第38回絵本まるごと研究
2023(令和5)年9月30日(日)絵本専門士による「絵本まるごと研究会第38回」では、「文字なし絵本」の魅力を語る! ~おすすめの「文字なし絵本」を読もう~」をテーマに、第5期絵本専門士の德永加代と村田純子が担当させていただきました。
德永加代
大阪府在住。現在、大学の教育学部で認定絵本士養成講座を担当しています。学生と一緒に図書館などでおはなし会を行っています。
村田純子
京都府在住。元小学校教諭。現在は中学校でことばの力育成支援員として学校図書館で司書の仕事をしています。放課後の子ども会活動や書店等色々な場所で絵本の読み合い・読み語りを行っています。
1.「文字なし絵本」の定義
イラストレーションのみで構成された絵本。絵本は一般的に,テキスト(ことば,文)とイラストレーション(絵)による総合芸術と呼ばれるが,視覚言語としてのイラストレーションのみで事物や物語を表現する絵本ならではの試みが文字なし絵本である。文字なし絵本には,形と色彩のみでストーリーが展開する絵本,絵の細部に描きこまれた物語を発見して楽しむ絵本,ナンセンスなイメージの展開を楽しむ絵本,自然の変化を視覚的に表現した写真絵本などがある。 『絵本の事典』(2011:334)
2.「文字なし絵本」の分類
『ベーシック 絵本入門』 (2013)では,「文字なし絵本」について,大きく3つに分類している。
(1)時間の流れと変化を描く
(2)絵本に「もの」や「こと」を確認して楽しむ
(3)他のメディアの手法や特殊な形態を採用したもの
代表的な絵本について『ベーシック 絵本入門』 (2013)を参照してまとめた。
(1)時間の流れと変化を描く
①形の変容とイメージの連鎖
『あかうふうせん』イエラ・マリ(ほるぷ出版 1976)
『ぞうのボタン』上野紀子(冨山書房 1975)
②ときの推移に伴う変容を描く
『木のうた』イエラ・マリ(ほるぷ出版 1977)
『はるにれ』姉崎一馬(福音館書店 1981)
『なつのかわ』(姉崎 一馬著 福音館書店 1988)
『ことり』新宮晋(文化出版局 2007)
③主人公を追って展開していく
『かさ』太田大八(文研出版1975)
『旅の絵本』シリーズ安野光雅(福音館書店 1977)
『アンジュール』ガブリエル・バンサン(BL出版 1986)
(2)絵本に「もの」や「こと」を確認して楽しむ
①幼い年齢の子どもに向く
『どうぶつのおやこ』薮内正幸(福音館書店 1966)
『じどうしゃ』寺島龍一(福音館書店 1966)
②「こと」を確認する
『やこうれっしゃ』西村繁雄(福音館書店 1983)
(3)他のメディアの手法や特殊な形態を採用したもの
①コマ割を使う
『ゆきだるま』レイモンド・ブリッグズ(評論社1978)
『ちいさな天使と兵隊さん』ピーター・コリントン(すえもりブックス
1990)
『天使のクリスマス』ピーター・コリントン(ほるぷ出版 1990)
②映像のカメラワークを使う
『ズーム』イシュトバン・バンニャイ(復刻ドットコム 2005)
『漂流物』デイヴィッド・ウィーズナー(BL出版 2007)
③カード式
『はじめてのかたちFIRST LOOK』駒形克己(偕成社 1990)
④絵巻えほん
『絵巻えほん 川』 前川かずお( こぐま社 1981)
『絵巻じたて ひろがるえほん かわ』加古里子(福音館書店 2016)
『改訂版 絵巻えほん 11ぴきのねこマラソン大会』馬場のぼる
(こぐま社 1992)
3.「文字なし絵本」を活用した物語づくり
“自分の物語をつくろう”
読んだ絵本:『かさ』(太田大八 作・絵 文研出版 2005年)
対象:小学1年生 3名
方法:①自分だけの物語をつくることを知らせる。
②絵本を読み合う。
③物語の設定を決める。
設定 時・場所・登場人物
④どんな物語にしたいかを一文要約で考える。
( )が[ ]によって ( )話。
⑤文章化するにあたり絶対に入れるページ(絵)を決める。
⑥絵を見ながら(読みながら)物語を書いていく。
⑦書きあがった物語を紹介し合う。
【具体内容】
(1)対象者と作品づくりの留意点
