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みんなでため池を守ることに限界がみられる理由①

以前,「農家が減ってきて,ため池の管理が困難になってきてる。みんな(=市民)で守っていこう!」という活動が活発におこなわれていること,しかし市民が従事している作業は,ため池の管理作業のなかでもごく一部に限られており,これまで管理組織が担っていた作業を,市民が代替するには限界がみられることを述べました。(詳しくは以下の記事)

では,なぜ限界がみられるのでしょうか。

その理由はいくつかあると考えられます。今回は,普段ため池を管理している水利組織の方の立場になって,責任,ナレッジ,財産・権利,組織の4つキーワードから理由を述べていきたいと思います。

1.責任

1つ目は,ため池を管理していくにあたっては,様々なレベルの責任があるため,なかなか「みんなで管理しよう」とはなりにくいからです。

ため池の決壊に伴う被害が相次いでいることを踏まえ,政府は「農業用ため池の管理及び保全に関する法律」を制定しています(2019年7月1日施行)。

本法律は,ため池の適正な管理及び保全を目的としており,ため池の所有者等は,ため池の適正な管理に努めなければならないとし,その責務などが明文化されています。

「ため池を適正に管理する責任」というと,イメージしにくいかと思いますが,具体的には,ため池の水が溢れた際の責任堤体が決壊した際の責任があります。

その他にも,田んぼに水を十分に供給できなかった際の責任,ため池で事故がおきた時の責任,お金を管理するうえで発生する責任(ため池の修繕費やため池を売却した際のお金),堤体の木が倒壊して誰かが怪我した際の責任,,など多くの責任を感じながら,管理作業に従事されています。

「田んぼに水を十分に供給できなかった際の責任」とは,ため池に十分に雨をためることができなかった場合,田んぼに用いる水を供給できなくなります(そのため,ため池の管理者は雨を少しでも多くためておきたいという心理になる)

「ため池で事故がおきた時の責任」でいうと,例えば,こんな看板をみたことないでしょうか。こういった看板やフェンスがみられるのは,ため池で人が亡くなり,管理者が訴えられるというケースが実際にあるからです。

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2. ナレッジ

2つ目は,ため池を管理していくにあたっては,地域固有のナレッジ(知識・技能など)が必要であるため,「みんなで管理しよう」とはなりにくいからです。要は作業が難しいということです。

管理作業のなかでも特に,水位の調整やお金の管理,水入れなどといった作業を適切におこなうためには,その地域ならではのナレッジが必要となります。(管理作業の内容については以下の記事を参照)

例えば,どの程度雨が降れば,どの程度ため池の水位が上がるか(降水量が同じでも水位の上がる速度は地域ごとで異なる),水路網がどうなってるか,水が溢れやすい水路はどのあたりか,水持ちが悪い水田はどれか,など,こういった知識は,地域ごとで異なります。

なお,ため池を管理していくにあたって必要となるナレッジは,農作業を通して自然と身についているナレッジも多くあります(例えば,時期ごとの水田の好ましい水位や,稲の品種ごとの特徴,水路網に関する知識など)と密接に関わっています。

が,農業離れが進んで,ため池を管理していくにあたって必要となるナレッジのベースを持たない人が多数を占めるようになってきています。

3.財産・権利

3つ目は,財産・権利の問題上「みんなのもの」にはなりにくいからです。

「ため池は地域の財産」とはいうものの,そこでいう地域や財産の所有・帰属の捉え方は,複雑かつ多様です。

まず,ため池を所有するといった場合,「水の所有」と「土地(底地や堤体)の所有」に分けられます(下図)。そして,それぞれ所有者が異なるケースも多々あります。

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例えば東播磨の場合,「水の所有」は,水利権(水を利用する権利)の所有のことであり,農家や集落,水利組合などが所有し,土地は財産区という組織が所有しているケースが多くみられます。

(* 誰・どこが所有しているのかという点は地域によって様々です。水利権や財産区については,またどこかで詳しく紹介できたらと思います。)

ケースは様々ですが,大雑把にいうと,ため池を所有しているのは,その地域にもともと住んでいた人達であり,新しくそこに住みだした人などは,所有していないということになります。

こういった所有や権利の帰属問題は,日常的には浮上しにくいですが,非日常的な場面で浮上しやすいです(例えば,ため池を売却する際や改修する際,つまり大きなお金が動く際や責任問題が問われる際など)

例えば,ため池を売却したお金はどこの財布に入るのか,そのお金は誰のために・何のために使うか。

そういった意思決定がおこなわれる際,ため池を所有している人達と,そうでない人達では,認識に大きな違いがある,ということになります。

こういった財産や権利の問題から,ため池を所有している人達は,市民が管理に関わることに素直に賛成できない側面があるということも考えられます(例えば,鈴木ら(2003)にも,そういった事例が紹介されています)

本日はここまで。「4.組織」については後日upしたいと思います。

<引用文献>

3) 鈴木隆善・河合宏夫・米村誠・西島信一(2003):住民参加によるため池の保全・管理体制づくり,農業土木学会誌,71(10),921-924.


文責:柴崎浩平







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