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【韓国ミュージカル】音楽監督キム·ムンジョンのエッセイ本

こんな人におすすめ

- 韓国ミュージカルに興味がある
- 日本や海外のミュージカルに興味がある
- 音楽の仕事に就きたい、あるいは就いている

今回ご紹介するのは、韓国ミュージカル界といえばこの方、
キム·ムンジョン(김문정)音楽監督の初エッセイ本です。

👇Google Translation(구글 번역)
Can be translated into your language.(당신의 언어로 번역할 수 있습니다)
https://note-com.translate.goog/ehnr/n/n9b4ddae16323?_x_tr_sl=auto&_x_tr_tl=en&_x_tr_hl=en&_x_tr_pto=wapp&_x_tr_hist=true


本記事でご紹介する、キム·ムンジョンさんを初めて知ったのは、EMKの公式YouTubeチャンネルで2021年《ファントム》の公開稽古の映像がきっかけです。

「日本から見ると指揮者が女性って珍しいな」
「オーケストラたちが日本と比較すると若い」
表情豊かに各キャストと目くばせしながら指揮棒を振るキム·ムンジョンさんが印象的でした。

残念ながら《ファントム》は残念ながら世界がCOVID-19のため渡韓できなかったのですが、映像からでもキャストのみなさんの歌声がすっっっごくうまいことが伝わるので、ぜひ視聴ください。
(動画8:00~あたりのパク·ウンテさんの"Overture"が特にお気に入りです✨)

それ以外にも、さまざまな映像をYouTubeで見てると、ムンジョンさんをお見かけする機会があり、日本ミュージカル界ではそもそも稽古映像が公開されないので珍しくてさらに印象に残りました。

キム·ムンジョンさんが過去に手掛けた作品など詳しい経歴は、韓国版Wikiをご覧ください。


エッセイ本《燦爛たる闇》

※こちらの本は、2023年現在韓国語のみです。
※翻訳ツール「DeepL」で読みましたので、内容に誤りがある可能性があります。

私が気になったものをピックアップしました。これ以外にももっとお話があります!

- 音楽監督になるまでの音楽との関わり、学生生活
- 仕事と子育て
- 2002年《明成皇后》の海外公演
- レプリカ作品(俳優以外すべてルール通りに仕上げる必要がある作品)
- 創作ミュージカル:2010年《西便制(서편제)》
- 俳優の平均年齢60歳以上のミュージカル:《ラブ》
- 俳優たち(アイドル出身、俳優たちの自己管理方法など)
- ミュージカルプロフェッショナルオーケストラ《THE PIT》の設立
- 出会いと別れ(とあるベーシストのお話)
- COVID-19でミュージカル界が受けた影響
- 演奏家たちの労働環境と今後の改善

それでは気になったエピソードをご紹介します😊


勉強一辺倒だった高校生から大学生へ

大学の作曲の授業の課題で思ったようにうまく曲が作れず、お姉さんに悩みを打ち明けました。

「姉さん、私は今まで何をして生きてきたんだろう?
酒も飲まないし、タバコも吸わないし、恋愛もしないし!」

それに対してお姉さんが背中をさすりながら優しくこう答えました。

「ムンジョンちゃん、それは直接しなくてもいいよ。
映画やドラマをたくさん見て、本をたくさん読んで、
いろいろな人に会って話を聞けば、
いくらでも得ることができるから、
心配しないでたくさん見て、たくさん聞いて」

非常にまじめなキム·ムンジョンさんの姿が目に浮かびます。


子育てと仕事の両立のむずかしさ

20数年前、いまよりまだ女性社会進出と子育て支援が進んでいなかった時代で、5歳と1歳のお子さんを育てながら、仕事を同時に進めていくむずかしさに直面して「自分がやってることが本当に正しいのか」と友人に相談したときのこと。

「ムンジョン、あなたが5歳と1歳のときの記憶はある?」
「いいえ」

「私だってそうだよ。 子供たちも覚えていないよ。
今は辛いだろうけど、お母さんが一生懸命生きた時間が子供たちに傷として残ることはないよ。
あまり心配しないで、新しく始めたことだから、もう少し頑張ってね。
音楽監督キム・ムンジョン、ファイティング!」

この友人の言葉がとてもやさしいですね🥲

このときに取り組んでいた《ドゥリ(둘리)》で、ちょうど主人公ドゥリとその母親の別れのシーンの曲があり、作詞家と相談しながら母親の気持ちを詞に反映したそうです。


《ドリアン·グレイ》をやるにはキム監督は元気すぎる

2016年 キム·ジュンス&パク·ウンテ主演 創作ミュージカル《ドリアン·グレイ
19世紀耽美主義小説で有名なオスカー・ワイルドの長編小説《ドリアン·グレイの肖像》を新たに脚色した作品。

《ドリアン·グレイ》をやるにはキム監督は元気すぎる
と言われて当初は「なんのこと?」と思ったそうですが、いざ作曲に取り組むと理由がわかったそうです。

この作品全体に広がる退廃的な雰囲気と享楽の中で堕落していく人間を表現するには、
私の精神と心は「健康すぎる」のだ。
なかなか一人の人物が持つ自己に対する欲望と幻滅の感情を表現するのは難しかった。

そういえば、元宝塚歌劇団の某さんの在団中の作品がいつも「失恋」「死」ばかりだったのですが、当のご本人はいたって少女のにピュアでまじめなので、「どうやって精神を保ってるんだろう?」と思っていました🤔

