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リスク管理で考える買占め騒動対策(370号)

少し前になりますが、2024/8/8の日向灘での地震を契機として、南海トラフ地震臨時情報が発表されました。

南海トラフ地震臨時情報は、南海トラフ地震の発生懸念が高まったと判断された時に発表されるものです。

この発表の後、センセーショナルな報道が相次いだこともあり、水などの飲料やインスタント食品やお米が売り切れになる、またその売り切れ報道によってさらに危機感を持つ人が増えるという典型的な買い占め騒動が起きました。

こういった現象はある種のリスクです。
今回は、リスク管理の視点でリスクへの備えについてお話します。

なお、この記事では「米不足というリスクへの備え」を書いています。
既に起きている「米不足への対処方法」ではありませんので、ご注意ください。

なぜ買い占めが起きるのか?

買い占め行動が良いことだという人はほとんどいないでしょう。
にも関わらず、昔も今も買い占めに走る人が一定数います。

マスコミは見てもらうこと、ひいては売れることが第一になります。
可能な限り、衝撃的な映像や写真で気持ちを煽ろうとします。

そういった報道を見た人が近所のスーパーや小売店で必要以上に買い込めば、当然品薄になります。それを見た人がさらに「なら商品があるうちに」と買い込むという悪循環に陥ります。
こうして、マスコミが再度センセーショナルにそれを取り上げる、という流れが作られ、火に油を注ぎ、より多くの方が買い占めに走ることになります。

こう書くとマスコミが諸悪の根源のようですが、彼らも商売である以上それを止めることは難しいのが現実です。

こういった行動に走らないためには冷静さが必要です。
ですが、マスコミによるセンセーショナルな情報が主たる情報源となっていると、冷静さを保つことは難しいだろうと思います。

この対策としては情報収集のルートを拡げること、言い換えればテレビや新聞以外の信頼できる情報源を活用することが有効です。
流通業や卸業の友人に話を聞くのも良いですし、ネットを活用して商品の供給状況を調べる方法もあります。

リスク管理視点で買い占め対策を考える

これをリスク管理視点で考えると、少し行動パターンが変わるかもしれません、というのが今回のテーマです。

一般にリスク管理の視点では以下の4パターンから対応を考えます。

1)回避
 →リスクが発生しないように対策する
2)低減
 →リスクの発生頻度を下げる
 →リスクが発生した時のダメージを下げる
3)転稼(移転)
 →リスクは仕方ないものとし、別の対策を行う。
4)受容(保有)
 →リスクを許容範囲として受け入れる。

「この4つの項目は見たことあるゾ」という方、ご愛読感謝です。
丁度1年前に同じテーマで記事を書いています。

 No323 リスク管理の最初の一歩
 https://note.com/egao_it/n/nf3daf9746552

今回の買い占め対策をこの4つの視点で考えてみましょう。

なお、冒頭にも書いた通り、この記事での視点は「米不足というリスクへの備え」にあります。 進行中の米不足への対処方法については論じません。

リスクを回避する

リスク回避というのは、そのリスクが発生しないようにすることで、そもそものリスクをなくしてしまうことです。

操作が危ない機械を新機種に変更する、高所作業を止めて地上作業となるように手順変更する、といった対応がリスク回避の代表的な例です。

同様に米不足のリスク回避策を考えると、一番カンタンなのは米を食べないことです。
パンやパスタといった米以外の穀物を使った食材に切り換えるわけです。

米を食べなければ、当然米不足になっても何も困りません。

さすがに全く米を食べないのは少々現実離れしていますが、パンやパスタを使う率を今よりも高くすることでも十分なリスク回避の効果があります。

一方で、小麦に頼ることは、小麦不足のリスクを抱えることにもなります。
その意味で、米と小麦をスイッチしやすい食生活とすることは、リスク分散の意味でも有用です。

リスクを低減する

リスクの低減というのは、リスクの発生率を低く抑えたり、リスクの顕在化によるダメージを小さくすることを言います。

米不足は社会で起きることですから個人の力では低減できません。ですが、自宅の米不足のリスクを減らす方法はあります。

日常的に米の買い置きをすればいいのです。
これはローリングストックなどと呼ばれる方法ですが、米が足りなくなってから買いに行くのではなく、備蓄分を開封した時に次を買っておく方式です。

