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ため池がなぜ注目されているのか

皆様こんばんは。ため池のある暮らしの未来をつくる研究者,柴崎浩平(主なフィールド:兵庫県東播磨)です。

今回は,ため池とはどういうもので,なぜ注目・問題視されているのか,という点について述べていきます。

1. ため池とは?

ため池とは,降水量が少ない地域や,河川から取水しにくい地域において,いかに水(農業用水や生活用水)を確保するかという課題を解決するために作られました。

ため池の概要(いつ作られたの?何個あるの?どこに多いの?など)は,以下の農林水産省のページにまとめられています。

2. 東播磨のため池

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資料)https://www.inamino-tameike-museum.com/pond-museum/pond-map.html より引用

ため池の数が,全国で一番多い兵庫県のなかでも,東播磨(明石市,加古川市,高砂市,播磨町,稲美町)は,比較的大きいため池が多い(東播磨のため池の数:574個)という特徴があります(淡路島は小規模なため池が多いなど,地域ごとで特徴がある)。

一言でため池といっても,大きさ・形・立地場所は様々です。こう見ると,ほんとため池だらけですね。

[A-3]黒星池1 2

[K-7]長池

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ため池の成り立ち(どのようにしてため池や水路が作られたのか)をより詳しく知りたい方は以下の資料を参照してください。

3. ため池管理が注目される背景

① ため池による被災

しかし,少子高齢化,農業の衰退を背景に,管理が行き届いていないため池も増えています。そういったため池が増えると,豪雨や地震などの自然災害がおこった際,決壊するリスクが高まります。

管理行き届いていない池

2018年7月の西日本豪雨では,多くのため池が決壊したことは記憶に新しいかと思います。

農水省の調査によると,下写真にあるように,豪雨や地震によって,ため池による被災が頻繁に起きていることがわかります。

スクリーンショット 2020-08-20 12.02.11

② ため池の多面的機能

豪雨などによる被災が問題視されている一方,ため池には多面的機能があるといわれています。

具体的な機能については後日紹介しますが,農業用水の確保だけでなく、生物の生息・生育の場所の保全、地域の憩いの場の提供,雨水を一時的にためる治水機能や土砂流出の防止などといった機能があります。その他にも,地域の言い伝えや祭りなどの文化・伝統の発祥となっているものもあります。

なかでも重要な機能として,治水機能が挙げられます。

降った雨水は,山,川,農地,水路,ため池,,,最終的には海へと流れますが,ため池や水路が十分に機能しない場合,降った水が住宅街に押し寄せ,浸水するといった事態が起きやすくなります。ため池の管理者(地域住民)は,浸水被害が起きないよう,ため池に貯まった雨水を適切に排水するといった作業もおこなっているのです。

しかし近年では,市街化に伴い,水を吸収しないアスファルトが多くなっています。そのため,ため池に雨水が貯まるスピードが早くなっており,「水位を調整するコツが昔と違う(地元の管理者の人,70台,男性)」といった話もあります。

ちなみに,ため池が少ない地域では,地域の治水機能を確保するための施設を建設する必要性が高まると考えられます。例えば首都圏では以下のような大規模な施設(首都圏外郭放水路。通称,地下神殿。見学ツアーが人気らしい)が機能しています。

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③ 蓄積された地域ナレッジの価値

「水は生きていくために必要不可欠なもの」でありますが,その水をどこから確保するのか,そして誰がどのように管理し,確保し続けるのか,というルール(難しく言うと,水利慣行)は国・地域,自然環境などによって異なります。

ため池地域のルールは,水が潤沢な地域のルールよりも厳格であると言われています。

というのも,冒頭でも述べたように,ため池は,降水量が少ない地域や,河川から取水しにくい地域において,いかに水を確保するかという課題を解決するために作られました。つまり何が言いたいかと言うと,少ない水資源を平等にシェアするためにルールが厳格化された,ということです。

このようなルールは,水不足による村同士の争いなどによって,少しづつ形を変えて,現存しています(争いがおこらないよう,ルールが修正されていった)。水争いが頻繁になったのは,新田開発が進んだ江戸時代と言われており,水争いの名残は,現在でも感じることができます。例えば実際に調査に行った際,以下のような話を聞いたことがあります。

・子供の頃,親父が,隣村の人たちを竹槍で攻撃しに行ってた(70代男性)
・隣村に水を取られないよう,子供の頃は見張りをしてた(70代男性)

このような争いごとを解決し,水を平等に配分するために,集落内や集落間の関係性を考慮した厳格なルールが作られた,と言うことになります。

世界的にみてみると,こういった形で地域の人がルールを作り,地域住民によって水を管理する(自治)ということは稀であり,注目がなされています。例えば,発展途上国において,水管理への農民自身の参加を促す(参加型水管理 =PIM:Participatory Irrigation Management) という文脈においても注目されています。

水を管理するために作られたノウハウ(ルール作りを含め)は,まさに地域に蓄積されたナレッジ(知識や知恵)であり,無形の遺産であるといえます。

今回はここまで。

文責:柴崎浩平


参考資料

・南埜 猛・本岡 良太(2016)「日本における溜池の存在形態と動向 : 『ため池台帳』(1997年時点)をもとに」『兵庫教育大学研究紀要』49, 33-39. 

・水辺遍路「高さの違い。「ダム」と「ため池」」http://bunbun.com/mizube/%E9%AB%98%E3%81%95%E3%81%AE%E9%81%95%E3%81%84%E3%80%82%E3%80%8C%E3%83%80%E3%83%A0%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%80%8C%E3%81%9F%E3%82%81%E6%B1%A0%E3%80%8D/


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