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第22回絵本まるごと研究会

2021年9月18日(土)、第22回絵本まるごと研究会を開催しました。
今回取り上げたのは「大型絵本」。その幅広い活用方法、子どもたちの反応、そして歩んできた歴史まで、さまざまな話題で盛り上がりました。

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『アリス館のよみきかせ大型絵本 でんしゃにのって』(アリス館 2006年)
作:とよたかずひこ

公民館で就園前の小さなお子さんとお母さん対象のおはなし会をしています。会場は和室で、大型絵本を読むときは30センチくらいの台の上に絵本を置いて左右から二人のスタッフが絵本を支える形で読んでいます。その日の大型絵本『でんしゃにのって』を読み始めると、2歳の子らがすぐに興味を示してすぐ前までやってきて「ガタゴトーガタゴトー」のことばに合わせて身体をゆすり始めました。
 そのうち、ひとりの女の子が絵本の前のわずかな台の端にお尻をのせ、絵本に背を向ける形で座りました。お母さんが慌てて「こら!他のお友だちが見えないからどきなさい!」と言いましたが知らん顔。でも、どいてくれないとページがめくれないので「次、見ようか」と声をかけるとすんなり立ち上がり、次のページをじっと見ました。で、また座りました。それを見て、もうひとり別の子も座りました。もう完全に画面は見えません。「こら!」の声が増えました。ページをめくるたびに同じことが繰り返されました。
 そのときハッと気付きました。子どもたちは絵を隠しているのではなく、自分たちも電車に乗って座席に座っているのだと。だって、座っている子どもたちは楽しそうに身体をゆすっているのです。画面が大きいがゆえに「まるごと飛び込んだかのように絵本の世界に入り込んでいった子どもたち」を、はっきりとした形で見ることができたのです。
 この絵本は通常のサイズでも子どもたちに人気のある絵本ですが、これは大型絵本だったからこそ起きた、とても印象深い出来事でした。(子育て支援室スタッフ 石坂さん)

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『大きな絵本 にゃーご』(鈴木出版 2003)
作・絵:宮西達也

 『にゃーご』の大型絵本を初めて手にしたのは、今から6年前、前任校に着任してすぐのことでした。何度も読んでいる本なのに、その迫力に圧倒され、仕事を忘れてページをめくりました。
 ネコに注意!の授業をエスケープした3匹の子ネズミが、ネコのにゃーごと出会い、4匹が心を通わせるお話です。
 大型絵本ならではの魅力を伝えるために、この絵本は大切な時に読みたいと思いました。そして、小学校を卒業した後、こんなに大きな絵本に触れる機会を持つことの少なくなる6年生に読もうと決めました。6年生は、小学校の最終学年として2月まではものすごく忙しい日々を過ごします。卒業を控え、5年生にバトンを渡す準備が整い始める3月になると、少し余裕もでき、学校図書館では図書の時間(図書館を活用する時間)の1時間をたっぷり使ってお話会を行います。その時に、私はこの『にゃーご』をどんと子どもたちの前に出します。すると、「わあーっ!」という声と共に、どの子も体がぐっと前に乗り出し、『にゃーご』の世界に入っていきます。その時の子どもたちのきらきらした瞳をみなさんにお見せしたいほどです。
毎年、お話会の後は、6年生の間で、「にゃーご」「にゃーご」「にゃーご」という言葉が飛び交います。「『にゃーご』読んでよ。」とリクエストも続き、休み時間はミニお話会が卒業式まで続きます。私にとっても幸せなひと時です。やっぱり絵本っていいな、年齢は関係なく一つになれるなと感じさせてくれる、とっておきの1冊です。(学校司書 増田さん)

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『【大型絵本】だるまさんが』(ブロンズ新社 2010)
作:かがくいひろし

①小学校国語授業の導入部で読み聞かせた。そこでは、予想外のだるまさんの動きやオノマトペを楽しんだ。
②「だるまさんが」が文の主語に当たることを確認し、自分で「だるまさんが」に続く述語を考えて短文づくりを行った。