たしかに俳優にかぎらず作品に関わるひとすべてが、このような相反する感情と戦ってるのかもしれないですね。

あと、レプリカ作品(俳優以外すべてルール通りに仕上げる必要がある作品)での厳しいチェックとの戦いだったり、
創作ミュージカル《西便制(서편제)》で作品の評価と興行収入とのバランスなど、いろいろ考えさせられました。(これって……ということだよね? 泣けました…)


俳優が舞台を怖いということ

以前、アイドルとして活動していたある俳優が公演が終わってしばらくしてキム·ムンジョンさんにこんなメッセージを送ったそうです。

「監督、私は今までカメラだけを見て歌っていました。
いつも私の歌声よりも歓声の方が大きかったんです。
私も歌いながら自分の歌をちゃんと聞いたことがなかったんです。
今回の公演で初めて自分の声を聞くことができたので、公演中ずっと感謝しています」

あとは、《エリザベート》《レベッカ》で有名なオク·ジュヒョンさんの自己管理と練習スタイルや、
映画ドラマ俳優で《オペラ座の怪人》チョ·スンウさんの歌稽古や、ミュージカル専用劇場「ブルースクエア」が施工された当時の話が印象的でした。

2023年《レベッカ》ブルースクエアにて

チョ·スンウさんといえば、2023年《オペラ座の怪人》で、後輩が体調不良のため急遽代役をしたなど、人柄のよさがネットでも聞こえてきました。


演奏家として働くということ

ミュージカルオーケストラ集団を設立した際、チーム内で3つのルールを決めたそうです。

  1. 服装は黒色(舞台を妨げない)

  2. 公演の1時間前に会場に到着していること(なにかあったときに代役が対応できる)

  3. 毎週火曜日は楽器の調律する

  4. 正確な情報の共有

  5. ピット内にスマホやの持ち込みは不可(スマホの持ち込みができないので、みんな読書をしている。)

3つ目のルールは韓国ミュージカルならではです。
韓国では毎週月曜日が休演日です。
週6日演奏し続けていて1日休んだ翌日の火曜日に、突然音を鳴らすことになるので、音の狂いを避けるため調律日を設けることにしたそうです。

とはいえ、火曜日は舞台チームも開幕前にさまざまな調節しているので、オーケストラ用に場所と時間の確保が難しかったそうですが、調律の大切さを訴えて、いまではキム·ムンジョンさんのチームだけでなく、他のオーケストラチームもやるようになったそうです。

日本ではどうなんでしょうか。


音楽監督の仕事

音楽監督の仕事として、さまざまなジャンルの音楽の造詣を深めるだけでなく、ミュージカルは総合芸術のため、音楽以外の振り付けや俳優の動線にも配慮したりするそうです。

他には、オーケストラのチームメンバーをケアも大切な仕事の1つ。
休憩時間に他の作品のオーディションのために若い演奏家に個人伴奏をお願いする俳優がなかにはいて、俳優からのお願いなのでなかなか断りづらいので、そういうときは音楽監督としてこのように伝えているそうです。

「練習するときは一生懸命やりましょう。
演奏者も休まないといけないんだから、
お互い10分休憩は守りましょう」


あと、公演の指揮をし続けること!

しかし、これだけははっきり言えます。
最も基本は"体力"だと。
毎日3時間、ブレずに全身全霊で指揮するには体力が必要です。

2023年《モーツァルト!》を観劇したとき、ムンジョンさん自らが指揮していて、てっきり監督と指揮者は別だと思っていたので驚きました。


あと、2018年《笑う男》に参加していたベーシストのかたが病気になったエピソードは、読んでいて外出先にも関わらず思わず涙が出ました😭


未来のミュージカル界のために

音楽監督や演奏家も他の分野のフリーランスと同じように、出演回数に応じた出演料が支払われるため、COVID-19のパンデミックで受けた損失は計り知れないようでした。

制作会社からの予算縮小にともなうオーケストラの編成変更。
「人数を半減してほしい」という要望に、何度も制作会社と演奏家たちに粘り強く交渉して、

「今回は特別な事情により、最初で最後の演奏費を削減をしました。
この決定が演奏家の報酬の基準が下げられることはあってはならないです」

と取り決めたそうです。

音楽でも絵でも、芸術系の仕事に従事している人が最もよく聞く言葉は、
「あなたは好きなことをして生きているんでしょう」という言葉ではないだろうか。
もちろん間違ってはいない。
しかし、好きなことで生計を立てているからといって、
労働の価値が変わるわけではありません。

韓国ミュージカル界は、主演俳優の出演料は上昇していますが、裏方スタッフの報酬は変わりなく、求められるクオリティはどんどん上がっているのが現状のようです。


労働環境といえば、日本でも宝塚歌劇団が、過重労働・過密スケジュールなど、労働環境の悪化と改善が求められています。
この事件はファンのひとりとして非常に考えさせられました。(2023年12月、現在進行ですが…)


隣国の韓国ミュージカル界はどうなのか知りたかったので、本書を手に取りました。
ぜひミュージカルに興味のあるかたは各書店でご購入ください。紙書籍/eBookの両方があります。
あるいはキム·ムンジョンさんをネットで調べてみてください!

이토록 찬란한 어둠(燦爛たる闇)
김문정(キム·ムンジョン)
2021年12月13日発行/276ページ
※2023年12月現在韓国語のみ
KYOBO:https://product.kyobobook.co.kr/detail/S000001029417
ALADIN:https://www.aladin.co.kr/m/mproduct.aspx?ItemId=284637932

舞台裏側の密着番組です。
こういう映像を流してくれるのありがたいです!

キム·ムンジョンさんのInstagram