これなら、 米不足で店頭になくなっても備蓄が1袋あるわけですから、米不足のリスクはかなり低くできます。

1袋分では不安だというのであれば、2袋を備蓄すれば良いだけです。

リスクを転稼(移転)する

3つ目の方法は、リスク転稼(移転)です。

これは、リスク発生時のダメージを他の方法で補うことです。

機械の故障に備えて損害保険に入る、故障時に即日訪問してくれるような保守契約に加入する、といった対応がリスク転稼の対策となります。

米不足のリスク転稼策としては、仕入れ先との定期契約があります。

お弁当屋さんは大量の米を消費しますが、毎日スーパーでお米を買うことはしません。
この方法だと、手間もかかりますし、いつもの銘柄が品切れの時にスーパーをはしごして探さないといけなくなります。
使うお米が変われば、味が変わってお客さんのクレームにもなりかねません。

だから、通常は同じ質の食材を安定して納品(供給)してくれる仕入れ先(食品商社など)と定期契約をしています。
契約しておけば、多少の米不足でも供給元が責任を持って同じ質のお米を納品してくれるからです。

家庭でも、近所のお米屋さんと毎月お米を配達してもらう期間契約をしておけば同様の担保ができます。

これがリスク転稼の例です。

もちろん、この方法もパーフェクトではありません。
一般に供給側には供給責任がありますので、そのリスクを負う分、価格が高くなります。
購入側からしても 「今日はこの銘柄が安いからこっちにしよう」と選択する余地がなくなります。

つまり、米不足へのリスク回避方法としては定期契約は役に立ちますが、コスト面では不利になります。
このコストの不利と安定供給のどちらを選ぶかを考えることこそが「リスク管理」なのです。

リスクを受容(保有)する

4つ目はリスクを受け入れる対策です。

一般に「リスク管理」というと、全てのリスクに対して対応することと考える人が多いですが、対策できないリスクや、対策を考えるまでもないリスクがあります。

例えば、停電が良い例です。
大半の企業では停電というリスクを受け入れています。

確かに、一部の業種では自家発電設備を持つなどリスク回避(もしくはリスク軽減)を行う場合があります。
例えば、化学製品の工場では一瞬でも電気が止まれば製造途中の半製品が全てパーになる可能性があります。データセンターではお客さんのサーバを止めてしまえば信用に関わります。
いずれも受容できないリスクだから対策を取っているわけです。

また、リスク対策のやりすぎも困りものです。
出張時の交通事故をゼロにするために出張を禁止、食中毒のリスク回避のため愛妻弁当を禁止、などは余計なお世話でしかありません。

これを米不足に適用すると「別に米がなくったって死にゃせんのだから、テキトーにあるもん食ってりゃいいよ」となります。

この前提に立つと、具体的なリスク対策は不要になりますよね。
これが、リスクを受容するということです。

最後に、リスク受容はリスクを放置するのとは全く異なるというお話をしておきます。

リスクを十分に認識し、検討した上で「特段の準備をしない」ことを選択するのはリスク受容です。
一方、リスクを認識できておらず、対策の必要可否の検討もできていない状態はリスクを放置している状態です。
特段の準備をしていない点だけを見ると両者は似ていますが、リスクコントロールの視点では、全く違うものです。

まとめ

8月に九州沖で地震があり、南海トラフ地震臨時情報が発表され、その後、飲料水や米が店頭から消えました。
いずれも一時的なものとはいえ、マスコミ報道をきっかけとして一連の買い占め行動を行う人々がいることは残念でなりません。

こういった不測の事態に備えるには、リスク管理の考え方がとても役に立ちます。

リスク管理というと組織に起きる様々な事象への対処方法を思い浮かべますし、実際そのような使われ方をしています。
ですが、リスク管理は別に会社専用でもなければ、組織専用でもありません。

今回は、米不足というテーマに対して、個人が取りうる対策を、リスク管理視点からお話してみました。
リスク管理が個人でも組織でも巾広く使えるツールであると感じていただければ幸いです。

次回もお楽しみに。

ご報告

二週連続でのご報告となりますが、来たる2024年10月3日(木)~4日(金)に「けいはんなビジネスメッセ」に出展いたします。

この「がんばりすぎないセキュリティ」の宣伝や本業であるセキュリティセミナーのご紹介をさせていただく予定です。

 けいはんなビジネスメッセ2024に出展します。  
 https://note.com/egao_it/n/nb9326b456d33

「しみずがどんな奴か見てみたい」など興味本意でも構いません。
当日はブース37でお待ちしています。ぜひお立ち寄りください。

皆様とお会いできることを心から楽しみにしています。

今後とも「がんばりすぎないセキュリティ」へのご支援をよろしくお願いします。

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