主の公現の祭日・入祭唱(グレゴリオ聖歌逐語訳シリーズ19)

主の公現の祭日・入祭唱(グレゴリオ聖歌逐語訳シリーズ19)

 GRADUALE TRIPLEX pp. 56-57; GRADUALE NOVUM I pp. 43-44.

 東方の(三)博士が来訪して幼子イエスを拝んだことを記念し,これを,神の救いが異邦人(「選民」ユダヤ人の対概念)を含む全世界に示されたできごとととらえて祝う祭日。毎年,1月6日。ただし,1月6日に皆が教会に来るのが難しいことが多い地域(日本も該当する)では,1月2日~8日の間にくる主日に移して祝われることになっている。それだけ重要な祭日だからである。今年2019年は1月6日がちょうど日曜なので,全世界で同じ日にこの祭日が祝われることになる。

IN EPIPHANIA DOMINI 主の公現(顕現)にあたって
● "Epiphania" は "Kyrie eleison" や "Christus" などと同じく,ギリシャ語を訳さずにそのままラテン語に取り入れたものである。
● ラテン語での発音は「エピファニーア」(ここでは奪格なので最後も長母音となり「エピファニーアー」)で,強勢は「ニー」にある。

Antiphona ad introitum 入祭のための交唱

【テキストと全体訳】

〔リフレイン:〕
ECCE advenit dominator Dominus : et regnum in manu eius, et potestas, et imperium.
Ps.
Deus, iudicium tuum regi da : et iustitiam tuam filio regis.
(リフレイン:Ecce advenit ...)
Reges Tharsis et insulae munera offerent : reges Arabum et Saba dona adducent.(リフレイン:Ecce advenit ...)
Et adorabunt eum omnes reges terrae : omnes gentes servient ei.(リフレイン:Ecce advenit ...)

〔リフレイン:〕
見よ,主が支配者として到来なさっている。王国も権力も支配権も,彼の手中にある。
詩篇唱:
神よ,あなたの公正さを王にお与えください。あなたの正義を王の息子に(お与えください)。(リフレイン)
タルシシュと島々との諸王は貢物を差し出すであろう。アラビア人とサバとの諸王は贈り物を持参するであろう。(リフレイン)
そして彼を地上のすべての王が拝むであろう。すべての民族が彼に従うであろう。(リフレイン)

【対訳,元テキストとの比較】

ECCE advenit dominator Dominus :
見よ,主が支配者として到来なさっている。
元テキスト:マラキ書第3章第1節??
● GRADUALE TRIPLEXはこの箇所を参考箇所として挙げているが,あまりにも断片的に一致する要素があるばかりなので,本当にここが元になっているのかどうか分からない。Vulgataでの同節は次のとおり。

Ecce ego mitto angelum meum,
見よ,私は私の使者を送る,

et praeparabit viam ante faciem meam:
彼は私の顔の前に道を準備するであろう。

et statim veniet ad templum suum Dominator quem vos quaeritis,
そしてすぐ,あなたたちが探している支配者が自分の神殿に来るであろう

et angelus testamenti quem vos vultis.
またあなたたちが望んでいる契約の使者が。

Ecce venit, dicit Dominus exercituum.
見よ,彼が来る,と万軍の主は言われる。

("Dominus" は「来る/到来する」者としては登場していないので,敢えて太字にしていない。)
 元テキストと考えるのによりふさわしい箇所がないかとコンコーダンスで少し探してみたが,見当たらなかった。
 入祭唱に引用されていないものの,「あなたたちが探している支配者」という箇所は,イエスがどこで生まれたのか尋ねまわって行った博士たちを思わせるものがある。また,やはり入祭唱に引用されていないが,「あなたたちが望んでいる契約」という箇所は,この祭日が「異邦人にも開かれるようになった救い」つまり新約(新しい契約)の序章を祝うものであることを思うと面白い。

et regnum in manu eius, et potestas, et imperium.
王国も権力も支配権も,彼の手中にある。
元テキスト:歴代誌上第29章第12節,ただしこれも自由な利用。Vulgataでの同節は次のようになっている。エルサレム神殿(第一神殿)の建設のため,ダビデ王をはじめ地位の高い人々が宝石や金属を寄贈し,そこで喜びをもってダビデ王が唱えた神を讃美する祈りの一部である。