この子どもたちとは、毎週の放課後子ども会活動で、これまでに多くの絵本を読み合ってきました。読み手が読んで聞かせるというより、1冊の絵本を通して、気づきを話し合ったり感想を言い合ったり自分と登場人物を比べて考えたりすることもあります。また、時には、絵本から発展させて ものづくりに取り組んだり他の絵本へと読み広げたりもしています。
とはいうものの、小学校入門期の子どもたちには、思いを書き言葉に置き換えるのは難しい面があります。
そこで、今回は、以下の点について留意しました。
・はじめに どのように物語づくりをすすめるのかについて知らせ、
作品のゴールをイメージできるようにすること。
・文字にする前に、絵本を読み合い気づいたことや思ったことを
たくさん出し合うこと。
・すべての見開き場面に必ずしも文章をつけなくてもよいこと。
しかし、全員が必ず文章をつける見開き場面をみんなで決めて、
その場面については、全員が必ず文章を書くこと。
(2)作品について
文字のない絵本を見ながら、気づいたことを出し合いました。
その中で以下のことを全員で確認することができました。
・朝は降っていなかった雨が降ってきたこと
・女の子がお父さんに傘を届けること(駅まで迎えに行くこと)
・女の子が途中でドーナツ屋さんをのぞいたこと
・お父さんに傘を手渡したこと
・帰りにお父さんにドーナツを買ってもらったこと
・お父さんとふたりで一緒に帰っていったこと
実際の作品から一部を紹介します。
Aさん:語り手以外のところは「 」をつけ会話文として書いている。
例【見開き6ページ目 女の子がドーナツ屋さんをのぞいている場面】
「『おいしそう。たべてみたいなぁ。』とおんなのこが いいまし
た。」
Bさん:読み手の気持ちに合わせて「女の子はどこにいくのでしょう
か」という文章をところどころに入れながら書いている。
例【見開き3ページ目 男の子と手をふりながら別れている場面】
「しりあいだったみたい。おとこのこと おかあさんは とおりすぎま
した。さて、おんなのこは どこにいくのでしょう。」
Cさん:語り手と女の子の気持ちを分けて書いている。
例【見開き9ページ目 女の子が横断歩道に差し掛かった場面】
「おうだんほどうを わたろうとしています。
おうだんほどうをわたるときは きをつけて わたろう。」
3人の子どもたちの共通点は、
・三人称「女の子は」と書いている。
・絵からどのような状況にあるかをふまえて書いている。
・はじめから「お父さんを迎えにいくのです」ということを書かず、
読み手が女の子についていくのと同じように文章を書き進めている。
「どこへいくのでしょう。」「えきはもうすぐだ。がんばるぞ。」
「そうだ。おとうさんのかさをもっていってあげていたんだ。」
などが挙げられます。
このうち特に3点目は、子どもたちが物語を読み進めながら感じたことを、そのまま言葉に表現しているといえるのではないでしょうか。
【”自分の物語をつくろう”の取り組みから】
良かったこと
・自分だけの想像の世界を自由に広げることができた。
・絵を見て女の子の気持ちを考える等して、楽しみ柄文章を書くことがで
きた。これは、書くことを好きになるきっかけになったようで、この作
品の後にも、文字のない絵本からお話をつくる取り組みを続けることに
つながっている。
・登場人物とその周りだけではなく、細かいところも含めて絵を丁寧に見
る力がつく。
今後の課題
・たくさんの文字のない絵本の中から何を選ぶのかということが大切。
ジャンルや子どもの発達段階等を考えての選書が必要である。
・物語づくりの次に何を設定していくのか、どのように広げていくのかを
考えた上で取り組みを継続することが大切である。
4.「文字なし絵本」の魅力とは
☆読み人が自分の感性で感じるままにストーリーを作ることができる
☆絵が物語っていることを読み取る力がつく
☆今まで獲得してきた言葉を探して表現する力がつく
5.おわりに
みなさまからも「文字なし絵本」を紹介していただきました。
それぞれのエピソードを聞かせていただき、「文字なし絵本」の無限大の可能性を感じることができました。
ありがとうございました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?