子どもたちの様子
大型本を使用することで、小学生も体をゆすりながらオノマトペの響きやだるまさんの表情を楽しむことができた。また、述語を考える時には、「笑う」「喜ぶ」「歌う」といった動詞だけではなく、「だるまさんが、力いっぱい走る。」のように修飾語を入れながら、一文をふくらませていった。絵本の読み聞かせから文作り、作った文を友だちと共有していくといった楽しい時間を過ごすことができた。(小学校教員 村田さん)

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『しっぽのはたらき』(福音館書店 2011年)
作:川田 健 絵:薮内 正幸

読み聞かせ会で物語絵本を読んだ後、ジャンルの違う科学絵本に行く時には、読み聞かせ会の世界観を壊さないように、学者の発表会のような出で立ちと、指し棒を持って、登場するようにしています。
声優という職業柄、お芝居仕立てでプログラムを作っています。

指し棒を使うとより、学者ぽくなって、子どもが食いついてくれます(笑)

子ども達にどこを見てほしいか。
・一緒に見ていく
・一緒に楽しんでいく
・一緒に発見していく
というのを大事にしています。

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一人で読むときに欠かせないアイテム。ビックブックスタンド(すずき出版)
大型絵本を読むときは支えが必要になりますが、これがあればめくりやすく、めくる事が負担にならず、読むことに集中できるので、大型絵本を読むときの必須アイテムです。(声優 冨田さん)

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『ビックブック 100かいだてのいえ』(偕成社 2009)
作:いわいとしお

所属するお話し会サークルが、公民館で開催される子ども向けイベントにしており、和室を借りて大型絵本や紙芝居などを自由に読める時間を設けています。園の先生や読書支援ボランティアが読む姿を思い出しながら、大きな絵本でお話し会ごっこをする子どもたちの姿は、格別です。何より人気の作品が『100かいだてのいえ』で、読み終えた後、絵本と並んで背比べをするように記念写真を撮る親子も少なくありません。
大きな絵本を親子で囲んで保護者が読み聞かせる風景もまた、微笑ましいものです。自治体によっては、公共図書館で大型絵本を貸し出してくれるので、たまにはご家庭で大型絵本を楽しんでみるのもお薦めです。(財団職員 矢阪)

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『大型絵本 ぞうくんのさんぽ』(福音館書店 1999)
作・絵:なかのひろたか

きょうはいいてんき、ぞうくんはごきげん。散歩に出掛けたぞうくんは、途中で出会ったかばくんを背中にのせて~大型絵本ならではの迫力で、絵が目の前に広がります。保育者になる日を夢見る学生や、おはなし会を開こうと計画している方々に、良書といわれる絵本の条件を伝える際に、この絵本を紹介します。⓵絵がはっきりしていて絵のみでストーリーが分かる②文は対象年齢のこどもに分かりやすい③起承転結がある④素朴な感動や心の躍動感が味わえる 、という条件を見事に満たす素晴らしい絵本です。(保育者養成校 教員 相沢和恵)

大型絵本について

私が初めて大型絵本を作ったのは、2002~2003年のことでした。当時、読み聞かせ用の大型絵本が出始めたころで、『はらぺこあおむし』(偕成社)、『かわいそうなぞう』(金の星社)など、まだ数少ない大型絵本を参考にして、制作を進めました。
最初に作ったのが、業務提携をしている金の星社から刊行された『ちいさなくれよん』でした。その翌年、『にゃーご』と『たまごにいちゃん』を弊社から出しました。当時はまだ絵本がデータ化されていなかったので、大型にするには結構手間暇がかかりましが、この頃から読み聞かせ用の大型絵本が続々と刊行されるようになりました。
その背景のひとつに、2001年の子ども読書年をきっかけに集団での読み聞かせ活動が盛り上がったことが挙げられます。そのころから、絵本を大型絵本にする許可申請が増えてきました。大型にするために絵を模写するというので、もちろん許可することはできません。そこで、版元が大型にしてだせば需要があるのではないかということで、刊行が始まりました側面もあります。ただ、書店で常備することができず、販売先がネックとなっていましたが、直販の幼稚園や保育園、図書館でのニーズが徐々に高まってきました。
当初、普通版として描いた絵を拡大するとは何事だ、著作権者を愚弄しているなどという批判もありましたが、基本的には、普通版を文字も含め、そのままの比率で拡大するということで、トリミング等には影響を及ぼさない形で作っています。また、集団の読み聞かせに使うということで、弊社では光の反射を抑える工夫を施しています。
個人で楽しむ絵本を大勢で楽しむ形にするということで、絵本の楽しみ方の選択肢が増えたといえるかもしれません。(出版社 波賀さん)

