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ホラーシリーズ 『野犬襲撃!』



これは世の中にコロナというものが出現する
更に2年前の出来事、だから2017年の夏
の出来事となる。



だから、まだ私はプールに通ってはおらず、
カヌーのインストラクターなどもやってない
時期のお話。つまり、今程には身体を鍛えて
いない時期である。それでもチャリンコには
適度に乗っていて遠出などはしていた。



この時はチャリで十三から嵐山までを淀川を
遡って、渡月橋迄にゴールしたら、また帰還
するという計画を立てて、出発する。河川敷
は雲ひとつない晴天でチャリンコ日和。十三
から嵐山までの淀川河川敷は走行距離にして
約55km、往復で110kmとなる。



この時は私はブログと云うものを始めてなく
読んですらいなかった。それでも自然の写真
撮影はずっとやっていた訳で、途中で植物や
虫や鳥の写真を撮っての道草しながらの走行
なので、結構な時間を要してしまう。



朝の10時に十三を出発したのにも関わらず
嵐山では有名な観光スポットでもある渡月橋
(トゲツキョウ)に着いたのは夕刻18時位。
その辺りの適当なお店でご飯を食べた後には
他の観光土産屋さんなどにも寄り最近の土産
などをチェックする。ひと昔前には、芸能人
のセカンドビジネスが盛んな時期はここには
ビートたけしの北野印度ガレー店、梅宮辰夫
の辰ちゃん漬け物店、加藤茶のキャラクター
グッズのお店などで行列も出来ていたがもう
そんな店は全てなくなっていた。北野ガレー
のハーフアンドハーフは美味しかったのだが…


適当に店巡りで遊んだ後に、チャリに跨って
ゆっくりと十三へと自転車を走らせる。単独
での行動なので、全くのマイペースである。
エッチラオッチラとゆるーく帰り道を走って
いく。翌日に特別な予定もないので深夜中を
朝方までに帰れば良いのレベルで走行する。


私の乗る自転車はオフロードのガタガタでも
へこたれないタフさを求めているのでMTB
のヘビーデューティタイプのもの。高速移動
よりも野原や砂利道や河川敷を斜めに下へと
走行できるスキルを求めたので、フレームも
太く全体に重いものである。ロードレーサー
タイプの高速走行のものにはビュンビュンと
抜かれる。あの細タイヤも持っていたが私の
使用状況ではパンクが絶えないので、だから
今の様な堅牢さを誇る自転車に乗っている。


COMMENCAL社 EL CAMINO


途中途中で、休める場所があったらチャリを
止めてドリンクを飲んだりして休憩をとる。
なんだもう草木もねむる丑三つ時になってる。
コウモリすらももう寝ている時間なのだろう、
空を飛び回っている姿も見えないな。こんな
時間に少しだが雨が降り始め、これは有難い
身体が冷やせるのと夜気の気持ち良さが倍増
するので嬉しい。街灯がまばらなエリアだ。
まだ、枚方までは先だなと大体の位置を確認
しながらの走行である。


おっ、アレは一体なんだろうか?


開けたエリアが左手に見える。刈り込まれた
芝生のゾーン。その上には沢山のオブジェが
均等に並んでいる。それはまるで西洋の建物
の屋上に設置されている魔除けのガーゴイル
にも見える。そんな置物がズラリと均等配置
をされていて、青白い数少ない街灯によって
照らされている。これはこれは素晴らしい、
よく出来たアートだな。行きの時と全く同じ
河川敷を走っているが行きの時には全く気が
つかなかったシロモノである。これは写真を
撮っておこう。チャリンコを停めてスタンド
を掛けて、街灯に照らされている複数アート
へと歩み寄っていく。スマホを取り出しての
構図をどう撮るかと考えながら歩みを進めた
次の瞬間、目を疑った。



オブジェが動いたのである。いや、オブジェ
ではない野犬である。ガルルルルル…一斉に
それらは立ち上がって白く鋭い牙が薄明りの
中で露わになる。私は凍りついた。あまりに
迂闊(ウカツ)なこの行動、私の前にいる犬
は、一匹二匹どころではない。十何匹の野犬
の全てが私に向かい敵意を露わにして唸り声
を上げている。そこ迄の距離ではないのだが
鼻面にシワを寄せている顔は容易にだが想像
できる。私は一歩ずつ後退する。そして野犬
も私のその一歩に合わせ間合いを詰めこちら
へとにじり寄ってくる。不用意に近づいた事
が奴らのテリトリー侵害をしたとしての報復
行為なのだろう。暗くて犬種すらも分からぬ
状況の中、唸り声に加えて吠える声も聞こえ
暗闇の中で白い牙が見えている。






背中を見せて走ってはならない。彼らの本能
には逃げるものを追う習性がある。とにかく
この場を火球速やかに、静かに彼らを刺激を
せずに逃げよう。私は自転車から大分歩いて
来てしまった。が目の前の敵の群れから目を
逸らして後ろの自転車を確認する余裕などは
微塵もなかった。とにかく敵から目を反らす
事なくゆっくりと後退していく。自転車の籠
の中にはブンブンと振り回せるチャリンコの
チェーンロックがある。その先端には南京錠
が分銅の様についていて振り回せば宍戸梅軒
が使用した鎖鎌の武器の様にもなる。ってか
この数を全て相手にするとその武器すらもが
心許ない。


