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どういうことだよ仮面ライダー(シン・仮面ライダー感想)

 人によってはこの表題のせいで、私が映画の内容について文句を言いたいのだと受け取られるかもしれない。しかし誤解しないで頂きたいのだが、本日公開されたシン・仮面ライダーはとても面白かった。敵幹部はそれぞれ一癖あって面白いし、ルリ子が可愛い。本郷は近年稀に見る好漢で、誠実を体現したような人間であるし、何よりルリ子が凛としていてとても良い。とにかくルリ子が凄く良い。ルリ子の元へアカデミー賞が来い。
 そんな風に好印象しかないのだが、

いや神永。

 なぜ私がここまで情緒不安定なのか、その理由は下記の記事を参照してほしい。でも以下の文章を読むにあたって、下記の記事を読まなければいけない訳ではない。ただ、三十後半の女がなぜ銃口を口に咥えているのか、その理由がわかるだけだ。

さて本題。
 神永がそのまま髭を生やしただけの男が、どういうわけだか滝の名を名乗って現れた。
 実際に彼が名乗るのは物語の終幕でだが、名乗る前でも竹野内豊とともに斎藤工が出てきたところで泡を吹きかけた。
 もうこの時点で息も絶え絶えだというのに、斎藤工は神永と同じ顔で少女に向かって引き金を引く。撃たれた少女は街一つを易々と洗脳してみせる激ヤバ敵幹部なので、国家に属するものとしての立場上、非情にならざるを得ないのは物語上でも言及されたことであるが、シン・ウルトラマンで自分の命を投げ打ってでも人類を守る姿を見ていた手前、あのシーンは血の気が引くくらいつらいものだった。なんなら、この文を打ち出している今も、思い出すだけで指先が冷えて指がもつれそうだ。

 私が次に味わう地獄は、「帰ってきたウルトラマン」のウルトラマンがリピアじゃない問題だと思っていた。
 ところがどっこい、単純に特撮として楽しもうとしていたシン・仮面ライダーに、私ですら想像しなかった私だけの地獄がねじ込まれていた。

 ずっとかの人には、命を投げ打って人類を守ろうとするくらいなら、いっそ人類をを滅ぼしてくれと思っていたが、こうして怪人といえど元は普通の少女に対して躊躇なく発砲する斎藤工を見たら、指先が冷たくなった。やはりその願望は頭に“そんなことをするくらいなら”が付くもので、追い詰められた最後の願いであって本心ではないのだろう。春の野で膝を抱えて薄青い空をぼんやり眺めていて欲しい。それに尽きる。

 そうした本心に気づかせるためにあのシーンは入れられたのだろうか。私にはわからない。エヴァでウルトラマンの概念の集合体とも言えるカヲルくんが、どのルートでもだいたい死ぬ理由もわからない。
 シン・ウルトラマンを観るまでカヲルくんがウルトラマンの概念だと知らなかった。知ってからというもの、エヴァが恐ろしくて見返すことができない。観ようとするだけで「どうして、どうして」と呻きながらリストカットしそうになる。

 ガンダム「水星の魔女」で「逃げれば一つ、進めば二つ」という思想が出てくる。私はその思想を聞いて暫くして思ったのは、「その思想がいつかスレッタを戦地に立たせ、死に追いやるのではないか」だった。しかしシーズン1で描かれた行く末は、私の想像を易々と超えるものだった。戦地に追いやるどころか、戦地に躊躇いもなく立つ兵士にしてしまった。
 その時味わった苦味と、シン・仮面ライダーに添えられた地獄は近い味がした。けれどこちらは三つ子の魂と呼べるくらいずっと昔から抱え続けたものだから、苦味はずっと鋭いしまだ口から消えてくれない。

 シン・仮面ライダーを公開初日に観るにあたって、正直に言うと期待していたのだ。シン・ウルトラマン公開から一年弱かけてもまだ消化しきれない地獄を、仮面ライダーが塗り替えてくれるのではないかと。
 しかし、くしくもと言うべきか、シン・仮面ライダーはハッピーエンドとは言い難い結末を迎えるのに対し、観終わった後は腹の底から力が湧くような、爽やかで熱い気持ちを残してくれた。ただただ生きる活力を惜しみなくわけてくれる反面、私に新しい地獄を与えてはくれなかった。

 私の地獄は神永新二の形をしている。

 そう腹を括って生きていくしかないのだろう。生きている限りこの地獄は続くのだから。
 いやどういう締め括り方だよと我ながら思うが、実情がそうとしか言いようがないのだから仕方ない。だってどうせ帰ってこねぇしリピア。エヴァであれだけカヲルくんが死んでんだぞ。どこに希望を見出せってんだよ。くれ、希望。頼むから。


【2023/03/18追記】
 読んだ人に多大な誤解を与えるかもしれない、と思ったものの、真夜中の怪文書を読み返してニュアンスの修正をする気にもなれないので追記します。
 上記で過激な発言がちらほら出たような気がするんですが、「○○の部分は解釈違い!即刻削除しろ!」という意図はありません。
 どちらかというと「何百億ものお金をかけたハリウッドでもこんな気持ちを味わったことはなかった。素晴らしい作品をありがとう、庵野監督!」と笑顔で言いながら自分のこめかみに銃口を突きつけています。世界規模で売り出すレベルの映画を何本も観てきたはずなのに、こんな地獄(賞賛)を味わったことは一回もないんだから、本当にすごいことだと思います。
 日本のエンターテイメントの歴史上、ここまで恵まれた期間は他になかったのでは?と時々思ってはちょっとこの先の人生が怖くなったりもします。凄い時代をわたしは生きている…

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