拝領唱 "Amen dico vobis, quidquid orantes" (グレゴリオ聖歌逐語訳シリーズ7)

 Graduale Romanum (1974) / Graduale Triplex, p. 368 (これら2冊の内容は四線譜の上下のネウマの有無を除けば基本的に同じだが,本文中で言及するときは,煩雑を避けるため後者のみ記す); Graduale Novum I, p. 261.
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更新履歴

2024年11月1日 (日本時間2日)

  •  現在の方針に合わせ,全面的に改訂した (記事タイトルの変更, 「教会の典礼における使用機会」および「テキスト,全体訳,元テキストとの比較」の部の新設,対訳の部と逐語訳の部との統合などなど)。

2018年11月15日

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【教会の典礼における使用機会】

【現行「通常形式」のローマ典礼 (1969年のアドヴェントから順次導入された) において】

 1972年版Ordo Cantus Missae (Graduale Triplexはだいたいこれに従っている) では,今回の拝領唱は次の諸機会に割り当てられている。

  •  年間第8週の金曜日 (ほかの選択肢あり)

  •  年間第9週 (ほかの選択肢あり)

  •  年間第33週 (A年の主日と毎年の水・金曜日を除く)

  •   「種々の機会のミサ」のうち「キリスト者の一致のため」のミサ (復活節にはほかの選択肢あり,というより専らそちらを用いることになっていると思われる) 

 2002年版ミサ典書においては,PDF内で "Amen dico vobis" や "quidquid orantes" をキーワードとする検索をかけて見つけることができた限りでは,今回の拝領唱は次の諸機会に割り当てられている。

  •  年間第9主日 (ほかの選択肢あり)

  •  年間第33主日 (ほかの選択肢あり)

 こちらでは「キリスト者の一致のため」のミサには3つの式文が用意されているが,そのいずれにおいても拝領唱としては別のテキストが記されている。

【20世紀後半の大改革以前のローマ典礼 (現在も「特別形式」典礼として有効) において】

 1962年版ミサ典書では,PDF内で "quidquid orantes" をキーワードとする検索をかけて見つけることができた限りでは,今回の拝領唱は聖霊降臨後第23以降の主日に割り当てられている。
 聖霊降臨後主日の数は復活祭の (それによる聖霊降臨祭の) 日取りによって23~28の間で毎年増減するが,これが24以上ある年も,固有唱については第23主日のものを繰り返し用いるのである (祈願文や朗読は変わる)。

 AMSにまとめられている8~9世紀の6つの聖歌書のうち,拝領唱に関係ある5つの聖歌書においては次のようになっている。

  •  R (Rheinauライナウ):降誕前第5主日 (今でいうアドヴェント [=待降節] 第1主日の1週間前ということ) (AMS第0欄)

  •  B (Montモン-Blandinブランダン), K (Corbieコルビ), S (Senlisサンリス):聖霊降臨後第23主日 (AMS第198欄)。そして第24以降の主日についての記載はない

  •  C (Compiègneコンピエーニュ):なし (聖霊降臨後第23主日の聖歌を記したページは失われている)

 RとB, K, Sとは,降誕祭を起点に前に数えていったか聖霊降臨祭を起点に後ろに数えていったかの違いはあるが,いずれにおいても,少なくとも今でいうアドヴェント第1主日の1週間前の主日 (今の考え方でいう,典礼暦上の一年の最後の主日) において今回の拝領唱が歌われていた点は共通だといえる。
 そしてB, K, Sで聖霊降臨後第24以降の主日について何も記されていないところを見ると,少なくともこれらにおいては1962年版ミサ典書同様,聖霊降臨後第23主日の聖歌がアドヴェントに入る直前までずっと用いられたのだろうと思われる。Rにおいてどうだったのかはこれを見ただけだとよく分からず,気になるところである。
 

【テキスト,全体訳,元テキストとの比較】

Amen dico vobis, quidquid orantes petitis, credite quia accipietis, et fiet vobis.
アーメン,私はあなたたちに言う。何であれあなたたちが祈り求めるものは,それを受け取ることになると信じなさい。そうすれば,あなたたち (のため) にその通りになるだろう。

 マルコによる福音書第11章第23–24節が用いられているが,要約するような形で一部の言葉が省略されている (拝領唱にはよくあること)もとになっているテキストはVulgataではない可能性もあるが,とりあえずVulgataのテキストを次に示す (太字はこの拝領唱に対応する部分)。

[23] amen dico vobis
アーメン,私はあなたたちに言う。

quicumque dixerit huic monti tollere et
mittere in mare
誰であれ,この山に向かって取られ海の中に投げ込まれるよう言い,
et non haesitaverit in corde suo
(その際) 自身の心のうちでためらわず,
sed crediderit quia quodcumque dixerit fiat fiet ei
何であれ言ったことはその通りになると信じるならば,彼 (のため) にその通り成るだろう。
24 Propterea dico vobis
それゆえ私はあなたたちに言う。
omnia quaecumque orantes petitis
あなたたちが祈って願い求めることはすべて,
credite quia accipietis et veniet vobis
それを受け取ることになると信じなさい。そうしたらあなたたち (のため) にその通りになるだろう。


【対訳・逐語訳】

Amen dico vobis,

アーメン,私はあなたたちに言う,

amen アーメン
dico 私が言う (動詞dico, dicereの直説法・能動態・現在時制・1人称・単数の形)
vobis あなたたちに

quidquid orantes petitis, credite quia accipietis,

訳1:何であれあなたたちが祈り求めるものについては,それを受け取ることになると信じなさい,
訳2:何であれあなたたちが祈り求めるものをあなたたちは受け取ることになると信じなさい,

quidquid 何であれ~するものを,すべての~を (英:whatever) (不定関係代名詞,中性・単数・対格) …… "quidquid orantes petitis" が一つの関係詞節を成しており,この節の中では "quidquid" は "petitis" の目的語の役割を果たしているので対格。
orantes 祈りながら,祈って (動詞oro, orareをもとにした現在能動分詞の男性・複数・主格の形)
……英語の "-ing" 形でも行われることがあるように,分詞によって付帯状況を示している。複数・主格なのは,この文の主語 (述語動詞 "petitis" の中に隠れている) である「あなたたちが」に合わせてのこと。
……女性・複数・主格も同形。ただ,このイエスの言葉が言われている相手には少なくともペトロが含まれており,つまり最低1人の男性が含まれている。男性も女性も含む集団についていうときにはラテン語では男性形を用いるので,男性形であると判断した。
petitis あなたたちが得ようと試みる,あなたたちが欲する,あなたたちが乞う,あなたたちが要求する (動詞peto, petereの直説法・能動態・現在時制・2人称・複数の形)
credite 信じなさい (動詞credo, credereの命令法・能動態・現在時制・2人称・複数の形)
quia ~ということを (英:接続詞としてのthat) …… "quia" は本来「なぜなら~から」(英:because) という意味だが,古代末期以降のラテン語 (つまり教会ラテン語も) では単にこういう意味のことがある。
accipietis あなたたちが受け取ることになる (動詞accipio, accipereの直説法・能動態・未来時制・2人称・複数の形)

et fiet vobis.

そうすれば,あなたたち (のため) にその通りになるだろう。
直訳:そうすればそれが起こるだろう,あなたたちに。

et (英:and)
fiet それが成るだろう,それが起こるだろう (動詞fio, fieriの直説法・能動態・未来時制・3人称・単数)
vobis あなたたちに,あなたたちのために (与格)

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