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ホラーシリーズ 『吸血昆虫襲撃!』



石川県は山深い秘湯中の秘湯を訪れた際に私が
遭遇した恐ろしい体験談を披露しよう。


残念ながら、前回の私に憑依している少女など
の霊的なお話ではない。悪霊などのオカルト的
要素はここには登場しない。まあ、私に憑いた
少女の霊というのも禍々しい存在ではないのは
前述の記事をお読み頂いたらお分かり頂ける。


今回の恐怖の対象となるのは、虻(アブ)。


このお話はまだ私がIPHONEなどを持たぬ、
ガラケーを所持していた頃の相当に昔の話。


その当時、お付き合いさせて頂いてた女性に
「温泉に行かない?あまり人の来ない寂れた
を通り越して、大自然の中の秘湯とかいうの
興味ない?どう?」と温泉に誘われる。私は
『温泉=冬』のイメージがあると言うと雪の
温泉もだが、緑に囲まれた温泉も良いのだと
と誘われる。いう事で夏休みの三日を秘湯で
過ごすことになったのだ。


「石川県の温泉、本当に秘湯中の秘湯らしく、
ネットでヒットしたの。でねここに人も
あまり、来ないらしくて。それともうひとつ
ここね、混浴が出来るのよ」


彼女が出力したそれらを見てみると、本当に
山奥の中の温泉で建物も登山用の大型ロッジ
みたいな雰囲気だ。


「混浴か、それって中々に大胆な発想だね」

「前も温泉一緒に行ったけど、露天風呂へは
別々になるでしょ、だから一緒に月を眺めて
入るのってどう?」

「他の人も入ってくるよ、それでも大丈夫?」

「ちょっと、刺激的だし、人生で一度は体験
もしてみたいと思って。私の裸を人に見られる
のがイヤって言うなら、やめるけど…」

「良いよ、もうここまで調べてるし、折角だ
行ってみよう。大自然の中で裸になってそれ
を楽しもう。ロマンチックな旅にしよう」

「私たち二人でならきっと、そうなるよ」


こうして彼女の提案に二つ返事で承諾し行く
事となった石川県の温泉。名前は伏せる。
ホラー体験は営業妨害になりかねないからだ。


落石がところどころに落ちていて、舗装すら
されてない道。車一台が通れるくらいの細く
も険しい道をゆっくりと慎重に進んでいく。
道の下は切り立った崖が続き、落ちたならば
間違いなく、我々は天に召される高さである。
木々の間からの木漏れ日が目にチカチカする。
と、その時だ、少し開けていた窓の隙間から
デカイ虫が入り込んだ。



「ブーン、ブーン」

「キャーッ! 何! ハチ、ハチなの?」

「いや、デカイけどハチでない、アブだ!」



室内を飛んでいるその虻(アブ)はこれまで
見たどのアブとも比較にならない位に巨大な
もので、これは凄いなと心が湧き立つ。普通
の小型雀蜂(コガタスズメバチ)と大きさは
変わらない程の大きさである。私は帽子の中
にその虫を捕らえると窓を開けて外へ逃がす。
そして窓をキッチリと閉める。窓の外を見る
と大自然の中だなと思えるほど、多種多様な
虫達が沢山、飛来している。


「もう、いない?」

「ああ、逃したよ、大丈夫。スズメバチ並み
の大きさだから多分アカウシアブあたりかな
初めて見たけどね」

「あんなに大きいアブがいるの?」


「名前の通り牛や馬などの大型の家畜を専門
に吸血目的で襲う、結構、凶暴なヤツだよ。
この辺りの山々には牧場とかは無理だから、
熊や猪とか鹿が狙われるのだろうな、性格は
キツイ上に、相当しつこいらしい」

「温泉にもいるのかな?」

「いるものと判断した方が良いだろうね」

「なんか、怖い」

「まあ、行ってみたら分かるさ」


険しい道を越えて、やっとの事で温泉施設の
建物の白壁が見えてきた。駐車している車は
殆どない。秘湯すぎたのかも知れないけれど
混浴に大勢が入ってくるよりはいい。


旅館の入口につくと、赤いカーペットが敷き
詰められた廊下が見える。受付で年配男性に
予約番号を告げて記帳をし、鍵を受け取る。
施設内をブンブンと数匹のアブが飛び回って
いる。こいつらは我々に反応しない。それは
彼らがオスだからである。蚊もそうだが虻も
吸血性のこれらは全てメスが動物の血を吸う。
彼女達は交尾を終えた途端に凶暴な吸血性を
露わにする。受精卵へ効率の良い栄養分をと
動物性タンパク質として血を吸うのである。
この窓に取り憑いたオスアブの数からすると
表にも相当なメスアブがいる事になるな、と
少し警戒モードに入る。


