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ベトナム切手の紙質について

よく分からないけど、ちょっと古めのベトナム切手にやたら紙質の悪い一群があるなと前々から思っていました。そして私はその紙質の悪さ、印刷の粗さが大好きなのです。

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かわいいでしょう。図案もさることながら、この紙のざらざら感がたまりません。

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宇宙切手。

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分かります? この感じ。目打ちも粗いな。

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裏側。

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ちなみにさっきの宇宙切手には 1970 年や 1971 年との表記があるので、同じ年代の別の国の切手と比べてみます。こちらはブルガリア 1971 年。

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そしてこちらはアメリカ占領下の沖縄で発行された琉球切手。1970 年と 1972 年のもので、たぶん日本の大蔵省印刷局による印刷です。
ベトナム切手と比べると同じ年代で品質がけっこう違いますよね。

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そしてある日気づいたんです、私が大好きなざらざらした紙のベトナム切手には Việt Nam Dân Chủ Cộng Hòa と書いてあることに。

ちなみに気づいた時のツイートがこれです。

Việt Nam だけが国名で、残りは「郵政」とか「郵便」とかそんなような意味だろうと思っていたんです。(ソ連切手に書いてある ПОЧТА みたいに)
違いました。Việt Nam Dân Chủ Cộng Hòa で「ベトナム民主共和国」という意味でした。ちゃんと調べなきゃダメですね。
※ちなみに現在のベトナムの国名は「ベトナム社会主義共和国」です。

英語版 Wikipedia にベトナム切手の歴史についてのページがあったので、大まかに訳して重要な点を書き出してみました。

・ベトナムとしての最初の切手は 1945 年に発行
・1954 年、ベトナムが南北に分断され、それぞれが切手を発行
・北(ベトナム民主共和国)では多くの切手がハノイで印刷された(一部はプラハやブダペストで印刷)
・南(ベトナム共和国)の切手はパリ、東京、イングランド、ローマなどで印刷された
・南ベトナム解放民族戦線(ベトコン)も独自の切手を発行していた
・1976 年、ベトナムが再統一されると切手も統一され、国内及び海外で印刷された
・1983 年から 90 年の切手はほとんどがキューバのハバナで印刷された
・1990 年、ドイツから技術提供を受け、切手は全てベトナム国内で印刷されるようになった

つまり、ベトナム戦争の時代、ベトナム国内の印刷技術は未熟で、南は海外に切手の印刷を依頼していたけど、北では多くを国内で印刷していたので低品質だったということなんですね。

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家に1枚だけ南の Việt Nam Cộng Hòa (ベトナム共和国)の切手もありました。これがどこで印刷されたものかは分かりませんが、おそらくベトナム国外で印刷されたもので、品質が北のものと全然違います。なぜ一部のベトナム切手だけがやたら低品質なのか、という謎が解けました。


ところで Cộng について

ベトナム語は日本語や韓国語同様、中国語の影響をかなり受けていて、現在はチュ・クオック・グーと呼ばれるラテン文字表記をしていますが、漢字の音もだいぶ残っているとどこかで読んだ覚えがあります。 
韓国語もハングルを使っていて中国語とは全然違うように見えるけど漢字の音がだいぶ残っているので、日本語の音読みと親和性が高いです。「無理」は 무리(ムリ)だし、「時間」は 시간(シガン)です。

で、Việt Nam Cộng Hòa (ベトナム共和国)の Cộng Hòa というのは発音からしてたぶん「共和」ですよね。 (共和国の『国』がどこにいってしまったのか知らないけど)
韓国語で「共和」は 공화(コンファ)だし。似てる! これは漢字由来の言葉に違いない。

なぜこんなことを書いているのかというと、「ベトコン」が何の略なのかなと検索していたら Việt Nam Cộng sản (ベトナム共産)の略だと書いてあったので。
あ! Cộng Hòa(共和)の「Cộng」と Cộng sản(共産)の「Cộng」は一緒じゃん! どちらも元は「共」の字であり、同じ発音であり、ああ、あんまり実感がなかったけどベトナム語って中国語の影響が強いんだなっていうのが分かって、面白かったのです。

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ベトナム統一後の切手も見てみよう。
このダリアの切手は 1982 年と表記があります。終戦後7年目くらい。最初の宇宙切手と比べると品質が段違いです。

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これはちょっと年が書いてないんですよね。でもきれいな印刷です。通貨の単位がドンではなく xu(シュウ)なので、次の蛇切手よりは古いんじゃないかな、たぶん。

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蛇切手。1988 年とあります。ということはキューバで印刷された可能性が高いのかな。

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上2枚が 1999 年、下2枚は 2010 年です。ドイツから技術提供を受け、国内で印刷されるようになった後の切手ですね。やはり紙としての品質は高いです。

国名の表記が違うってもっと早く気づくべきでした。
私の手持ちの中にはありませんでしたが、この他にも仏領インドシナ時代の切手やバオ・ダイ政権が発行していた切手、南ベトナム解放民族戦線(ベトコン)が独自に発行していた切手などがあるそうで、ベトナムの切手の歴史は混沌としています。
次に切手イベントに行ける機会にちょっとこういう切手も探してみたいです。

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しかし、何にせよ、やっぱりこの紙のざらざら感がたまらないんだよなぁ。

※今回の調べ物はほとんど Wikipedia に頼っているので、もし何か間違いがあったら教えていただけると助かります。

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