャルはジェイコブズ版に忠実である一方で、物語を劇中劇として提示することで、残酷性を緩和している。(Copyright 1989 by James Marshall / Published by Grosset & Dunlap in 2000)

もっとも、生存競争下での「親からの自立」をテーマにしているお話だから、ブタの最終的なたくましさは当然の帰結であろう。ただ、『三匹の子ブタ』のお話には、別バージョンが出てきてもおかしくない素地があるのだ。

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こちらはオオカミの視点から『三匹の子ブタ』事件を再解釈した絵本。作者名はオオカミ。おばあちゃんの誕生ケーキを作ろうとしたら砂糖がないことに気づき、近所のブタに分けてもらおうと出かけたオオカミ。ひどい鼻風邪をひいていたため、たまたまクシャミをしてしまったというのだ。

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(↑著者直筆サイン/Harvard SquareにあったWORDSWORTH書店で購入)

 原作は1989年に出版され、日本語版は1991年に『三びきのコブタのほんとうの話―A.ウルフ談』として岩波書店から出されている。

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この原作は1993年に出され、翌年に冨山房より日本語版が出版されている。ストーリー展開は昔うちの息子たちが爆笑して見ていたアニメ「ぜんまいざむらい」に似ているのだけれど(笑)読む度に私はこのかわいいオオカミと獰猛なブタを描かざるをえなかった背景を思い起こしている。