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えほん原論〜第1回 桃太郎にみる桃の剥き方の一考察〜

カラス田:
日本昔ばなしの金字塔といえば、ご存知「桃太郎」。

たなネコ:
そらそうだニャ。
日本人なら誰でもあらすじを話せるニャ。

カラス田:
しかし、変な話なんだ「桃太郎」ってのは。

たなネコ:
そんな変なとこなないニャ。

カラス田:
いや変だね。

たなネコ:
具体的にどこが変ニャんだ?

カラス田:
あそこのばあさん、桃割っただろ?

たなネコ:
どこが変なんだニャ?

カラス田:
桃は剥くんだよ。

たなネコ:
剥く?

カラス田:
わかるだろ。
桃食べる時想像してみろよ。
割るんじゃなくて、薄皮を剥くだろ?
ばあさんだって、はなから桃の中に赤ん坊がいるとは思ってないんだから。
「桃太郎」の登場を派手にしたいがために、ばあさん割っちゃってんのよ。

たなネコ:
演出の意図を感じ過ぎて、物語に入り込めないんだニャ?

カラス田:
そうそう。
桃の食べ方なんて誰でも知ってるし、昔ばなしは子供向けなんだから演出重視でディテール無視ってのは作家のエゴだね。

たなネコ:
桃の食べ方、もっと言えば、桃の剥き方にリアリティを持たせるべきってことニャ?

カラス田:
なかなか物分かりがいいよ。
おれが「桃太郎」を書くならこうするね。

「ドンブラコ、ドンブラコ。大きな桃が川を流れてきます。おばあさんは、おじいさんとその桃を一緒に食べるため、持って帰りました。
おじいさんは大変驚きました。2人は早速桃を食べようと、剥き始めます。
スルッ、スルッ。
パクパク、ベチャベチャ。
2人はどんどん食べ進めますが、気付きます。
老体にこの量の桃は許容量を超えています。大きな桃に虫食いのような小さな穴二つ。
次の日残りを食べようとも考えましたが、果物は足が早い。おじいさんとおばあさんは桃を捨てることにしました。
しかし、もう夕暮れ。今から裏山に捨てるのは面倒です。翌日捨てようと、桃を軒先へと移し、2人は床に着きます。
深夜、静かな軒先で微かに聞こえる不穏な音。
クチャッ。
ズッズッズッ。
ボトン。
桃の果肉を纏いし赤子。
桃太郎はこうして生まれたのでした。」

たなネコ:
「軒先から聞こえる微かな音で目を覚ましたおばあさん。内側から桃を突き破り、生れ落ちる桃太郎のその様を見て、、、」

カラス田:
「ぎゃあああああああ!!!」

たなネコ:
ギャアじゃないのニャ。
なんなんだ、このはニャし(話)は。
ホラーじゃニャいか。

カラス田:
最後ホラーテイストにしたのはお前だよ。
まあ、リアリティを突き詰めるとその作品の本質を見失うんだな。
リアリティを突き詰めたい、それも作家のエゴってことだ。

たなネコ:
結局、お前もそうニャンのかい。
エゴなき作品なんてニャいんだな。

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