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妻、浜辺美波になる。

夏は、妻が四季の中で一番好きな季節だ。
気分が高揚するらしい。

ちなみに僕も夏は好きなのだが、ここ数年の酷暑っぷりには辟易としているので、今の時季ぐらいが一番良いと感じている。
春は花粉症、冬は寒いのが辛い。

話を戻すと、妻は当然、夏のイベントも好きだ。
花火大会、プール、海水浴なんかはマストと言って良い。
なんだったら、ママ友コミュニティを駆使して、大人数の花火大会を企画、開催までしてしまう。

この花火大会、最初は親と子どものセットの3〜4家族、10数人ぐらいで始めたのだが、年を経るごとに参加者が増加し、今年はついに20家族以上の60名超となった。

断っておくが、やるのは花火だけである。
なんかのセミナーがくっついているわけでも、健康食品を売るわけでも、投資商品を勧めるわけでもない。

花火も持ち寄りなどではなく、1家族2,000円ぐらい集めて、その予算内で僕が取材したことがある花火問屋に手持ち花火、吹き出し花火、打ち上げ花火、ナイアガラ花火などを大量に発注。
加えて、昨年からは問屋さんに打ち上げプログラムまで組んでもらうようになった。

そのため、当日は僕とパパ友数人は協力して花火を設置し、タイミングを合わせて点火していく即席花火師と化す。
その背後には、イベントプロデュースに長けた妻がいるのだ。

余談ですが、花火問屋さんが作った花火配置表は分かりやす過ぎて感動しました

しかし、夏を楽しむことに余念がない妻も、ひとつだけ悩みがあった。

眉毛である。

生まれつき眉毛が薄い妻は、ノーメイク時は本人曰く“麻呂”状態となる。
確かに、客観的に見ても「麻呂だなあ」と思う。
よって、彼女にアイブロウペンシルは欠かせない。
聞くと、中学生の頃から眉毛を描いていたらしい。

そのため、眉毛を描く時の妻は常に真剣だ。
眉をキリッと引き締め(ないけど)、手鏡を睨みながら鮮やかな手さばきで目の上にペンを走らせる。
その真剣な眼差しは、劇的ビフォーアフターに出てくる匠のそれである。
妻がペンを走らせているのを見る時は、いつも僕の頭の中であのテーマ曲が流れている。

しかし、夏といえば汗をかく。
汗をかけば顔を拭くなんて事は日常茶飯事だ。
すると、せっかく描いた眉毛が途切れたり、消えたりする。
プールなんて入った日には、高確率で“麻呂”に戻ってしまう。

夏が好きなのに、夏が悩ませる。

天才ピアニストなのに、演奏するとピアノの音が聞こえなくなってしまう有馬公生というか。

ナマコの酢の物が好きでバリバリ食べたいのに、身体が衰えて歯がガタガタになったため食べられなくなった二木会長というか。

なんにせよ、こまめに、そして面倒くさそうに眉毛を描き直す妻。
見るに忍びなかった僕はある日、「眉毛アート」を提案した。

女性の多くは知っているかもしれないが、一応説明しておくと、眉毛アートとは、皮膚に針で色素を注入し、眉毛を描くというものだ。
一度、注入された色素は顔を洗っても落ちることはない。

「いや刺青(タトゥー)やん」と思うなかれ。
イメージとしては刺青と似ているが、刺青が皮膚の奥深くの真皮層に色素を注入するのに対して、眉毛アートは表皮に注入するという違いがある。
刺青は半永久的に消えることはないが、眉毛アートは数年で消えるのだ。
そのため、流行に合わせてデザインを変更しやすいという利点がある。

妻に提案したのは、10数年前に母親がやっていたことを思い出したからだ。
当時は眉毛アートとも呼ばれておらず、眉毛の形のタトゥーという認識だった。
描き方もベタ塗りのイメージだったが、今はより自然な毛の流れを描いてくれるようで、本物のような仕上がりになるらしい。

とはいえ、妻は数ヶ月は悩んでいた。
身体の一部に色を入れるので、当然と言えば当然である。
結局、施術を受けることを決意したのは、ママ友が先に眉毛アートをしていたことが判明したからだ。
そのママ友は施術を受けて、すこぶる満足だったと言い、ようやく妻も決心した!

そして、夏が本格的になる頃の7月上旬。
ついに妻は施術を受けて、帰ってきた。

ウルトラセブンがエメリウム光線を発射する時の決めポーズのように、妻は両手で眉を隠しながら玄関からリビングルームに入ってきた。

「いくよ……。3、2、1……はいっ!」

手をどけると、そこに浜辺美波がいた。

いや、正確には浜辺美波の眉があった。
ややシャープで細めながら、美しいアーチを描いた眉だ。

すごい。

本物にしか見えない。

近くで見ると、眉毛はベタ塗りではなく、ちゃんと毛の流れが立体的に描かれている。
わずかに残る本物の眉毛と違和感なく溶け込んでいるのだ。

母親の時は、こんなに精密に描かれていなかった。
技術の進化、恐るべし。

当然、こすっても眉毛は消えない。
「色素が定着してないからこするな」とめっちゃ怒られたが、妻の顔は満足げだった。

施術は一回きりではなく、数ヶ月後にもう一度あるらしい。それで、さらに形を整えたり、濃度を調節したりするらしい。
まだ完全体ではないのだ。
第1形態のセルみたいなもんか。

それでも、妻は家族でプールに行った際に「いちいち眉毛描かなくて楽!」と喜んでいた。
メイクも時短になったようだ。
匠の手技があまり見られなくなったのは寂しいが、眉毛のQ.O.Lが上がったので良いことだと思う。

結局、何が言いたいかというと、眉毛の薄さに悩む女性に眉毛アートはオススメです。

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