ADEPT  CHAINE LOCK


宍戸梅軒(シシドバイケン)

鎖鎌(クサリガマ)


私がこれら野犬に対して恐ろしいのは何か?
狂犬病である。動物関連の周期対策において
二ヶ月ほど前に私はセミナーに参加していて
その時の特集が狂犬病に関する講習会であり
これは対策する薬がないもの。狂犬病対策の
予防接種は飼い犬には義務づけられているが
こんな野犬は当たり前に予防接種を受けてる
訳はないのだ。ゾンビ映画『28日後』の中
に出てくるレイジウイルスなるものは、この
狂犬病に類似する。噛まれた人間も狂犬病に
感染すると凶暴化して自分の正体を失っては
他の者へと襲い掛かり噛みつくのだ。ゾンビ
映画の根底にはこの狂犬病やあの狂牛病など
ビースト状態になるのが怖いのだ。ってか、
ココは大阪府の中なのにこんな数の野犬達が
河川敷にいる事実の方がどうかしている。



彼等も他勢に無勢の図式から、私へと一定の
距離を保ち、いやもっと近くへと来ている。
不味い、チャリはまだか?彼等の立ち上がり
の場面からどの位の時間かも感覚が曖昧にも
なり、少しだけ顔を振る、チャリはもう直ぐ
の距離。届いた。後ろ手にチャリを確認して
跨って走る。瞬間に野犬達が一斉に私を追い
走り出す。不味い、足が疲れてる。もひとつ
のスピードである。いや、いかん、彼等には
追いつかれてはならない。いっそ、河川の中
へ自転車ごと飛び込んでしまう?野犬の襲撃
を受けた時に河川に入ると噛まれないとの話
を文献にて読んだ事がある。犬も水の中では
自身の呼吸が優先であり、噛んで離さないと
いう事にはならないというのだ。



夜の暗い河川に飛び込む、それも自転車ごと
なんてあり得ない。足元もどうかも分からぬ
河川の中、溺れるリスクもあるし、水際では
私の上陸を待ち構える野犬達の群れの図式が
頭に浮かんだ。河川に飛び込む案は完全却下
をした。手に持ったチェーンを振り回すのも
一匹や二匹なら有効、十何匹を相手には有効
な対決法にはならぬとこれも却下。私がとる
唯一の方法は全速でこの群れから引き離して
離脱する事のみ。よし、死ぬ気になってこの
ペダルを思いっきり漕ごう。私は立ち漕ぎの
モードで前傾を保ちながらひたすらに漕ぐ。
脇目も振らずに漕ぐ。死ぬ気で漕ぐ。後ろに
気を取られる事なくただひたすらに前進して
この窮地を離脱する。



頭の中を真っ白にしながら、身体がガタガタ
になりながら後ろを確認した。さっきまでは
私に追いつきそうだった野犬の姿はもう一匹
もいなかった。逃げ出せたのである。枚方の
だだっ広い河川敷に到着した。ここは照明も
沢山あって明るい。雨が先程よりも本降りに
なって精魂尽き果てるほどの疲弊した身体を
冷やしてくれる。



この後、爺さん並みのチャリの速度で十三へ
たどり着いたのは、朝の6時前の事である。
家へ帰ると水風呂の中に浸かってぐっすりと
眠りこけたのである。



狂犬病は弾丸型の形状をしたウイルス。
周囲を取り囲んでいるのはウイルス本体の保護を
しているエンベロープ構造。コロナウイルスの
あの外側を取り囲んだスパイクとも同じである。
このスパイクは体内の細胞へと取り憑くための
構造上で重要な役割も持っている。


狂犬病の名がつくが、野生の哺乳類ならば犬に
限定されたウイルスではない。感染するとこの
致死率は他のウイルスの比ではなく、100%
死に至るのがこの狂犬病ウイルスとなる。


飼い犬については、このワクチンの接種は義務
となっている。


この時は野犬の群れの写真を撮る余裕はなく
残念ながらタイトル写真は拾い画像となる。


さて、では今後、これらに遭遇した場合の対処
はどうなるかであるが私の自転車にはドリンク
ホルダーにはKURE 556が装備されている。
駆動系の基部への潤滑油としての使用目的だが
これは武器にもなる。



引火性もあるので、常備携帯するSOTOバーナー
と組み合わせれば火炎放射器になる。もちろん
普段は100%、そんな目的には使わないが
エマージェンシーの際、本当に危機的な状況下
に於いて自身で何を武器にして有効にその場を
切り抜けられるのかは想定しておいた方が良い
というのが私の持論である。





という事で、このチャリが野犬から逃げ切れた
私の愛車である。




夏休特集号 恐怖シリーズ 吸血昆虫襲撃

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