入祭唱 "Cantate Domino canticum novum" (グレゴリオ聖歌逐語訳シリーズ75)

 GRADUALE ROMANUM (1974) / GRADUALE TRIPLEX p. 225; GRADUALE NOVUM I p. 198.
 gregorien.info内のこの聖歌のページ
 

【教会の典礼における使用機会】

 1970年のOrdo Cantus Missae (GRADUALE ROMANUM [1974] / TRIPLEXおよびGRADUALE NOVUMはこれに従っている) では,復活節第5週に割り当てられている (水曜日を除く)2002年版ミサ典書でも復活節第5主日に割り当てられているが,続く週日は毎日異なる入祭唱を持っている。

 先の典礼改革 (1969年から順次導入された) より前の暦でも,この入祭唱が用いられるタイミングは同じである。ただし,こちらでは「復活節第5主日」ではなく「復活後第4主日」という呼び方をする。
 

【テキスト,全体訳,元テキストとの比較】

Cantate Domino canticum novum, alleluia: quia mirabilia fecit Dominus, alleluia: ante conspectum gentium revelavit iustitiam suam, alleluia, alleluia.
Ps. Salvavit sibi dextera eius: et brachium sanctum eius.
【アンティフォナ】歌え,しゅに向かって新しい歌を,ハレルヤ。主は驚くべきことをなさったから,ハレルヤ。異邦人らの見ている前で彼は御自身の正義を啓示なさった,ハレルヤ。
【詩篇唱】彼の右の御手は御自身のために救いをなされた,彼の聖なる御腕は。

↑  今回は敢えて,ソレム修道院の古い録音。
ネウマに基づく今の歌い方とは異なるが, 
これはこれで味わいがあると思う。     

 アンティフォナの出典は詩篇第97 (ヘブライ語聖書では第98) 篇第1節前半と第2節後半であり,復活節ゆえに加えられている "alleluia" を除けば,テキストはローマ詩篇書に一致している。
 詩篇唱にとられているのも同じ詩篇であり,ここに掲げられているのは第1節後半 (アンティフォナで飛ばされている部分の一部) である。こちらのテキストはVulgata=ガリア詩篇書に一致している。
 (「ローマ詩篇書」「Vulgata=ガリア詩篇書」とは何であるかについてはこちら。)
 

【対訳】

【アンティフォナ】

Cantate Domino canticum novum, alleluia:
歌え,しゅに向かって新しい歌を,ハレルヤ。

quia mirabilia fecit Dominus, alleluia:
驚くべきことを主はなさったから,ハレルヤ。
別訳:不思議なわざを (……)

ante conspectum gentium revelavit iustitiam suam, alleluia, alleluia.
異邦人らの見ている前で彼は御自身の正義を啓示なさった,ハレルヤ,ハレルヤ。

  •   「御自身の正義を啓示」するとは,自身の民を救うこと。詩篇唱で述べられる。

【詩篇唱】

Salvavit sibi dextera eius:
彼 (主) の右の御手は御自身のために救いをなされた,

  •  アンティフォナと詩篇唱とはそれぞれ独立したテキストになっていることも多いが,今回はつながったものとして考えられているようで,ここ詩篇唱の第1文でいきなり「彼の (eius)」という代名詞が出現する。アンティフォナに現れる「主 (Dominus)」を指していると考えることになる。

  •   「主」が「御自身のために救いをなされた」というのはどういうことかだが,「自身の栄光のため,自らのものである民を救った」と理解すればよいだろう。この詩篇の第2節や第3節で,単に神の民が救われたということだけでなく,それを異邦人たちが見たということが言われているからである。
     なお,まさに「御名の栄光のために」助けてくださいと祈る言葉が詩篇第78 (ヘブライ語聖書では第79) 篇第9節にあるが,これは異邦人に攻め込まれている状況での言葉であり,ここにも「神が自分の民を救うこと=神が栄光をあらわすこと」という考え方が見られる。

et brachium sanctum eius.
彼の聖なる御腕は。

  •  前の文のうち「彼の右の御手は」という部分の言いかえだが,残りの「御自身のために救いをなされた」に対応するものは省略されている。
     

【逐語訳】

【アンティフォナ】

cantate 歌え (動詞canto, cantareの命令法・能動態・現在時制・2人称・複数の形)

Domino 主に

canticum novum 新しい歌を (canticum:歌を,novum:新しい)

alleluia ハレルヤ

quia なぜなら~から (接続詞)

mirabilia 驚くべきことを,不思議なわざを (複数形)

fecit した (動詞facio, facereの直説法・能動態・完了時制・3人称・単数の形)

Dominus 主が

alleluia ハレルヤ

ante conspectum gentium (神の民イスラエル/ユダヤ人の対概念としての) 異邦人たちの見ている前で,諸国の民の見ている前で (ante:~の前で,conspectum:見ること,まなざし,視野,そこにいること [対格],gentium:異邦人たちの,諸国の民の,諸民族の)

revelavit 彼が覆いを取っ (て見えるようにし) た,啓示した (動詞revelo, revelareの直説法・能動態・完了時制・3人称・単数の形)

iustitiam suam 自らの正義を (iustitiam:正義を,suam:自身の)

alleluia, alleluia ハレルヤ,ハレルヤ

【詩篇唱】

salvavit 救った (動詞salvo, salvareの直説法・能動態・完了時制・3人称・単数の形)

  •  目的語がないが,対訳の部で述べたようなことから,ここでの救いの対象は神の民であると考えられる。

sibi 自身のために (与格)

  •  利害の与格。

dextera eius 彼の右手が (dextra:右手が,eius:彼の)

et (英:and)

brachium sanctum eius 彼の聖なる腕が (brachium:腕が,sanctum:聖なる,eius:彼の)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?