部屋へ案内され歩く間に、その死骸をパンフ
を丸めて収納し、部屋に入る。ご飯の時間を
確認して荷物を置く。


「本当に秘境だったわ。アブが入ってきた時
一人なら間違いなくパニックになってたわ」

「コイツだよ、やはりアカウシアブ、日本で
最大の吸血の昆虫だよ。このパンフに乗って
る死骸はオスだよ。彼らは血を吸わず、メス
と交尾するだけのもの。」

「いや、もう見たくないから、捨ててよ!」

「敵を知る事は大切な事だよ、イヤでもここ
にいる間は、コイツらは我々へと間違いなく
群れでつきまとって、襲ってくるはずだよ」

「虫除けは持ってきてるわよ、ほらね!」

「そんなものが通用する相手などでないよ、
コイツにはね。他の吸血アブは動物の腹部の
柔らかい部位を狙って吸血する。この獰猛な
ヤツは牛や馬の背中の皮膚を切り裂いて吸血
をする強靭な牙を持つヤツなんだよ」

「いやだー」

「まっ、これが秘湯って訳だよ」


パンフの上の死骸を彼女が眺めている。


「まあ、何にせよ、楽しもう。何とかなるよ、
虫の専門家のオレがいる訳だしね」

「貴方が虫に強くて良かったわ、何でも知って
るし、頼もしいわ」


机の上のパンフの上の死骸を窓と網戸を開けて
落とす。クルクル回りながら落ちていく。私は
タバコを吸って一段落。



「明るい内に露天風呂に行くけどどうする?」

「ううん、やめておくわ」

「それがいいかもな、先ずは状況確認をして
くるよ、吸血アブの実態調査も兼ねてね」

「分かったわ、気をつけてね」



さてさて、調査開始である。
私は衣類を脱ぎ捨てて浴衣姿になり、タオル
二枚を持ちここの露天風呂へ調査に向かう。
歩いてたった2分程度の距離の場所に大きな
まん丸い温泉が見え湯舟の周りには濃い灰色
の岩がとり囲んでいる。この露天風呂の周り
にもさらに大きな岩で取り囲まれている。


露天風呂の湯船周りを岩が取り囲み、更には
その周囲グルリを岩が取り囲んだ状態となる。
ここは登山道にも面しているので、宿泊者の
裸がそれら登山者には見えない様には工夫が
されているのだと思われる。


だが、施設内には元々が混浴風呂ゆえ脱衣所
の様なものはない。ここでは男女とも普通に
服を脱いで温泉に入る為の施設。まあ昔では
江戸時代の公衆風呂は全て混浴風呂だった。
ただ産まれた時のまんまの姿になるだけの事
である。脱衣を入れる為の籠に浴衣を入れる。
大自然の中での全裸、気持ちいい。と思った
その瞬間に、岩に止まっていたアブが一斉に
飛ぶ。何という数か!慌てて湯舟に近づき、
股間を洗う。ピタ、ピタ、ピタ、ピタ、無数
のアブが一斉に身体に止まる。慌てて湯舟に
飛び込む。うう、温泉のお湯がこれまた想像
以上にもの凄く熱いではないか…。普通なら
こんな熱いお湯は片足からジンジンジワジワ
とゆっくりとでないと入れない熱さである。
緊急事態につきそうも言ってはいられない。
しかし、熱いお湯で、入った瞬間にのぼせる。


だが、たったこれだけの短時間だが4箇所も
やられている。湯船の中に血が揺らいでいる。
そんな事はお構いなしに頭上には何十匹もの
アカウシアブが飛び回っている。ロビー受付
のあのオッサン、虫が多いですが気をつけて
の一言は言ったがもっと注意喚起の言葉とか
必要だろうと頭にくる。私などはあの車中の
出現場面があり予備知識はあるのだが、他の
知識のない人ならもっとパニック状態になる
筈である。


頭の上にはタオルを乗せて、とりあえずは鼻
より下は湯船の中へと潜らせ、武器を探す。
武器と防御の両方が必要だ。ムザムザと尻尾
を巻いて逃げる様なヤワな精神は持ってない。


枯葉を救う為の意外と柄の長い網があるのと
あとはさっき股間を洗うのに使ったヤカン色
の金属タライだ。そのままの体勢にて先程の
股間洗い洗面器を頭にカッポリと被る。お湯
の中を移動して枯葉取り網を手にした。多分
側から見たら滑稽すぎる私のこのおバカな姿
である。柄を短く持ちブンブンと網を振って
次々とアブを捉えて熱々のお湯の中に浸ける。
のぼせあがる程に熱すぎる温泉ゆえ、流石の
この巨大なアブも死ぬことであろう。テンポ
よく頭上を舞うアブを捕まえてはお湯に浸け
この単純作業をひたすらに繰り返す。


