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第35回絵本まるごと研究会

今回のスピーカーは2名。
石坂律子(兵庫県在住。図書館勤務を経て現在は子育て支援室スタッフ。公民あらゆる場所での絵本読みは25年以上。そのほとんどが未就園児と保護者対象)
中河原優子(茨城県在住。司会業・子育て支援業に従事。図書館でのお話しボランティアの他、公民館等で親子向け絵本ワークショップなどを多数開催。)
二人とも長きにわたりあかちゃんやあかちゃんを連れた保護者と関わりながら絵本を読んできました。今回はリアルな現場で読み合う中での声や事例を通して、あかちゃんと絵本について考えてみましょう。
なお、当日は多くの事例を紹介しましたが、ここでは代表的なものを書き記します。

第1章 あかちゃんは絵本を理解しているのか?

エピソード①2冊の『いないいないいばあ』

いないいないばあ(童心社)
松谷みよ子 ぶん 瀬川康男 え
いないいないばああそび(偕成社)
きむらゆういち

7か月の女児の前に2冊の『いないいないばあ』絵本を並べてみた。まずは偕成社の絵本に手を伸ばし、すぐにしかけに気付き自分でめくろうとした。触ること、めくることを楽しんでいる。「読む」というよりめくる「動作」を楽しんでいる様子。あかちゃんにとっては「めくる」ことも絵本の喜びなので、そちらについてはおおいに感じ取ることができた。
一方、童心社の絵本には手は伸ばさないが、読み始めると耳を澄ませ絵を注視している。同じ展開が続くと「ばあ」で顔が出てくること、絵の位置が変わることに気付き、視線が迷いなくついてくるようになった。自身の気づきをページごとに確認し始め、絵が思った通りになっていることが確認できると喜んで笑うようになる。瞬時に目を引く華やかさはないが、場面に余分なものがなくあかちゃんが「自身で理解する」喜びが得やすいのだと思われる。あかちゃんの目線や絵を確認する「間」から、あかちゃんが絵本の内容を理解していること、理解の喜びがあることが見て取れた。(他2事例紹介)

第2章 あかちゃん絵本はあかちゃんだけのものか?

エピソード②記憶を辿る絵本

くっついた(こぐま社)
三浦太郎

3歳女児。何冊か並べていたあかちゃん絵本の中より、真っ先に手に取る。お母さんも「この絵本、小さい頃から大好きだったよね。どの絵本を読む?と聞くと、必ず持ってきてくれました。」と笑顔で話す。話の流れで(母)「(この絵本の)どこがすきなの?」と尋ねると、ページをパラパラとめくり、一番最後のページをみせて(女児)「ここ!」と笑顔がほころぶ。
(母)「そーなんだ!どうしてこのページなの?」(女児)「みーんなくっついてるから。」と答える。
聞けば、この絵本を読むとき、同じ動作で頬を寄せ合ったことや家族でたくさんスキンシップを取っている事等を話してくれた。「娘が絵本を通して色々感じとってくれていたという事を今日聞くことができて嬉しかった。」とお母さん。
大好きな母や父の温もり、そして声が女児の中に確かに記憶の奥深くに残っている。女児が成長して言語化できるようになったことで伝えてくれた思いをその場にいた大人も共有した瞬間だった。
あかちゃんが絵本の読み合いを体全身で感じとっている事、そしてあかちゃんの頃の体験がいかに大切なものかを改めて気付かされた貴重な体験だった。(他2事例紹介)

第3章 あかちゃんは絵本を憶えているのか?

エピソード③記憶にはなくても残るもの、続いていくもの


うさこちゃんとうみ(福音館書店)
ディック・ブルーナぶん/え いしいももこ やく

1歳半女児の母。ブルーナのミッフィーが好きな女児を連れて里帰りをした際に自身の母(子どもには祖母)が「あなたも好きだったよね」と昔いっしょに読んだ『うさこちゃんとうみ』を出してきた。母親は自身がミッフィーが好きだったことも絵本を読んでもらったことも記憶になかったが、古い絵本の破れた箇所に貼られたテープや折りじわなどを見て今の娘の姿と自分が重なった。家に帰って娘を膝にのせて改めて絵本を読んでいると「なんだか読んでいるのか読んでもらっているのかわからない不思議な感覚になりました。憶えてはいないけれど、こんなにボロボロになるまで何度も読んだこと、母に大事にしてもらっていたことが、この絵本を見るだけで今の私にはよくわかります。」
1冊の絵本が三世代の親子のあたたかな時間をつないでいることが伝わってきた。(他2事例紹介)

参加の皆様から

①あかちゃんに大型絵本をどう見せているか?
(石)シチュエーションによっては効果的な使い方もできるのでは?普通のサイズの絵本の間にメリハリをつけて楽しんだりしている。
②多人数でのお話し会などで騒いでしまう子などがいるときはどうしてる?
(中)その場に残っている子がいればそのまま楽しんでもらう。一通り遊んでまた絵本の前に戻ってくる子も多いと思う。
(石)なかなか難しい。が、普段絵本を手に取る機会があまりない、というお母さんもいるので興味を持ってもらう機会としてお母さんに向けて見ててね、と声をかけたりしている。
③小学校の図書館にもあかちゃん絵本が何冊かあるが、『懐かしい!』という言葉が。
読んでもらった、とかいう感想ではないところが、あかちゃんの頃に楽しんだ記憶として残っているのでは、と感じた。
④子どもが小さい頃『もこもこもこ』がお気に入りで、いただいたものを含めて3冊持っている。
中には子どもの歯型などが付いているものもあったりするが、当時読んだ記憶と共にそのときの情景が今も思い出される。今は様々な情報媒体があるが、子育て中の方にも是非絵本を手元において楽しんで欲しいと思う。

最後に

小さなあかちゃんはどのように絵本を楽しんでいるのか?
その答えをあかちゃん自身のことばで聞くことはなかなかできませんが、このような事例はあかちゃんと絵本を読むことの喜びや意味をわかりやすく理解する道標になるのではないかと考えます。
また、あかちゃん絵本の魅力を伝える際の一助となれば幸いです。

絵本専門士による絵本まるごと研究会は、絵本・応援プロジェクトに参加しています。


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