入祭唱 "Deus in loco sancto suo" (グレゴリオ聖歌逐語訳シリーズ87)

 GRADUALE ROMANUM (1974) / GRADUALE TRIPLEX p. 310; GRADUALE NOVUM I pp. 32–33.
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【教会の典礼における使用機会】

【現行「通常形式」のローマ典礼 (1969年のアドヴェントから順次導入された) において】

 1972年版Ordo Cantus Missae (GRADUALE ROMANUM [1974] / TRIPLEXはだいたいこれに従っている) では,聖家族 (イエス,マリア,ヨセフ) の祝日 (12月26~31日にくる日曜日,この間に日曜日がないときは12月30日),年間第17週 (奇数年の金曜日を除く),ラテラーノ大聖堂 (ラテラン教会) 献堂の祝日 (11月9日) に割り当てられている。ほかに,次の機会に用いることができる歌 (それぞれ複数の選択肢がある中の一つ) として指定されている。

  •  教会献堂あるいはその記念のためのミサ (献堂される/記念される教会自体以外の教会で行う場合)

  •  婚姻が行われるミサ

  •  公会議または司教会議のためのミサ

  •  キリスト者の一致のためのミサ

  •  一般社会 (国) における年始のためのミサ

 2002年版ミサ典書でも,この入祭唱は年間第17主日と教会献堂式のところに載っているが,上に挙げたそれ以外の諸機会のところには,それぞれ別の入祭唱が記されている。

【20世紀後半の大改革以前のローマ典礼 (現在も「特別形式」典礼として有効) において】

 AMSにまとめられている8~9世紀の諸聖歌書でも,1962年版ミサ典書でも,「聖霊降臨後第11主日」に割り当てられている
 

【テキスト,全体訳,元テキストとの比較】

Deus in loco sancto suo: Deus, qui inhabitare facit unanimes in domo: ipse dabit virtutem et fortitudinem plebi suae.
Ps. Exsurgat Deus, et dissipentur inimici eius: et fugiant, qui oderunt eum, a facie eius.
【アンティフォナ】神が御自身の聖所にいらっしゃる,心を一つにする者たちを (一つの) 家にお住まわせになる神が。彼は御自身の民に力と強さとをお与えになるであろう。
【詩篇唱】神が立ち上がってくださいますように,そして彼の敵どもが散らされますように。彼を嫌う者どもが彼の顔から逃げ去りますように。

 アンティフォナの出典は詩篇第67篇 (ヘブライ語聖書では第68篇) 第6,7,36節である (どの節も一部だけが用いられている)
 
テキストはだいたいローマ詩篇書に一致している。唯一の相違点は,アンティフォナで "unanimes" となっているところがローマ詩篇書では "unianimes" と書かれていることだが,これは同じ語の別形にすぎない。しかも,実はAMS (第183欄) にまとめられている8~9世紀の諸聖歌書では "unianimes" となっている。

 詩篇唱に用いられているのも同じ詩篇第67 (68) 篇であり,ここに掲げられているのはその第2節 (実質的な最初の節) である。
 テキストはVulgata=ガリア詩篇書に一致している。ローマ詩篇書も,"qui oderunt eum" と "a facie eius" とが逆の順番で現れること以外は同じであり,順番の相違によって意味が変わることもない。

 (「ローマ詩篇書」「Vulgata=ガリア詩篇書」とは何であるかについてはこちら。)
 

【対訳・逐語訳 (アンティフォナ)】

Deus in loco sancto suo:

神が御自身の聖所にいらっしゃる,

Deus 神が
in loco sancto suo 自身の聖なる場所に (loco:場所 [奪格],sancto:聖なる,suo:自身の)

  •  英語でいうbe動詞を補って考える。

Deus, qui inhabitare facit unanimes in domo:

心を一つにする者たちを (一つの) 家にお住まわせになる神が。

Deus 神が
qui (関係代名詞,男性・単数・主格) ……直前の "Deus" を受ける。
inhabitare 住む (動詞inhabito, inhabitareの不定法・能動態・現在時制の形)
facit ~させる (英:makes) (動詞facio, facereの直説法・能動態・現在時制・3人称・単数の形) ……ここでは使役動詞として用いられている。使役動詞といえば直接目的語および不定詞とともに用いられるものだが,ここでは,直接目的語は直後の "unanimes",不定詞は直前の "inhabitare" である。
unanimes 同じ考えの者たちを,心を一つにしている者たちを …… "unianimes" ともいう。
in domo 家 (単数) に (domo:家 [奪格])

  •  もとの聖書での文脈はともかくとして,この入祭唱のテキストだけを読めば,この箇所は直前の文 "Deus in loco sancto suo" の主語 "Deus" を補足説明しているように感じられ,そしてどうやらそう考えてよさそうである。アウグスティヌスがこれらの箇所をひとまとめにして語っているからである。

「主はその聖所におられる」。[……]「同じ思いでその家に住むようにされる神」と言うとき,詩編記者は,神の場所が何であるかを明らかにした。一つ心,同じ思い,それが主の聖なる場所である。[……] 神をわたしたちから離れたところに探し求めることのないように,むしろわたしたちが「同じ思いでその家に」住まい,神ご自身がわたしたちの間に住まうことを嘉しとされるようになるべきであると。そのところこそ,主の聖なる場所であり,多くの人々が祈りの聞かれるところとして探し求める場所である。探し求めるところそのものに自らが成るべきなのである。[……] 神の聖なる場所とは,「家において同じ思い,同じ心持ちで住むように神がなしたもう」ところである。

『アウグスティヌス著作集』第19巻I [詩編注解 (3)],教文館,2020年,pp. 359–360

ipse dabit virtutem et fortitudinem plebi suae.

彼は御自身の民に力と強さとをお与えになるであろう。
別訳:彼御自身が,御自身の民に (……)

ipse 彼自身が;彼が ……本来は前者の意味だが,教会ラテン語では単に後者の意味でも用いられる。
dabit 与えるであろう (動詞do, dareの直説法・能動態・未来時制・3人称・単数の形)
virtutem 力を
et (英:and)
fortituinem 強さを
plebi suae
自らの民に (plebi:民に,suae:自身の)

 

【対訳・逐語訳 (詩篇唱)】

Exsurgat Deus,

神が立ち上がってくださいますように,

exsurgat 立ち上がりますように,立ち上がるべし (動詞exsurgo, exsurgereの接続法・能動態・現在時制・3人称・単数の形)
Deus 神が

et dissipentur inimici eius:

そして彼の敵どもが散らされますように。

et (英:and)
dissipentur 散らされますように,散らされるべし (動詞dissipo, dissipareの接続法・受動態・現在時制・3人称・複数の形)
inimici eius 彼の敵どもが (inimici:敵どもが,eius:彼の)

et fugiant, qui oderunt eum, a facie eius.

彼を嫌う者どもが彼の顔から逃げ去りますように。

et (英:and)
fugiant 逃げ去りますように/逃げ去るべし,遁走しますように/遁走すべし (動詞fugio, fugereの接続法・能動態・現在時制・3人称・複数の形)
qui (関係代名詞,男性・複数・主格) ……漠然とした先行詞を含んでいる。英語なら "those who" となるところ。
oderunt 嫌う (動詞odi, odisseの直説法・能動態・完了時制の顔をした現在時制・3人称・複数の形)
eum 彼を
a facie eius 彼の姿から,彼の顔から (facie:姿,顔 [奪格],eius:彼の)


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