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『ビックブックはらぺこあおむし』(偕成社1994)
作:エリック・カール 訳:もりひさし

 『はらぺこあおむし』の25周年を記念して出版されました。食いしんぼうのあおむしは、最後は美しい蝶になります。大迫力でカラフルな色使いが一層美しく感じられます。斬新なしかけに引き込まれ、数や曜日の認識が深まります。あおむしのぬいぐるみも使って穴をくぐらせながら読み聞かせると一層盛り上がります。大迫力の蝶のページは圧巻です。(大学教員 德永さん)

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『うたって あそぼう! 大きな絵本 おべんとうばこの うた』
(チャイルド本社 2009)
構成・絵:さいとうしのぶ

参加型で場を盛り上げるのにおススメの大型絵本。まずは、1ページずつ絵をじっくり見て、指差しして問いかけしながら、コミュニケーションを楽しんで読みます。次は歌いながら、その次はゆっくりと手遊びをしながら、その次はみんなの歌うリズムに合わせてページをめくります。さらに楽しみたいときは、小さい絵本も使い、大きいお弁当箱と小さいお弁当箱とバリエーションをつけて楽しみます。一冊で何度も楽しめます。読み聞かせに苦手意識を持っている保護者でも手に取って読みたくなるような絵本です。(図書館勤務 舘向さん)

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『きょだいなきょだいな』(福音館書店 2001)
文:長谷川摂子 絵:降矢奈々

「あったとさ、あったとさ、ひろーいのっぱらどまんなか…」この言葉が繰り返されてこのお話は進んでいきます。伸びやかかつリズミカルなフレーズ、想像がどこまでも広がるようこの言葉とともに現れ出るのは、きょだいな電話、きょだいなトイレットペーパー等、子どもの生活にとって身近な物。そして、次のページには嬉々としてきょだいな物で遊ぶ子ども達が登場します。「遊んでみたいな、こんな世界で…」文の伸びやかさをそのまま絵に描いたイラストとのコラボレーションに子どもならずとも大人も楽しい想像が膨らむ1冊です。
次はどんなきょだいな物が出てくるのかな?みんなだったら何して遊ぶ?と対話しながら読んでいくと子ども達から楽しい発言が飛び出してきそうです。
大型絵本版は、きょだいな物がさらにきょだいになる迫力が魅力なのか、読み聞かせで人気の反応が多い1冊です。(保育士養成教員 野見山さん)

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『(大型絵本)ねずみくんのチョッキ』(ポプラ社 2004)
作:なかえ よしを 絵:上野 紀子

「普通版と大型絵本のちがいについて」
〇普通版「ちょっときせてよ」大型絵本「ちょっときさせてよ」(2013年)「ちょっときせてよ」(2004年第1刷、2009年第4刷)
関西では、試しに着させてもらうことを「きせてよ」と表現するらしい。作者のなかえよしを氏は、神戸出身であるので、そう書いたと考えられる。しかし、他の地方では、「きせてよ」は品詞分解すると、「着せる+てよ」となるため、他人に着せてもらう印象が強くなる。したがって、「きさせてよ」に直したのではないかと考えられました。皆さんの地方ではいかがですかと尋ねてみたい。
〇普通版の「すこしきついがにあうかな」画面には、一人でチョッキを着る動物のみ描かれているが、大型絵本は、画面の左にチョッキを着る動物、左からは、次の動物がのぞいている。その経緯を、ポプラ社さんにぜひ聞いてみたいところです。(大学専門研究員・嘱託講師 森さん)

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絵本専門士による絵本まるごと研究会は、絵本・応援プロジェクトに参加しています。


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