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ハバナのひとよ②

『夜の札幌 あなたに逢えて 凍てつく心にあかりが灯る…🎶』

15:20 新千歳空港、第一エアーターミナル。
一人の年金受給者が北の大地に降り立った。

「何卒。」
そう呟くと、空港ビル内の階層を下から舐めるように攻めはじめた。
中部国際空港も然りだが、国際線の往来が多い空港は土産物屋から飲食店まで、自分が見て知ってきた中では規模が違った。
空港ビルを散策する理由はそう、同年代であれば知らない人はいない、「北空港モニュメント」である。

内山田洋とクール・ファイブの代表曲といって差し支えない名曲「そして、神戸」と同じ、浜圭介先生の作曲だ。

10分ほど探しただろうか。
ようやく目的のモニュメントに辿り着いた。
まずは一礼。そして、おもむろに歩み寄り、イクラのように赤く綺麗に光る…とはとても言えないくらい黒ずんだスイッチを押下した。
すると流れる、オルゴール調の「北空港/浜圭介・桂銀淑」。
仕事で凍てついた私の心に、あかりが灯った瞬間であった。
それと同時に、フード・コートの客たちからの不審者をみるような目線が集中したが、
ゾーンに入った私にはそんなこと、気に止めるほどでもなかった。

そんな野暮用を終え、空港直結のJRへ飛び乗った。
次に目を覚ませば、札幌市内。窓の外の変わり行く雪景色をみながら、あと何分か、と指折り数えて到着を待った。

『次は終点、札幌。』
車内に寂しく響き渡るアナウンスでハッと気がつくと、終着駅/奥村チヨに着いていた。
余談だが、奥村チヨの旦那は浜圭介である。

そんなくだらないことをブツブツと呟いていたら、鉄道警察に連行されたのはここだけの話としておこう。

札幌駅は、人口規模の割にちゃっちく、
また駅構内の荒廃具合が実に好みだった。
駅を出ると、まず出てきた感想は「道路のボロさ」。
それもこれも、雪の仕業ということは、あまり難しく考えなくとも自然と理解できた。

そのまま、メインの幹線を南下し、本日の宿へと足取りを進める。

今宵の宿は、ホテル時計台。
翌日の医療関係者22歳女性との集合場所を時計台と約束していたこともあり、札幌駅から程近いこちらの宿を取ったのだ。

あすは前述した女性とのアポイントメントもあれば、午前中の""フリー来店""もある。
やれやれ、旅人なのに忙しいな。
色欲にまみれた予定ばかりなのにも関わらず、妙に仕事人ぶる最悪な大人の姿がそこにはあった。

ホテル時計台に到着し、簡単には受付を済ませたあと、
キャリー・ケースを自室に置き、すすきのへ向かった。

途中、朝から何も食べていなかった私は札幌といえばの大戸屋(大嘘)で定食を胃に入れておいた。

今夜の恋は………煙草の先に…………火を付けてくれた人……………ブツブツ…

ブツブツ独り言を言いながら大通り公園で2、3回職質を受けたあと、ほどなくして、色男と約束した喫茶店に着いた。

キィ…………

凄みのある佇まいの反面、思いの外軽快なドアの音が色男への再会の高ぶりを幾分か狂わせた。


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