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歌詞探訪:村下孝蔵『踊り子』

村下孝蔵さんといえば『初恋』が最も有名だと思うが、私は個人的にこの『踊り子』に凄く惹かれる。曲調ももちろんいいのだけど、何といっても歌詞がせつない。

答えを出さずに いつまでも暮らせない
バス通り 裏の路地 行き止まりの恋だから
何処かに行きたい 林檎の花が咲いてる
暖かい所なら どこへでも行く

『踊り子』

行き止まりの恋で、もうどうすることもできない状況に追い込まれているのがわかる。この主人公たちが暗くて寒い裏の路地で、辛い生活を送っているて、ここから逃げ出したい思いが伝わってくる。

つま先で立ったまま きみを愛してきた
南向きの窓から 見ていた空が
踊り出す くるくると 軽いめまいのあと
写真をばらまいたように 心が乱れる

「軽いめまいのあと写真をばらまいたように心が乱れる」という、シンプルでわかりやすい比喩が脳内に映像を思い起こさせる。上手い表現だなとつくずく思う。「つま先で立ったまま」もバレリーナのイメージと生活の不安定さを上手く表している。

ここで、ちょっと疑問に感じるのが・・・
「林檎の花」は北国をイメージさせるので、「暖かい所」とどうして結びつくのか?
それから、空を見ていたのがなぜ「南向きの窓」なのか?
南向きの窓は最も日差しが入るので、逆に明るい印象を受ける。それゆえ、この歌のイメージにそぐわない。なぜ、西向きとか北向きとしなかったのか?本人に聞いてみたいところだが、既にお亡くなりになっているので、答えは得られないだろう。

表紙の取れてる 愛だから 隠しあい
ボロボロのセリフだけ 語り合う日々が続き

つま先でたったまま ぼくを愛してきた
狭い舞台の上で よろめく踊り子
愛してる 愛せない ことばを変えながら
かけひきだけの愛は 見えなくなってゆく

若い、不器用で危なっかしい恋人たちを踊り子と表現した叙情的な歌は40年経っても色あせない。
シチュエーションは全然違うのだけど、私はこの歌とシュトルムの『大学時代』という小説を何故か結び付けてしまう。


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