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黒い犬第一回研究報告会『犬のペスト』

2021.07.31〜08.01ウイングフィールド

黒い犬『犬のペスト』を観た。
にんげんにもたらされた感染症で死に至る犬たちと犬の街のものがたり(ざっくりすぎる説明)
今、ここから何を読み取るか、ということも考えたいが、描かれたキャラクターや発せられた言葉が魅力的で、ストーリーにも受け取り方の幅があって、単純に楽しかった。
物語に叫びを刻むこと、物語に生と死を閉じ込めること。ピリオドを打つ。保存される。土に埋める。開かれたら、もう一度。捨てられても、語られれば。
今この世界で起きていること、今までおきたそれについて考えれば、もうこのおはなしについては「おしまいになる」しかないのだけれど、そのなかにおいてもキャラクターが何を選び、捨て、守り、どうなったのか。別に一つにならなくてもいいし、でも一人じゃないことはたぶんなにかの救いになるし、そうしてただ凄惨ではない「おしまい」をながめることで、ぼんやり、ほんのりとした「その先」を想像することもできて、物語から標を得るというよりエンタメに力をもらった、という意味で、心強さが身のうちに残った。
演出も好みだった。
シンプルな電飾とポータブルの灯りのみ、照明・映像・SE・BGMなし。それでもじっとりとした湿気を地中深くに孕んだ乾いた街の風景が見える。コンクリと砂利が擦れる音が聞こえる。
開場前のほどよい雑踏感のある音声と、空間と空間を繋げるようなラフな映像と舞台の様相も良かった。そのラフさからたった一息で別空間になってしまう「舞台」のすごさも改めて実感できるような気がした。

気づきがあるもの、学びがあるもの、も素晴らしいが、今このタイミングで楽しいことに浸りたい気持ちもある。
あらゆることを調べて検討して判断して頭を痛めることは、現実でもやってる。
パッパラパーについてはしゃぎたいわけじゃない。
でも、楽しいことにだって、触れたい。
そこに、潜んでてほしい。暴くんじゃなくて、楽しく見つけにいきたい。

おそらくこのプロジェクト・団体の目論見通り、作られる過程も眺めていてそれも含めて面白かった。
制作ごとの話合いについても面白かった。制作ごとはこっち(客)に近いとこにある。メンバー(作演役者)がそこもやっているので普段よりぐっと距離が近い感じがした。舞台と客席との距離感や、物理的人と人の距離感を詰めるより、個人的には居心地がいい。
実際の現場に行ってみて、あらゆることにおいて「すごく…信じられている…!!(性善説だ…!!)」と思ったので、こっちも信頼?信用に足るように動こうと思ったし、来る人たちみんなでそうあれたらいいなあ、と思った。
演劇を観る(空間を共有する)ことはその場の全員で共犯者になることだ、とたまに聞くけど、劇場と現実の境目からもそのけが強いな今回は、と思った。

ものづくりが好きなのである。
手練たちが、自分の得意分野や経験を手札に、自由に、すり合わせて、紆余曲折して、外部に翻弄されて、それでもなにかをしよう、ということを余すことなく見せてくれて嬉しい。
勇気が出る。羨ましさもある。いいなあ。


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