それなのに、数が全然減っていないどころか
むしろその数が増えている。上空を飛んでる
アカウシアブはブンブンと唸る様に飛んでて
直接に私の方へと急降下してくる。お湯の上
を見る。浸けられたアブはどうなっている?
なんと泳いでいるではないか…そして、岩に
辿り着くと、それを登り、羽をプルプルっと
震わせて、再び飛び始めている。こ、これは
…今までの何匹も捕獲して湯に浸けて死んで
いるのは一匹もいないではないか。うう…、
お湯にのぼせて、頭がふらついてきた。目も
霞んできた。普通なら平らな足畳の上に大の
字になり冷んやりクールダウンしたいとこだ。
むろん、それをやればこのアブ達より全身を
噛まれて血まみれになるだけである。


よし、第二ステージへと進もう。スイッチを
切り替えてブンブンを捕まえてお湯に浸けて
網のエッジの金属の輪っか部分でアブの首を
全てはねてやる。さっき噛まれた箇所が痒い
よりも痛い。血はまだ出ている。


アブなる虫は、ハエの進化した昆虫である。
ハエの口は舐める構造となっていて、唾液で
タンパク質成分を分解させそれを舐める構造
である。アブの口は進化して、傷付けて吸う
構造となっている。ムシヒキアブなどは他の
虫に溶解液を注入してそれを吸う。野生生物
に食らいついたアブの場合、その傷には獣の
雑菌が傷口から入る。だから痛いし腫れるし
傷跡が残るのだ。


吸血生物について他には蚊もいるが、こちら
は体内に血液凝固防止剤を打ち込んで、血液
がドロドロに成分変化した部分を吸い上げる。
だから、蚊がその液を注入した直後に潰すと
体内に血液凝固防止剤が残っているから痒い
のであり、蚊がそれを全部吸い終わってから
叩く方が痒くはならない。


吸血ヒルの場合、映画ランボーでもこの排除
の場面にタバコの火でヒルの背を焼くと仰け
反り死んでしまうシーンがあるがこれが正解
であり、普通にヒルを取ろうとすると体内の
毒成分を思いっきり傷口の中へ排出してくる
性質があるので気をつけないと痛い目に逢う。


それぞれに吸血生物には違う特徴や対処法が
あるのだ。


アカウシアブの湯船の現場に再び戻ろう。
先程の噛まれたところがジンジンする。その
怒りに任せて、相当にのぼせながらも着実に
アカウシアブのメス達を私は仕留めていく。
私は普段は虫などの殺生はしない。だが牙を
剥いて襲ってくる奴なら容赦はない。むしろ
ブンブンと飛び回っているコイツら全て葬り
去ってやるとバーサク状態になっていた。


アムロ・レイが、リックドムとの対決の時に
倒すごとに数えるシーンがあるが、こちらも
熱湯漬けの状態ながら数えながらアブの首を
次々とはねていく。50までいった。そうか
もう、数えるほどしか飛んでいない。もう、
いいや。熱すぎてマジで死にそうである。


露天から上がり、バスタオルでささっと身体
を拭いて浴衣を着る。もう既に足には一匹が
止まっている。カッと頭にきたので上から拳
で殴りつけてやったら牙が奥まで入ってウッ
となる。これはやってはいけない処置だった。
潰れたアブを足から排除する。その間にも新た
な敵がブンブン飛んでくる。


旅館までのぼせながらテケテケ小走りである。
浴衣姿で身体を屈めながら走るのだが足元は
やはりアブが飛び回る。


部屋に戻ると私の足が何ヵ所も血を流している
のを見て彼女がキャッと驚きの声を上げる。
あんなにやっつけてやって、小走りだったのに
こんなにも噛まれてるのってどうよ…


「こんなに…」

「あらかたはやっつけたよ」

「露天風呂には行かない方がいいのかな?」

「夕刻を過ぎるとまた別働隊が出現する可能性
は充分にあるよ」

「危険ってことね」

「吸血昆虫は我々の吐く二酸化炭素に反応する
からね」

「せっかくきたのにね…」

「露天でなく安全な建物の中の温泉にした方が
良いよ。この足の傷は絶対に跡が残ると思う」


翌朝に脚を見ると噛まれた場所は、ドス黒く
腫れ上がり痛みでズキズキした。やはり吸血
により他の獣達の菌が入ったからなのだろう。
私が足タレントならその仕事は二度と来ない。
その位、黒い跡が何個も残ったのである。


そしてその十何年も前のその痕は全く消える
事なく私の足に黒々と残ったままなのである。




ここでは残念ながら、アカウシアブの画像は
ネットからお借りしたものを使用した。


夏休み特集号という事で、現実に私が遭遇した
危険生物『アカウシアブ』の解説をさせて頂いた。
三日連続で私が襲われた体験談をお送りする予定
である。


夏休特集号 恐怖シリーズ 野犬襲撃



過去の記事の私の霊体験もこちらに載せておこう

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