Tuae divitiae, et tua est gloria:
宝はあなたのもの,栄光もあなたのもの。

tu dominaris omnium.
あなたはすべてのものを支配なさる。

In manu tua virtus et potentia:
あなたの手中に強さと力がある。

in manu tua magnitudo, et imperium omnium.
あなたの手中に威厳と,すべてのものに対する支配権がある。

Ps. Deus, iudicium tuum regi da :
(詩篇唱)神よ,あなたの公正を王にお与えください。
元テキスト:詩篇第71編第2節。

et iustitiam tuam filio regis.
またあなたの正義を王の息子に(お与えください)。
元テキスト:同上。
● ここまでの部分は,「王であるキリスト」の祭日の入祭唱にも用いられている箇所。

Reges Tharsis et insulae munera offerent :
タルシシュと島々との諸王は貢物を差し出すであろう。
元テキスト:同詩篇第10節。

reges Arabum et Saba dona adducent.
アラビア人とサバとの諸王は贈り物を持参するであろう。
元テキスト:同上。

Et adorabunt eum omnes reges terrae :
そして彼を地上のすべての王が拝むであろう。
元テキスト:同詩篇第11節。

omnes gentes servient ei.
すべての民族が彼に従うであろう。
元テキスト:同上。

【逐語訳】

Ecce 見よ,ほら
●「見よ」といっても動詞の命令法ではなく,基本的に副詞(たまに間投詞)に分類される語である。

advenit 到来する(動詞advenio, advenireの直説法・能動態・現在時制・3人称・単数の形)

dominator 支配者として
● これと次の "Dominus" と,同格(主格)の名詞が2つ並んでいる。こういうときは片方(前後どちらの名詞でもよく,文脈判断する)が「~として」の意味であることがあり,今回はそれにあたると考えた。

Dominus 主が

et ... et ... et ... ~も~も~も
● "et regnum in manu eius, et potestas, et imperium" の部分にある3つの "et" をこの意味にとる。

regnum 王国(主格)

in manu eius 彼の手の中に(manu:手〔奪格〕,eius:彼の)

potestas
力,権力,支配(主格)

imperium
命令,権力,支配権,帝国(主格)

(詩篇唱)

Deus 神よ

iudicium tuum
あなたの公正を,あなたの裁きを(iudicium:公正を/裁きを,tuum:あなたの)

regi
(<rex) 王に

da 与えてください(動詞do, dareの命令法・能動態・現在時制・2人称・単数の形)

et
(英:and)

iustitiam tuam あなたの正義を(iustitiam:正義を,tuam:あなたの)

filio regis 王の息子に(filio:息子に,regis:王の)

Reges 王たちが

Tharsis タルシシュの(上の "Reges" にかかる)

et
(英:and)

insulae
島々の(上の "Reges" にかかる)

munera (<munus, muneris) 税を,貢物を,朝貢を,奉仕を,贈り物を,奉納物を(複数形)

offerent 示すだろう,差し出すだろう,供するだろう,捧げるだろう(動詞offero, offerreの直説法・能動態・未来時制・3人称・複数の形)

reges 王たちが

Arabum
アラビア人たちの(上の "reges" にかかる)

et(英:and)

Saba サバの(上の "reges" にかかる)
● 手元の辞書によればこれは格変化する名詞(第1変化名詞)であり,そうであれば属格(「~の」)は "Sabae" という形になるはずだが,なっていない。しかしここは明らかに「サバ」という意味だと考えられ,(ラテン語にとっての)外来固有名詞がしばしば無変化である例の一つだということになる。試みに,Vulgataに "Sabae" という形が一度でも出るかどうか検索してみたが,1つもなかった。

dona (<donum) 贈り物を,奉納物を(複数形)

adducent 持ってくるだろう(動詞adduco, adducereの直説法・能動態・未来時制・3人称・複数の形)

Et(英:and)

adorabunt 礼拝するだろう,崇拝するだろう,伏拝するだろう(動詞adoro, adorareの直説法・能動態・未来時制・3人称・複数の形)

eum 彼を

omnes
reges すべての王たちが(omnes:すべての,reges:王たちが)

terrae
地の,地上の(上の "reges" にかかる)

omnes
すべての

gentes
民族が(複数形)

servient しもべ/はしためとなるだろう,従うだろう,仕えるだろう(動詞servio, servireの直説法・能動態・未来時制・3人称・複数の形)

ei 彼に,彼に対して(与格)

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教会音楽家・神学部学生(WWU Münster)。おもにグレゴリオ聖歌の訳と解説を投稿しています。ほかに第2の専門である音楽理論の話など。