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ため池ソーラーの現行スキームと主体ごとの評価

みなさまこんばんは。ため池のある暮らしの未来をつくる研究者,柴崎浩平(主なフィールド:兵庫県東播磨)です。

みなさま太陽光ソーラーについて,どのような印象をお持ちでしょうか。今回は,近年ため池の新たな活用方法の一つとしてみられる「ため池ソーラー」について紹介していきます。

東播磨フィールドステーションでは「ため池ソーラー」をどのように評価していけばいいのか。極端にいうと「ため池ソーラー」を「地域のためになるコンテンツ」として活用していくのか,あるいは「排除していく必要があるコンテンツ」なのか,それら両極端の視点があるなかで,中立的な視点からアプローチしています。

今回の記事では,ため池ソーラーの設置状況や現行スキームを紹介するとともに,主体ごとで異なる評価について紹介していきます。

ため池ソーラーについて

ため池ソーラーは,ため池の水面に太陽光パネルを浮かせ,発電しています。ため池の水面に浮かんでいる状態なので,ため池の水を農業用水として使用し,水位が変動しても問題ない設計になっています。下の写真は,稲美町でみられるため池ソーラーの一例です。

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ため池ソーラーの設置状況

以下の写真は,ため池ソーラーが多く設置されている地域(稲美町)の写真(google map)です。

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一言でため池ソーラーといっても,設置されているため池の規模や水面に対してパネルが占める割合は様々であることが写真からもわかります。

では一体,どれほどのため池で設置されているのでしょうか。東播磨全体では,22箇所,割合でいうと3.8%のため池で設置がみられます(下表)。

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ただし,市町村ごとに見ると,その数は大きく異なります。もっとも多いのは稲美町で20箇所,割合でいうと22.7%,ついで加古川市で2箇所,0.6%のため池で設置がみられます。反対に,明石市,高砂市,播磨町では0箇所となっています。なぜ市町村ごとで大きく異なるのか,という点については後日紹介したいと思います。

なお,東播磨で設置が見られ出したは,2015年〜のことで,これまで各年3〜4箇所のペースで増えています。

現状の事業スキームについて

続いて,ため池ソーラー事業の現行スキームについてみていきます(下図)。ため池ソーラー事業の主な主体は,ため池ソーラーの架台やパネルの設計・設置をおこなう「EPC事業者(設置事業者)」,太陽光パネルを所有し,発電をおこなう「発電事業者」,ため池の水や底地の所有・管理者である「ため池管理者」になります。ため池の管理者は,ため池の水面を貸し出しその賃料を得ている,ということになります。

なお,作られたエネルギーは,地域外(関西電力)に売られており,地域内で使用される(エネルギーの地産地消)といった仕組みは東播磨ではみられません。

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その他の関係主体としては,ため池ソーラー設置に伴う監視・調整をおこなう「行政」,ため池の近隣などに住む「近隣住民/市民」が挙げられます。

「行政」がおこなう監視・調整としては例えば,条例の制定やチェックリストの作成などがあります。兵庫県が制定した「ため池の保全等に関する条例」のなかには,ため池管理者や発電事業者が太陽光発電施設設置にあたって守るべきことが明示されています(例えば「当該施設の設置により,農業用水の安定的な供給,災害の発生の防止又はため池の有する多面的機能の発揮に支障を生じさせてはならない」ことや「所有者等は、前項の支障が生じないよう当該施設の位置、状態等を把握しなければならない」こと,「ため池の機能の保全に影響を及ぼすおそれのある行為で規則で定めるものをしようとする者は、あらかじめ、知事の許可を受けなければならない」ことなど。詳しくは以下のリンクから。)

https://web.pref.hyogo.lg.jp/nk11/af08_000000056.html

主体ごとで異なるメリット

以上にみたように,ため池ソーラー事業には,様々な主体が関係していますが,主体ごとによってその評価は大きく異なります(下表)。

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どのように異なるかというと,設置・発電事業者,ため池管理者にとってのメリットは非常に大きく,行政にとってもメリット(固定資産税など)はある。しかし,近隣住民や市民にとってのメリットはなく,評価は低いといえそうです。また,地域全体でみると,現行スキームでは,ため池ソーラーで作られた電気は,地域外へ流出しており,地域のために使うことができていないため,ポジティブな影響を与えているとは言えないかと考えます。

もう少し詳しくみていくと,設置・発電事業者にとって「ため池と太陽光パネルの親和性が高い」ことが言えます。例えば,パネルの発電効率を高めるためには温度上昇を抑制する必要があるが,ため池のがその機能を果たしていることや,山の斜面などに設置するよりも設置・管理コストが抑えられることなどが挙げあられます(斜面に設置しようとすると,まず木を伐採する必要があるとともに,斜度を考慮した設計をする必要があります。また,設置後も雑草の管理など,手間がかかります)。

ため池管理組織のメリットとしては,収入(賃料)の増加が挙げられます。具体的な額は,ため池ソーラーの設置年度や設置面積,売電単価などによって異なるため様々ですが,何百万円/年といった賃料を得ている組織もあります。反対に,近隣住民や市民にとって,ため池ソーラーから得られるメリットはなく,デメリットに対する懸念が大きいというのが現状です。

近隣住民とのコンフリクト

ため池ソーラーの設置に至っては,コンフリクト(=対立)が起きるケースもあります。以下の動画は,ため池が有する多面的機能(洪水調整機能)や維持管理費捻出の必要性を背景にパネルを設置したいと考える市やため池管理者と近隣住民の間で起きるコンフリクトが紹介されています。

*この動画では,「ため池=私有地」と紹介されていますが,実際は私有地ではないため池も存在します。「このため池は私有地」と理解するのが適切だと思います。

このようなコンフリクトが起きる背景については後日紹介していきたいと思います。今回はこのあたりで。最後まで読んでいただきありがとうございました。

文責:柴崎浩平





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